津田直士「名曲の理由」 2nd Season 第3回 X JAPAN(後編)

前回に引き続き X JAPANの音楽が持つ名曲性について触れていきたいと思います。

 

X-tsuda

「Silent Jealousy」収録

X『X Singles』

 ハイレゾ / 通常

 

 先日、1月12日と13日の2日間、YOSHIKIは米・ニューヨークのカーネギーホールで、東京フィルハーモニー交響楽団と共にソロクラシックコンサートを行いました。カーネギーホールはチャイコフスキー、ラフマニノフなどクラシックの音楽家から、マイルス・デイヴィスやフランク・シナトラ、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズに至るまで、歴史的なミュージシャンが演奏してきた、125年の歴史を持つ会場です。
 そこで2日間にわたり、クラシックスタイルでオリジナル楽曲を披露したことは、まさに純粋芸術家YOSHIKIの美しい音楽が世界的に高く評価されている証といえるでしょう。
ロックバンドとしてのX JAPANが、同じくニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン公演を成功させたあと、続けてソロコンサートを成功させたことはアジア人として初の快挙となるわけですが、これはYOSHIKIの音楽性をそのまま表しているとも言えます。

 日本ではまだあまり知られていませんが、X JAPANのドキュメンタリー映画『We Are X』が昨年、サンダンス映画祭で特別編集審査員特別賞、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト) で優秀賞を受賞、放送映画批評家協会賞 ドキュメンタリー映画賞で「ベスト・ミュージック・ドキュメンタリー」ノミネート、アカデミー賞ではアカデミー賞最優秀オリジナルソング賞にノミネート候補となるなど、ヨーロッパや南米、中国など世界中の映画祭で続々とスクリーニングされ、様々な賞を受賞しています。昨年10月からは全米で公開も始まっています。

 私は、実はこの映画の中でインタビューに応える形で出演しているのですが、監督を務めたスティーヴン・キジャックによるインタビューを受けた際、とても印象的な質問をされました。
それは、X JAPANの『ENDLESS RAIN』や『Silent Jealousy』のような人気のある曲のメロディーがとても叙情的で、ロックバンドには珍しい印象なのだが、プロデュースを手がけていた際、そのことをどう考えていたのか、という質問でした。

 私はまず、自分自身がビートルズやポールサイモンの美しいメロディーに深い影響を受けた経験を説明した上で、プロデュースを始めた当初から、音楽におけるメロディーの重要性をYOSHIKIと共有していた、と答えました。そしてさらに、『100年残る音楽』を生むことのできる才能を、出会った頃からYOSHIKIが持っていたこと、それは言い換えればバッハやベートーベン、チャイコフスキーなどといったクラシック音楽と同じ質のものである、と伝えました。
 それからスティーヴン・キジャックとの話が弾み、結果として「ロックとクラシック、どちらのフィールドも貫き通す、普遍的で美しいオリジナルメロディーが、YOSHIKIつまりX JAPANの大きな魅力であり、その音楽的な魅力がロックバンドとして個性的であるが故に今、世界中で急激に広がっているのだろう、という結論に至ったのです。

 YOSHIKIのオリジナリティに満ちた普遍的な美しいメロディーが、クラシックの名曲と繋がっていることから、今回カーネギーホールで行われたソロクラシックコンサートが、とても自然なことだとわかります。

 では、YOSHIKIのメロディーがクラシックと繋がっていたり、その美しさがロックバンドでは群を抜いていると言われることについて、私なりに解説してみましょう。

 ロックはもともとロックンロールから発展した音楽です。そしてそのロックンロールの源流には、黒人音楽の存在があります。ですから、ローリングストーンズやビートルズの曲の場合、色々な場所でブルーノートという黒人音楽特有の節回しがメロディーに含まれています。

 一方、X JAPANの歌のメロディーには、基本的にブルーノートが含まれていません(特にサビについて、です。また、ギターのリフではむしろブルーノートが効果的に登場します)。西洋音楽が黒人音楽と交わる以前の音楽であるクラシック音楽でも、当然ブルーノートは存在していませんから、ここにYOSHIKIの音楽性とクラシック音楽にひとつの共通点があるわけです。

 また、多くのロックのメロディーは、英語の歌詞から生まれる言葉のアクセントやフレージングの影響を強く受けています。
ですから、ロックの曲のサビ(アメリカではChorus)をクラシカルスタイルでアレンジしても、メロディーが若干不自然な印象になったりします。

 一方、YOSHIKIの生む曲は、究極の美しさに向って極限まで磨かれ研ぎすまされたメロディーが特徴なため(特にサビ)、インストルメンタルで演奏しても、その曲の美しさ・素晴らしさは原曲と同じように聴く人へ伝わります。

 YOSHIKIクラシカルが世界で支持されるのも、こういった背景があります。

 

 そんなYOSHIKIの生み出す名曲のサビは、驚くほどシンプルでありながら、人の心を打ちます。いくつか見てましょう。

 

 まず今回取り上げている『Silent Jealousy』、サビの最初は移動ドで表すと、

 「ミミードシドー シーラーソーー ミーレミーーー」

 です。
 この4小節を耳にするだけで、心が強いエネルギーで動かされます。

 さらにメロディーを支えるコードが、

 Amという暗めのコードから
 Fという広がりのあるコードに展開し、
 Gという心を前に引っ張っていくコードから
 Cという明るく希望に満ちたコードへ移る、

 と、4小節間で動くことで、上記のメロディーの持つ感情を高めています。

 

 同じように、驚くほどシンプルでありながら人の心を打つ例として、ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」の第2楽章を見てみましょう。

 

ベートーヴェン:悲愴・月光・熱情/Valery Afanassiev
(FLAC|96.0kHz/24bit)

 

 「ミーレーソーーファミーソードーレーソーー」

 同じように4小節で、見事に心が動かされますね。
 YOSHIKIの音楽性とクラシックの名曲の存在意義に大変近いものがある、とわかります。

 

 さて、このようにほんの2小節間、時間にするとわずか5秒で、ここまで心を動かす『Silent Jealousy』のメロディーを、私が初めて聴いたのは1990年の春でした。
 大切な曲ができたのですぐに聴いて欲しい、と叫ぶように訴えるYOSHIKIからの電話の声に、急いでYOSHIKIの許へ向い、ピアノでサビの部分を聴いた瞬間、驚きと感動で動けなくなったことを覚えています。
 YOSHIKIと出会ったばかりの頃、生んで欲しいと願っていたメロディーが目の前にある、そんな気持でいっぱいになったからでした。

 このように、YOSHIKIが生んだ、極限まで磨かれ研ぎすまされたメロディーとそれを支えるコードの素晴らしさを(とりわけサビ部分で)堪能できる曲は他にもたくさんあります。
 「ENDLESS RAIN」「Say Anything」「ART OF LIFE」「Amethyst」「DAHLIA」「Forever Love」「THE LAST SONG」「JADE」「BORN TO BE FREE」そして最新作、映画「We Are X」のエンドロールで流れる、アカデミー賞最優秀オリジナルソング賞のノミネート候補曲「La Venus」……

 これらの曲はみな、今回ご紹介した「Silent Jealousy」と同じように、サビのわずか4小節が聴く人の心を動かします。
 まさにバッハやベートーヴェン、チャイコフスキーの名曲のように、100年以上残り続けていく圧倒的で美しいメロディーたちです。

 

 このように、美しく普遍的なメロディーの存在と、誰にも似ていないオリジナリティが相まって、X JAPANを世界的なバンドにしているわけです。

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)

小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、’85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。2017年7月7日、ソニー・ミュージックグループの配信特化型レーベルmora/Onebitious Recordsから男女ユニット“ツダミア”としてデビュー。

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