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“K-POP日本版”が意味すること──JO1とNiziUは抹茶ティーラテになるか

松谷創一郎ジャーナリスト
2020年8月14日、韓国・ソウルの大型ビジョンに映し出されたJ.Y.Park。(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

“K-POP日本版”の大ヒット

 “K-POP日本版”とも言うべき、ふたつのグループがヒットを続けている。

 9人組の新人ガールズグループ・NiziUは、プレデビュー曲「Make You Happy」がビルボードチャートHOT100で7月13日付の初登場から13週にわたって10位圏内を維持。YouTubeのミュージックビデオも1億2500万回再生を突破した。本デビュー前かつ新型コロナ禍でメディア稼働が限定的ななか、驚くほどのヒットだ。

 11人組ボーイズグループ・JO1も好調だ。8月にリリースした2ndシングル「OH-EH-OH」は、ビルボードチャートHOT100で1位を獲得。3月のデビュータイミングが新型コロナウイルスの流行と重なった不運もあったが、徐々に盛り返してきている印象だ。

JO1「OH-EH-OH」(2020年/Amazonより)。
JO1「OH-EH-OH」(2020年/Amazonより)。

 この両グループの共通点は、K-POPのプロダクションが手がけ、メンバーのほとんどが日本出身で、かつ日本での活動から出発していることだ。NiziUは、TWICEなどを生んだJYPエンターテインメントとソニーミュージック・エンタテインメントによる『Nizi Project』から誕生した。JO1も、韓国の総合エンタテインメント企業・CJ ENMと吉本興業が組んだオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN』から生まれた。

 2001年にBoAがデビューしてから20年目の今年、K-POPの日本展開は新たな局面に突入した。

BoAから始まったK-POPの日本進出

 K-POPの本格的な日本進出は、21世紀になって始まった。それは大きく4段階に分けられるだろう。

 嚆矢となったのは、やはりBoAだ。後に東方神起や少女時代を生むSMエンターテインメント所属の彼女は、2001年に14歳で日本デビューした。ただ、その活動はJ-POP歌手としてのもので、彼女を韓国人と認識していないひとも少なくなかった。BoAに続いたのは、当時5人組だった東方神起だ。2005年に日本デビューし、ブレイクしたのはそれから2年後のこと。2008年末にははじめて『紅白歌合戦』にも出場した。

ブレイク曲となったBoA「LISTEN TO MY HEART」(2002年/Amazonより)。
ブレイク曲となったBoA「LISTEN TO MY HEART」(2002年/Amazonより)。

 BoAと東方神起などによって10年かけて徐々に浸透していったK-POPが、定着期に入ったのは2010年のKARAと少女時代のデビュー以降だろう。J-POPへの適応を第一としていたBoAや東方神起とは異なり、この両グループは既存曲の日本語歌詞版で進出するローカライズ(現地化)戦略を採用した。K-POPの日本進出が活性化するのも、彼女たちの成功によるところが大きい。

 しかし2012年、イ・ミョンバク大統領(当時)が、日韓政府がともに領有権を主張する竹島(独島)に上陸する。これによって、日本ではマスメディアを中心としたK-POP熱は一気に収まるが、インターネットを通じてK-POP人気は続いた。

2017年2月14日、デビュー前にもかかわらずSHIBUYA109に掲示されたTWICEの広告(筆者撮影)。
2017年2月14日、デビュー前にもかかわらずSHIBUYA109に掲示されたTWICEの広告(筆者撮影)。

 この時期に生じた大きなトピックは、PSY「カンナム・スタイル」の世界的な大ヒットだろう。この曲はグローバル展開を目指していたわけではなかったが、欧米を中心に大人気となる。アメリカ・ビルボードチャートHot100では7週連続で2位にランクインしたほどだ。日本での活動はなかったが、YouTubeを通じて日本にEDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)を伝える大きな役割を果たした。

 2015年以降は、さらなるK-POP人気の拡大期と言える。この時期、スマートフォンとSNS、加えてストリーミングサービスの浸透により、音楽受容のスタイルも大きく変わった。ここでブレイクしたのが、現在も人気のBTS(防彈少年團)やTWICE、BLACKPINKなどだ。なかでもTWICEには日本出身のメンバーも3人含まれており、グローバル展開するK-POPを象徴するかのようなグループだ。また、日本デビューアルバムのタイトルが『#TWICE』であったことも、SNS時代のヒットグループであることを意味している。

10年で18倍成長したK-POP輸出

 8月、BTSは新曲「Dynamite」でアメリカ・ビルボードチャートHot100で2週連続1位を獲得した。2012年に2位止まりだったPSYを超える快挙だ。

 こうしたK-POPのグローバル展開の成功は、数字上の裏付けもある。輸出額は、少女時代とKARAが日本デビューする前年の2009年は3100万ドル程度だったが、2018年には約5億6400万ドル(約620億円)にまで大きくなった。10年で約18倍の成長を見せたことになる。

筆者作成。
筆者作成。

 コンテンツの海外展開に積極的なのは、国内マーケットが限られているからだ。人口は日本の4割ほどの5200万人であり、少子高齢化によって今年から人口の自然減も始まったと見られる。

 ただ、そもそも韓国は四方を中国・日本・ロシアと大国に囲まれた半島に位置する。GDP世界2位と3位のマーケットが目の前にある状況で、貿易に力を入れるのは地理的に当然だ。実際、輸出入額をGDP(国内総生産)で割った貿易依存度は、2018年で70.3%(出典:国連)にもなる。日本が29.3%にとどまるのとは対照的だ。

筆者作成。
筆者作成。

 音楽輸出額の内訳を見ると、欧米は足しても3%に満たない。中華圏(中国・香港・台湾)も伸び悩んでいる。K-POPにとって、当初からもっとも大きく、いまも右肩上がりの成長を見せているのは日本のマーケットだ。2018年は、全体の約3分の2を占める3億6700万ドル(約400億円)にも成長した。

閉鎖的な日本の芸能界に風穴を開ける

 日本の音楽系芸能プロダクションにとって、K-POPの進出は脅威でもあるはずだ。実際、今年ライジングのフェアリーズは解散状態となり、LDHのE-Girlsも年内での解散が発表された。女性をターゲットとし、アイドルとして売り出さずにパフォーマンスに重点を置いた両グループは、結果的にK-POPの前に散った。それはメンバー個々の問題ではなく、楽曲やダンスなどプロデュースにおける敗北だった。

 また、最近では日本から韓国に渡って活躍する存在も目立ってきた。2015年にデビューしたTWICEの3人以降に増えてきた。象徴的だったのは、オーディション番組『Produce 48』への出演を期にAKB48を卒業し、韓国でRocket Punchの一員としてデビューしたジュリ(高橋朱里)の存在だ。日本で十分な人気を得ていた彼女は、韓国に将来を見た(「高橋朱里が『PRODUCE 48』で痛感した『日本と韓国の違い』」)。

 9月18日にデビューしたばかりの男性12組グループ・TREASUREにも、日本出身者が4人いる。YGエンターテインメントによるこのグループは、今後同社が生んだBLACKPINKに続いてグローバルマーケットに打って出るのは確実だ。

筆者作成。
筆者作成。

 こうした状況となっているのは、端的に言って、日本の音楽業界と音楽系芸能プロダクションが鈍感だったからだ。インターネット時代であるにもかかわらず、既得権益を守るべくCD販売と地上波テレビを軸とする20世紀型のビジネスモデルを闇雲に続け、結果、そこをK-POPにこじ開けられた。加えて、スターを夢見る若者たちはグローバル展開を前提とするK-POPにどんどん流出している。

 もちろん、K-POPはそうした保守的な日本の音楽業界や芸能界と対立してきたわけではない。JO1のCJ ENMは吉本興業と、NiziUのJYPエンタはソニー・ミュージックとそれぞれ手を組んだ。それは、日本の音楽マーケットに対する配慮であり戦略だ。いまだに地上波テレビを軸として政治的な力学が働く日本の芸能界は、極めて閉鎖的だからだ。同時に吉本興業やソニー・ミュージックにとっては、K-POPのノウハウを得るための渡りに船だったはずだ。

 今後の大きなポイントとなるのは、JO1の音楽番組への登場だろう。同グループは、完全にジャニーズと競合する。しかも、メンバーには元ジャニーズJrもひとりいる。それを踏まえると、これまでの日本の芸能界ではその活動は簡単ではない。だが、すでにダウンタウンが司会を務める不定期番組『HEY!HEY!NEO!』(フジテレビ)では、ジャニーズ所属タレントと間接的に共演している。この背景には、公正取引委員会が芸能プロダクションの圧力(共演NG)を監視している側面もある。

 音楽の質だけでなく、K-POPは閉鎖的な日本の芸能界にも風穴を開けようとしている。

新展開・ローカルプロダクション

 JO1とNiziUは、過去20年にわたるK-POP日本進出における新展開だ。その方法論は、これまでに見られた3段階の展開とは明確に異なる。

 これまでは、日本向けの楽曲制作(J-POP化)や日本語歌詞版を創るローカライズ(現地化)が中心だった。しかし、JO1とNiziUは日本でメンバーを集め、日本での活動を最大の目的としている。

 NiziUをプロデュースするJYPエンターテインメントのJ.Y.Parkは、『Nizi Project』の冒頭でこう話している。

「日本の人材を発掘して、教えて、私たちが持っているK-POPと融合させる」

 つまり、ローカルプロダクション=現地生産だ。

 それは、これまでのローカライズ(現地化)を一歩進めた方法論だ。制作手法や技術(ノウハウ)はK-POPから輸出するが、人材(メンバー)は現地で発掘し、マーケットも現地を中心とする。映画業界では、ワーナー・ブラザースが『るろうに剣心』などでやり続けてきた方法論だ。

筆者作成。
筆者作成。

 JO1やNiziUのようなローカルプロダクションが目指すゴールは、単に日本国内での成功ではない。その先に見ているのは、日本を起点にグローバルマーケットに進出することだ(※1)。

 NiziUはすでに「Make You Happy」の韓国語版もYouTubeで発表しており、海外展開の計画も進んでいるはずだ(※2)。

 その成功モデルのヒントとなるのは、スターバックスの抹茶ティーラテだろうか。日本で開発された独自商品である抹茶ティーラテは、現在は海外のスターバックスでも定番商品となっている。

海外でも人気のスターバックスの抹茶ティーラテ(スターバックス・オーストラリアHPより)。
海外でも人気のスターバックスの抹茶ティーラテ(スターバックス・オーストラリアHPより)。

 そしてまた、JO1やNiziUがグローバルで成功した場合には、K-POPやJ-POPといった境界もより薄れていくはずだ。抹茶ティーラテの“国籍”が曖昧なように、味が良ければ人気は拡大する。音楽も同様だ。日本でアヴリル・ラヴィーンやカーリー・レイ・ジェプセンをカナダ人だと認識していないひとも少なくないように。

 将来的にグローバル展開に成功すれば、JO1とNiziUからは“K-POP日本版”という認識も消えていくはずだ。

■注

※1:IZ*ONEも日韓合同プロジェクトとして始まったが、日本における活動は秋元康がプロデュースしているため、ローカルプロダクションとは言えない。

※2:NiziUのメンバーたちは、オーディション番組の後も韓国に滞在していると見られる。この韓国版の早い段階での発表は、新型コロナウイルスの流行によって日韓の往来が難しい状況だからだと考えられる。

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ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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