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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を抑えるため、救急救命士、消防隊員、ソンコ・レスキュー隊のボランティアがナイロビ中央ビジネス街の消毒作業に当たった。 (PHOTOGRAPHS BY NICHOLE SOBECKI)
新型コロナの出現で、ケニアの首都ナイロビには、隣り合いながらも隔たれた世界が出来上がった。
ムサイガ地区やカレン地区といった住宅地はひっそりと静まり返り、通りには人影はない。この地区に暮らす住人たちは、広々とした邸宅の中で食料品や日用品をたっぷり携えて引きこもっている。一方、町の繁華街から数キロ南西にあるキベラ地区に目を向けると状況は一変する。ここは、25万人がブリキでつくった屋根の下で身を寄せ合うようにして暮らす、いわゆるスラム街。一日数ドルの賃金で食いつなぐのがやっとという人ばかりだ。ナイロビには、自然発生的に生まれたスラムが100以上存在するが、キベラはそのなかでも最大だ。
ケニア社会の極端な格差は、世界でも例を見ない。5300万人の人口の0.1%以下が、その他の99.9%よりも多くの富を所有する。
キベラに住むゼデキア・アグレさんは、毎朝日が昇る前に起床する。妻と5人の子と一緒に暮らす家は、ワンルームで窓すらない。壁はレースのカーテンで覆われ、家で唯一の木製テーブルは、ピカピカに磨き上げられている。キベラではほとんどの家がそうだが、ゼデキアさんの家にも水道はなく、トイレは共同だ。ゼデキアさんと妻のサラさんは、家の外に小さな露店を出して、石鹸やお菓子、古着などを売っている。
夫妻にとって、手指消毒液やマスクなどは高すぎてとても手に入れられる代物ではない。こんな状態で自宅待機など、選択肢にはならない。「どうやって毎日食べていけというんです。私たちのどちらかが病気になってしまったら、どうなるんでしょう」と、ゼデキアさんは問う。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、当初は世界の豊かな国を襲ったが、拡大するに従ってアフリカでの感染者も急増している。人口12億のアフリカ大陸で初の感染者が出たのは2020年2月14日だが、場所はエジプトだった。しかし、わずか2カ月足らずで、新型コロナウイルスはアフリカ大陸全域に広がった。20年4月10日時点でのケニアの累計感染者数は184人、死亡者は7人と報告されている。だが、ケニア全体で検査を受けたのはわずか5500人なので、実際に感染した人の数はもっと多いだろう。
「感染が報告された数だけでも、ケニアの対応能力をすでに超えてしまっています。感染者がもっと増えれば、人が路上で死ぬような事態になるでしょう」と、ある救急救命士は話してくれた。
世界保健機関(WHO)のケニア代表ルディ・エガーズ氏は、キベラのようなスラム街は感染爆発のリスクが高いと懸念する。「多くの人が狭い場所に密集して暮らし、手洗いも満足にできない環境ですからね。ウイルスが爆発的に増えてもおかしくありません。難民キャンプでも同じことです」。ちなみに、ケニアには難民キャンプが2カ所あり、数十万人が暮らしている。
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