土器の分析-1


●テオティワカンの土器の基本的な器種
 テオティワカン遺跡では多くの土器の器種が報告されている(Bennyhoff and Millon 1967、Rattray 1981、Blucher 1971)。ここでは、パトラチケ期からミカオトリ期に出現する器種に関してとりあげる。また、Bowlに関しては、胴部や口縁部の形に注目して細分している。
 Olla(大型壺):頚部が外反する大型の短頚壷(図4- 5-1 :a)。
 Jar(壺):Ollaより小型で、頚部が外反する短頚壷(図4-5-1:b)。
 Tecomate(テコマテ):口径が15cm〜 30cmの胴部が強く内湾し、最大の胴部直径が口縁
 部直径より大きくなる無頚壷(図4-5-1:c)。
 Bowl(碗)
   Simple Bowl :胴部がなだらかに内湾する碗(図4-5-1:d)。
   Flaring Bowl :胴部が外傾する碗(図4-5- 1:e)。
   Outcurving Bowl:胴部および口縁部が外反する碗(図4-5-1:f)。
   Incurving Bowl :胴部が内湾する碗(図4-5- 1:g)。
   Shouldered Bowl:胴部の中央部または上部にかけて突出部をもち断面図では”S”字型の
   形の胴部になる碗(図4-5-1:h)。
   Angled Bowl :なだらかに内湾する胴部から口縁部が垂直に立ち上がる碗(図4-5-1:i-j)。
   Corrugated Bowl:口縁部断面が波型になる碗。
   Pinched Bowl:波状の口縁部を持つ碗。
 Vase(シリンダー状の鉢):平底で胴部が直立または外傾するシリンダー状の鉢(図4-5-1
 :k-l)。
 Dish(皿):器高がBowlより低い平底の皿(図4-5- 1:m)。
 Plate(皿):器高がDishより低い平底の皿(図4-5- 1:n- o)。
 Comal(コマル):胴部がほとんど無い丸い鉄板状の皿(図4-5-1:p)。
 Cazuela(カスエラ):口縁部が多く外反する大型の深鉢(図4-5-1:q)。
 Basin(ベイズン):器厚が厚く胴部が外傾あるいは直立する平底の大型の鉢(図4-5-1:s)。
 Florero(フロレロ):口縁部が大きく外反し頚部が直立あるいは内傾する小型の長頚壷(図
 4-5-1:r) 。
 Amphora(アンフォラ):頚部が直立あるいは内傾し、取っ手が胴部に付く器高の高い大型
 の壷(図4- 5- 1:t- u)。
 Tlaloc Jar(トラロックの壺):器の正面にトラトック神が塑像されている儀式用の壷(図
 4-5-1:v)。
 Incensario(インセンサリオ):香炉、様々な器形がある(図4-5-1:w)。
 Cover:器の蓋(図4-5-1:x)。
 Miniature:ミニチュア土器、様々な器種がある。
 Support:土器の底部に付けられる脚。
図4-5-1
佐藤 2002より引用



●層位及び出土土器数
 2001年はトンネンル発掘区(領域A)で確認された56層、79層、80層出土の土器について主に分析した。56層は、月のピラミッドの第1期プラットフォームの下層にある自然堆積層であり、テオティワカンの中心部における居住開始を調査するキーとなる層位である。79層、80層は第1期の月のピラミッド建築時に盛土(relleno)として使用された土であり、第1期の建造物の年代を知る上で重要な層位である。
 それぞれの層位の出土土器片数は、下記に示すとおりである。
  56層 (自然堆積層) :2,090片
  56層、79層(56層と79層が交じり合った層位) :2,363片
  79層 (第1期プロットフォームの盛土) :1,247片
  79層、80層(79層と80層が交じり合った層位) :1,258片
  80層 (第1期プロットフォームの盛土) :17片
  Total :6,975片
図4-5-2
杉山 2002より引用


●土器の分類-1
 2001年に分析した上記出土の土器は、現段階では33の土器ユニットに分類された。(最終的なタイプ名は、まだ付けられていないので暫定的な名称がにそれぞれのユニットに付けられている)。これらの土器ユニットは、表面調整や装飾技法の属性から 10にグループ化してある。
 (1)Resist Group (図4-5-2:a,b)
  ネガティヴ文様を持つグループで、胎土は少数のテンパーを含むが良質である。表面は良く
 研磨されている。シリンダー状の鉢、碗などがある。スリップの有無、胎土の違い等により5つ
 のユニットに細分される。
 (2)Red on Orange Group(図4-5-2:c)
  オレンジのスリップの上に赤色のペイントを持つグループで、良質の胎土、表面は良く研磨さ
 れている。器種は、碗やシリンダー状の鉢が見られる。胎土の特徴の相違等により3ユニット
 に細分される。
 (3)Red on Natural Group (図4-5-3)
  スリップのかけられていない褐色の表面に赤色のペイントが施されるグループで、胎土は良
 質、表面は研磨されている。器種は、碗、シリンダー状の鉢がある。胎土や表面調整の相違
 により3ユニットに細分される。
 (4)Red and Black on Natural Group(図 4- 5-2:d-f)
  スリップのかけられていない褐色の表面に赤色と黒色のペイントが施されるグループで、胎
 土は良質、表面は研磨されている。器種は、碗がある。表面調整の相違により2ユニットに細
 分される。
 図3-4-3
 ↓
杉山 2002より引用