「私にはこんな面もあるんだよ」というのを伝えたい
吉田知加



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 吉田知加の3枚目のマキシシングルが届いた。タイトルの“残骸”という言葉選びのセンスからして彼女らしさを感じさせるが、その歌詞の内容もやはり“らしい”ものだった。また、カップリングの「蜜月のこい」は今までにない幸せな瞬間を歌ったものなのだが、主人公の女性が自分のことを“不完全なあたし”と言ってしまうあたりは、やはり彼女らしく、今回も歌詞に登場する主人公の女性が吉田知加の分身であるということがうかがえる。つまり曲が発表されればされるだけ、吉田知加像が明確化してくるのだ。そして、彼女はそんな歌のことを“カタルシスの場”だと語ってくれた。

 

女っていうか
人間は多面体なんだ


●最新作「残骸−のこりもの−」は3枚目のマキシシングルとなるのですが、その選曲で意識したところはありますか。

吉田知加(以下吉田):最近すごく思うんですけど、一番最初に出したのが「こうぶつ」と「束縛」でほんとに良かったなって。この「残骸」もそのころにはすでにあって、それらと同じぐらいにできた曲なんで、出そうと思えばすぐにでも出せたんですよ。でも、「こうぶつ」の後は絶対に「刹那系」(2ndマキシシングル)が良かったんですね。もしも「こうぶつ」の後に「残骸」が来っちゃたら、私が思っている方向性みたいなものと違ってしまったと思うんです。だから、「刹那系」を出したから「そろそろ『残骸』を出すか」という感じだったんですよ(笑)。

●では、カップリングの「蜜月のこい」との組み合わせというのは? ある意味対極にあるような曲同士ですよね。「蜜月のこい」が今までの曲とテイストが違うというか。

吉田:そうですね。でも、曲のテイストが違うからって歌詞の主人公が全く違うわけではなくて、この2曲というのは同じ人格なんですよ。「蜜月のこい」があったから「残骸」があったと言えるぐらい、この2曲はつながっているんです。とにかく私は女は…女っていうか、人間は多面体なんだということを知って頂きたくて、この組み合わせにしました。

●そういう意味では、知加さんの歌詞には人間というか、女の人のいろんな面が描かれていますよね。

吉田:「女にはこんなときもあるんぞ」という感じですよね(笑)。今回の「残骸」は例えて言うのなら「刹那系」が戯言(たわごと)で、「残骸」は好きな人とした痴話喧嘩で言った言葉みたいなもんなんですよ。それぐらい勢い付いて書いた歌詞なんですね。たわいもないことで喧嘩をしてしまったときに、普段は思っていないようなことでも、勢いで言ってしまったりするじゃないですか。「だいたいあんたはね〜」って(笑)。それぐらい「あっ、こんなことまで言っちゃた」みたいな勢いがあるというか…別に意識してそういう内容のものを書いたんじゃなくて、ほんとにそのときのイライラが爆発してできたみたいなものなんですよ。

●確かに「残骸」の歌詞からは主人公の女性の苛立ちが感じれますね。自分が嫌いなトマトが部屋に残されているところとかの描写もリアルだし。

吉田:「お前が食べて行かないから、残っちゃったじゃないか!」みたいなね(笑)。だから、最初は彼氏がいなくなったことにあまり気付いてなくて、「あれ? ない!」ってなったときに一気にバーンと爆発したという感じなんです。

●この曲の歌入れのときはどんな感じでしたか。ルーズなアレンジのせいか、70年代のフォークや歌謡曲のテイストが感じれるのですが、そういうグルーブに乗って歌うのは結構気持ち良かったのでは?

吉田:そうですね。自分の気持ちとアレンジがすごく合っていたからとても気持ち良く歌えました。

●やはりアレンジを依頼するときは、いろいろ注文を出したりするのですか。

吉田:はい。でも、細かいところまでうまく言えないから、なんとなくのイメージで言ってしまうんですよ。この「残骸」のときは、「荒々しい感じで〜」とか「机の上のものを一気にバーンってやるような感じで〜」というふうにしか言えなかったんですけど(笑)、自分の中にあった「残骸」の世界みたいなものがうまく表現されたアレンジに仕上てもらえました。でも、最初はサックスが入ってなかったんですよ。曲の最後の方で私が叫んだりしているんですけど…それもレコーディングに入る前に「最後に叫ぼう」と思っていたんじゃなくて、結果的に叫んでいたという感じだったんですよ。だから、それに合うように後からサックスを入れてもらいました。

●そのサックスがいい味を出していますよね。

吉田:カッコいいですよね。

●あの奇声との絡みがいいですよ(笑)。

吉田:奇声を発してますね(笑)。あの叫びも最後の方になるとナチュラルハイになって、すごく楽しかったですよ(笑)。

●その奇声も主人公が苛立っていたから、「ついにキレた」という感じでした(笑)。

吉田:キレた(笑)。「女は誰でもこんな一面があるんだぞ」というのを聴いて頂きたかったというのはありますね。


歌うことで
自分を再認識している

●カップリングの「蜜月のこい」についてもうかがいたいのですが、この曲は今までの情念タイプの曲ではないですよね。やはり曲の作り方が違ったりするのですか。

吉田:この曲は作るときにきっかけがあったんですよ。男友達としゃべっていて…彼が彼女と一緒にいるときにすごく幸せだったそうなんですよ。彼女がいて、自分がいてってときに、彼女の後ろに鏡があったらしんですね。で、ふとその鏡に映っている自分の顔を見たら、今までに見たことがないぐらいにご満悦な顔をしていて、「俺、こんな顔をするんだ」って思ったって。その話を聞いたときに「ああ、好きな人と一緒にいるときって、そういうすごく幸せに思う瞬間ってあるよな」とか思ったんですね。別に一緒にいる時間ずっとじゃなくて、その一定の時間というか…「相手の欲と自分の欲というのがうまく包み込み合える瞬間ってあるよな」という感じで、その話を聞いて私はよみがえれたんですよ(笑)。私は曲を作るときって「ああ〜」ってなって作っているから、どうしても情念タイプの曲になってしまうんですよね。だから、いつも「さみしい〜」とか「独りぼっちだわ」という感じになってしまっている(笑)。そういうときって、こういう幸せな気持ちを忘れてしまっているわけですよ。もちろん私にもこういう気持ちはあって…でも、その時間というのはすごく短くて5秒ぐらいなんです。ほんと“絶頂”という言葉が合うぐらい。で、この「蜜月のこい」というのは、その世界に入ったときに一気に作った曲なんで、5秒間ぐらいのことを歌ったものなんですよ。最初に“なんにも無い”という言葉が出て来て、そこからバーって作ったという、「残骸」とはまた違った勢いのある曲なんです。

●また、この曲は歌い方が今まで知加さんとは別人のようで、さわやかな感じがしました。

吉田:“さわやか”なんて初めて言われましたね(笑)。ほんといつも怒り爆発で、泣く寸前みたいな感じだったんですけど、この曲に関してはレコーディング中も幸せで、ニヤニヤしながら歌えてすごく気持ちが良かったです。

●やっぱり歌うときは歌詞の主人公になってしまいますか。

吉田:そうですね。その世界にどっぷりとつかっている感じです。

●この歌詞の主人公はそうやって幸せなはずなのに、“不完全なあたし”や“「愛」っていう偶想”と言っているところが知加さんらしいと思ったのですが。

吉田:そこって私というものが出ていると思うんですよ。前も言いましたけど、私は「どうせダメだから」とかすぐに言ってしまうから、すごく私らしい歌だなって。で、これはレコーディングとか全部やり終わった後にふと気付いたんですけど、「私は依存してないよ」って言いながらあがいている自分が見えて…作ったときはそんなことは意識していなかったんですけど、そこもまたずごく吉田知加というものが出ているなって思いました。そんな“不完全なあたし”ってすぐに言ってしまうようなところを、いい加減に治そうとは思うんですよね。聴いてくださっている人もうんざりしてくるんじゃないかなって思うし(笑)。でも、治らないんですよ。私って強気のときと弱気のときの差が激しいなって思うし、「ダメだから」とか言っているのにやたらと開き直ったりして、厄介な人だって思ったりもするんですよね。強がっているのに「さみしいんだよ!」って半ギレになったりもするし(笑)。あと、私は自分で自分のことを穏やかな人間だと思っていて、極力争いごととかは避けたいと思っているんですけど、あるポイントにぶつかると自分の反発精神が旺盛になるんだなってことにも最近気付きました(笑)。そういう自己分析を最近してます。

●そうやって自己分析するために曲を作っているようなところもあるのでは? 

吉田:歌うことで自分を再認識しているところがありますね。だから、自分のイヤなところも見られたりするし、曲によっては気付きたくないことにまで気付いてしまうことだってあるんですよ。「そんなことまで別に歌わなきゃ歌わないで済むのに」って毎回思うんですけど、自分の中から自然に出てきたものだから、やっぱりそれは包み隠さないで聴いてもらいたいし…だから、今、聴いてくださる人がどんどん増えているというのはすごくうれしく思っているんですよ。それにこういうふうにインタビューをして頂いて、「この曲は〜」って言っているときに、自分が無意識でやっているところにもすごく自分らしさが出ていることに最近気付いたんで、インタビューはやってておもしろいですね。

●インタビュアーの感想や意見も聞けるから、そういうのも興味深い?

吉田:そうですね。それで自分が気付かないところに気付くっていうか…「ああ、なるほど! 確かに私が出ている!」ってなったりしますね。

●そういう意味では知加さんは他人のために歌を作るのではなくて、自分のために作っていると思うのですが。

吉田:ああ、よくメッセージ性がないと言われますよ。でも、自然に出てくるものがこういうものなんですよね。“輝く明日に向かって頑張ろう!”っていうのは出てこないし、私には書こうと思っても書けないだろうし、書こうとも思わないから、私の曲を受け入れてくれる人は受け入れてくれるけど、その反面ダメな人もいっぱいいると思っているんですよ。だからってみんなが共感するような曲を書くのもイヤだから、聴いてくれる人が聴いてくれれば一番いいと思っているんで、受け入れられる人が受け入れてくれればいいですね。それによって自分も救われるし、「もっと聴いてくれ!」と思いますからね。「私にはこんな面もあるんだよ」っていう感じで聴いてもらいたいものがまだまだいっぱいあるんですよ。

●どんどん「聴いてくれ!」みたいな欲が強まってきている?

吉田:「こんな面もあるんだよ」というのを聴かせたくなってしまって…自分が曲を作って、それを音源化して、みなさんに届けるまでの期間って結構あるじゃないですか。それがやるせないんですよ(笑)。だから、前はまるで日記のような感じで、誰に聴かせるわけでもないけど作ってたんですけど、今は絶対に聴き手が存在していますね。「私にはこんな面もあるんだよ」というのを伝えたいというか。

●抽象的な質問になりますけど、知加さんにとってそんな歌とはどんなものですか。

吉田:ひと言で言うのなら、カタルシスの場だと思っているんですよ。どんな人間にもそういう場がないと生きていけないと思うんですけど、それが私にとっては歌なんだろうなって。なので、なくてはいけないんです(笑)。それに歳を重ねるごとに、やっぱり歌ってる内容も変わっていくと思うんですよ。もしかしたら「孤独なんて消えたわ」というぐらいに幸せな歌を作るかもしれないし、「自然を大事にしよう!」という歌を作っちゃうかもしれない。それが自分自身でもすごく楽しみですね。で、それを受け入れてくる人に受け取ってもらいたいですね。



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new maxi single

『残骸−のこりもの−』

GZCA-1059
GIZA studio
\1,260
1月24日発売

 

 

 

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