俳優の松方弘樹(64)=写真=が、満を持して時代劇スターだった父の故・近衛十四郎(このえ・じゅうしろう)さん(享年61)=同下=の代表作に挑戦する。約50年間続いたテレビ朝日系の連続時代劇枠の掉尾(とうび)を飾る作品だが、父、時代劇への思いとは−。
番組は、17日スタートの「素浪人・月影兵庫」(火曜午後7時)。豪放磊落な旗本の次男坊・月影兵庫(松方)が旅先で遭遇するトラブルを解決する勧善懲悪ものだ。
十四郎版は65−68年に2期にわたって放送。68年2月には、テレ朝系ドラマで歴代2位の視聴率35.8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録。まさに時代劇全盛期の金字塔だった。
ところが、近年は視聴者の時代劇離れが続き、テレ朝としては、苦渋の決断で、今回が最後の時代劇枠となった。「遠山の金さん」などを演じてきた松方の心境は複雑だ。
「切ないですよ。時代劇は絶え間なく継承すべきもので、新たにやろうと思ったら大変な努力がいる。途絶えてしまうのは、日本文化にとって大変な損失です」
すでに「柳生十兵衛」シリーズなどで父の役を引き継いでいるが、月影兵庫役には特別な思いがある。
「引き受けるのに、3日間考えました。何しろおやじが3年もやっていた役ですから、生半可な気持ちじゃできない。でも、僕はおやじのようなコワモテではなく、鶴田浩二のような甘さが半分入っている(笑)。おやじとは違う兵庫を演じてみようと思った」
父親が他界したのは1977年。撮影にあたっては墓前に、「エラい大役や。見守ってくれ」とあいさつ。父の素顔をこう振り返る。
「朴訥(ぼくとつ)な親。小言はあっても、演技指導されたことはないです。昔の役者らしく、おやじは月に1回家に帰ればいい方。何しろ、お茶屋から撮影所に通っていたぐらいですから。京都には行きつけの店がたくさんあって、僕もツケでずいぶん飲んだ」
デビュー時から、京都・太秦の東映撮影所で「近衛さんトコの坊や」「お兄ちゃん」とかわいがられていた松方。俳優としての自覚が芽生えたのは、実は、父を亡くしてからだという。
「出た作品は多かったけど、やはり父に甘えていた。亡くなる前に頑張っていたら、今ごろ、もっと“うだつの上がる”役者になっていたと思う。やっと独り立ちできたと思えたのは、(84年の)『修羅の群れ』のころでした」
酒豪だった父とは違い、6年以上前から酒を絶ち、健康管理にも気をつけている。
「役者にとって男ざかりは、40歳から55歳。そこで、どのくらい仕事に恵まれ、勉強したかが物を言う。あとは体力を維持すれば、70代以降でも役者はできる」
さて、父をうならせることはできるか。
まつかた・ひろき 俳優。1942年7月23日生まれ。東京都出身。60年に映画「十七歳の逆襲 暴力をぶっ潰せ」で主演デビュー。「仁義なき戦い」シリーズ、「柳生一族の陰謀」など出演作多数。
ZAKZAK 2007/07/17