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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を抑えるため、救急救命士、消防隊員、ソンコ・レスキュー隊のボランティアがナイロビ中央ビジネス街の消毒作業に当たった。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)

アフリカの大都市、ナイロビの新型コロナ対策 外出禁止令で格差が浮き彫りに

2020.04.16
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 新型コロナの出現で、ケニアの首都ナイロビには、隣り合いながらも隔たれた世界が出来上がった。

 ムサイガ地区やカレン地区といった住宅地はひっそりと静まり返り、通りには人影はない。この地区に暮らす住人たちは、広々とした邸宅の中で食料品や日用品をたっぷり携えて引きこもっている。一方、町の繁華街から数キロ南西にあるキベラ地区に目を向けると状況は一変する。ここは、25万人がブリキでつくった屋根の下で身を寄せ合うようにして暮らす、いわゆるスラム街。一日数ドルの賃金で食いつなぐのがやっとという人ばかりだ。ナイロビには、自然発生的に生まれたスラムが100以上存在するが、キベラはそのなかでも最大だ。

ギャラリー:ギャラリー:ケニア、ナイロビまで新型コロナ到達 感染症と対峙するアフリカの人々 21点(画像クリックでギャラリーへ)
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人口約25万人のスラム街キベラで今年3月末、激しい雨に降られて足を速める人々。(PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)

 ケニア社会の極端な格差は、世界でも例を見ない。5300万人の人口の0.1%以下が、その他の99.9%よりも多くの富を所有する。

 キベラに住むゼデキア・アグレさんは、毎朝日が昇る前に起床する。妻と5人の子と一緒に暮らす家は、ワンルームで窓すらない。壁はレースのカーテンで覆われ、家で唯一の木製テーブルは、ピカピカに磨き上げられている。キベラではほとんどの家がそうだが、ゼデキアさんの家にも水道はなく、トイレは共同だ。ゼデキアさんと妻のサラさんは、家の外に小さな露店を出して、石鹸やお菓子、古着などを売っている。

 夫妻にとって、手指消毒液やマスクなどは高すぎてとても手に入れられる代物ではない。こんな状態で自宅待機など、選択肢にはならない。「どうやって毎日食べていけというんです。私たちのどちらかが病気になってしまったら、どうなるんでしょう」と、ゼデキアさんは問う。

新型コロナウイルス検査で陽性反応が出たホテルの宿泊客を、救急車でケニヤッタ大学病院の隔離施設へ搬送するリーバイ・オングソさん。救急車を所有する会社エマージェンシー・プラス・メディカル・サービスは、ナイロビで10台、ケニア全土でさらに20台の救急車をCOVID-19感染者専用にしている。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
新型コロナウイルス検査で陽性反応が出たホテルの宿泊客を、救急車でケニヤッタ大学病院の隔離施設へ搬送するリーバイ・オングソさん。救急車を所有する会社エマージェンシー・プラス・メディカル・サービスは、ナイロビで10台、ケニア全土でさらに20台の救急車をCOVID-19感染者専用にしている。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
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街を消毒する前に防護服を着用するナイロビの消防隊員とソンコ・レスキュー隊員。(PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
街を消毒する前に防護服を着用するナイロビの消防隊員とソンコ・レスキュー隊員。(PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、当初は世界の豊かな国を襲ったが、拡大するに従ってアフリカでの感染者も急増している。人口12億のアフリカ大陸で初の感染者が出たのは2020年2月14日だが、場所はエジプトだった。しかし、わずか2カ月足らずで、新型コロナウイルスはアフリカ大陸全域に広がった。20年4月10日時点でのケニアの累計感染者数は184人、死亡者は7人と報告されている。だが、ケニア全体で検査を受けたのはわずか5500人なので、実際に感染した人の数はもっと多いだろう。

「感染が報告された数だけでも、ケニアの対応能力をすでに超えてしまっています。感染者がもっと増えれば、人が路上で死ぬような事態になるでしょう」と、ある救急救命士は話してくれた。

ギャラリー:ギャラリー:ケニア、ナイロビまで新型コロナ到達 感染症と対峙するアフリカの人々 21点(画像クリックでギャラリーへ)
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ナイロビのジョモ・ケニヤッタ国際空港から隔離施設へ乗客を運んだバスを消毒する保健省職員。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)

 世界保健機関(WHO)のケニア代表ルディ・エガーズ氏は、キベラのようなスラム街は感染爆発のリスクが高いと懸念する。「多くの人が狭い場所に密集して暮らし、手洗いも満足にできない環境ですからね。ウイルスが爆発的に増えてもおかしくありません。難民キャンプでも同じことです」。ちなみに、ケニアには難民キャンプが2カ所あり、数十万人が暮らしている。

ファッションデザイナーのデビッド・アビドさん(24歳)は、これまでに6000枚以上のマスクを手作りしてキベラの住人に配布した。マスクを手渡しながら、ウイルス感染を防ぐ方法をアドバイスしている。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
ファッションデザイナーのデビッド・アビドさん(24歳)は、これまでに6000枚以上のマスクを手作りしてキベラの住人に配布した。マスクを手渡しながら、ウイルス感染を防ぐ方法をアドバイスしている。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
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非営利支援団体「シャイニング・ホープ・フォー・コミュニティーズ」のエノク・オチエングさん(右)とダルマス・オモロさんは、キベラへ出向いて住民の体温を測定している。COVID-19に感染した人の88%が発熱する。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
非営利支援団体「シャイニング・ホープ・フォー・コミュニティーズ」のエノク・オチエングさん(右)とダルマス・オモロさんは、キベラへ出向いて住民の体温を測定している。COVID-19に感染した人の88%が発熱する。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
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