棒高跳び:グラスファイバーの恩恵を受けたポール

 棒高跳びは唯一個人専用のポールを用意できる種目です。ポールの反発力を使って高く跳び、地面に平行にセットされている横木の上を飛び越します。どれだけ高い位置の横木を飛び越えられるかを競います。

 同じ跳躍でも、走り高跳び(High Jump)のような「ジャンプ」とは呼びません。「手で棒を用いて飛び越える」というスタイルから、英語ではPole Vault(ポール・ボールト)といい、競技者も「ジャンパー」ではなく「ボールター」と呼ばれます。この種目は高度な技術が必要なため、陸上競技の中で「完璧なり難い種目」と呼ばれていることを初めて知りました。その歴史も、興味深いものでした。

 棒高跳びの起源は古く、紀元前1829 年頃ともいわれています。その昔イギリスで、羊飼いが杖を使って柵や運河、小川、溝、濠などの障害物を跳び越していたときの実用術が、その発祥であるようです。やがて仲間同士で川幅や柵の高さを競うようになり、競技の原形が出来上がりました。

 イギリスで盛んになった競技ですが、産業革命期までの16~18世紀には「棒幅跳び」でした。高跳びではなく幅跳び。そうなんです、初期は弾力性に乏しい木製ポールを使っていたため、高さではなく距離を競うものでした。

 その跳び方は「木登り法」と呼ばれております。鉄製の穂先が木製ポールの先についており、その穂先を地面に突き立てて、木登りのようにポールを登り、ポールが倒れる前にバーを飛び越すという内容でした。ポールから飛び出して、あとは地面に着地します。

 普通に考えれば、長いポールの方が距離は伸びることになります。しかし、材質が木では、長くすると非常に破損しやすくなりました。その後、1866年にイギリスの大会で、棒高跳びが陸上競技種目としてメジャーになり、1889年に木登り法は禁止となりました。