ジャブの連打で獲物を仕留めた恐鳥類

2010.08.20
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恐鳥類の頭蓋骨の化石(左)。現生のイヌワシ(中)とヒト(右)の頭蓋骨よりも大きい。

Photograph courtesy Ohio University
 絶滅して数百万年がたつ恐鳥類は、その名の通り(英語でもTerror bird)今でも恐ろしいと感じられる研究が発表された。飛べない鳥である恐鳥類は、大きな種では体高3メートルに達し、鍵状のくちばしのついた頭部はウマの頭ほどの大きさだった。その強力な頭を駆使してモハメド・アリさながらのスタイルで闘っていたという。 恐鳥類の頭蓋骨をCTスキャンと生体力学コンピューターモデルで分析したところ、素早く優雅に動く“ヒット・アンド・アウェイ(打っては離れ、離れては打つ)”スタイルで手斧のような頭蓋骨の連打で獲物を仕留めていた可能性が高いことが明らかになった。この狩猟法のおかげで、恐鳥類は先史時代の南アメリカ大陸で食物連鎖の頂点に君臨していたと考えられる。

 オハイオ大学整骨療法学部の古生物学者で研究の共著者ローレンス・ウィットマー氏はこう話す。「当時の南アメリカ大陸は、一風変わった場所だった。(それ以前の)恐竜の時代から孤立した大陸だったため、独自の進化が数多く起きていた」。

 約6000万年前に登場した恐鳥類は少なくとも18種にまで進化し、そのすべてが南北アメリカ大陸が陸続きになった約200万~300万年前までに絶滅した。恐鳥類に似た現生生物が存在しないため生態はほとんどわかっていない。

 今回の国際研究チームは恐鳥類の生態の手がかりを見つけるため、約600万年前に現在のアルゼンチン北西部に生息していた体長1.4メートルの恐鳥類アンダルガロルニス(Andalgalornis)の化石標本を分析した。

 CTスキャンで頭蓋骨の内部構造を詳しく調べたところ、ほとんどの鳥類よりもはるかに頑丈な構造であることがわかった。このデータを用いて工学的見地に基づく3Dコンピューターモデルを作成し、デジタルで再現した頭蓋骨が噛む・叩く・振るという動作をとった時に生み出される圧力を測定した。

 その結果、解剖学的にも生体力学的にも、ボクシングで言えば相手との距離を保って戦うアウトボクサーのような生態が示されたとウィットマー氏は説明する。

「頭蓋骨は手斧のような形で、獲物に真っすぐに振り降ろされた時は非常に強くて頑丈だが、横方向の力には弱かった。恐鳥類はファイタータイプではなく、獲物と組み合うことはできず、体をねじる動きも不得意だった。モハメド・アリのように舞うように動きながら、頭蓋骨の素早い正確なジャブを真っすぐ繰り返し打ち降ろして獲物を仕留めていたのだろう」。

 恐鳥類が生態系の頂点に上りつめたことからすると、この戦法は少なくとも数千万年間は極めて有効だったと考えられる。

「従来型の恐竜は絶滅したが、恐鳥類は多くの点で肉食恐竜が占めていた生態的地位を引き継いだと言えるだろう。恐鳥類は、頭の大きい二足歩行の大型の恐竜だったT・レックスに似たところがある。もっとも、恐鳥類もその獲物も恐竜の時代に比べれば小さいが」。

 この研究はオンラインジャーナル「PLoS ONE」誌で2010年8月18日に公開された。

Photograph courtesy Ohio University

文=Brian Handwerk

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