第120回 「寝言は夢での会話」のウソ

(イラスト:三島由美子)
(イラスト:三島由美子)
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 家族によれば、私は非常に寝言が多いのだという。内心ドキッとしながら、何をつぶやいているのか聞いてみると、「仕事をしている」のが手に取るように分かる内容とのこと。しかもゴニョゴニョつぶやくという可愛い寝言ではなく、極めて明瞭かつ比較的長文の鬱陶しい寝言らしい。

 最初に寝言を指摘されたのは結婚して間もない頃だが、20年以上経った今でも折に付け家庭内でその“発言内容”が話題になる。誰かと何かを相談したり、指示したり、講演のようなトークをしたり、先日など「一攫千金を夢見て!」と高らかに宣言したらしく、たまたま起きていた妻の失笑を買ってしまったようだ。

 どんな夢を見ていたのかと聞かれるのだが、私は全く思い出せない。これは不思議なことではない。なぜなら、寝言は夢の中での会話を反映していると思われがちだが、必ずしもそうではないからだ。実際、睡眠ポリグラフ検査を行いながら寝言を観察した研究によれば、夢をよく見るレム睡眠中だけではなく、浅いノンレム睡眠や深いノンレム睡眠(徐波睡眠)中など、あらゆる睡眠段階で寝言が生じることが明らかになっている。

 しかも、寝言を話している時に起こして夢を見ていたか質問しても、夢を見ていなかったと回答する場合が少なくない。つまり、夢を思い出せないのではなく、夢とは関係なく出現する寝言がかなりあることを意味している。したがって、「一攫千金を夢見て!」という寝言を話していても、必ずしもラスベガスで美女を侍らし、ルーレットに興じている夢を見ているわけではないのである。

 とはいえ、寝言と夢が全く無関係かと言えば、それも違う。レム睡眠中に寝言を話している時に起こし、その際に夢を見ていた場合には夢の内容と寝言が比較的一致する。一方、ノンレム睡眠中の寝言は夢との関連が乏しく、むしろ生活上のエピソードなど実際の記憶に関連するものが多いと言うから不思議である。となれば、聞かれて困る寝言はむしろノンレム睡眠中の寝言かもしれない。ちなみに、くどいようだが私はラスベガスに行ったこともなければ、普段の生活で宝くじを買う習慣もない。

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