津田直士「名曲の理由」 2nd Season 第3回 X JAPAN(前編)

今回は「年末の紅白歌合戦に出場したアーティストの中から……」という編集部からのリクエストに応え、X JAPANが紅白歌合戦に初出場した際演奏した「Silent Jealousy」を取り上げ、名曲の理由を見てみたいと思います。

 

X-tsuda

「Silent Jealousy」収録

X『X Singles』

 ハイレゾ / 通常

 

「Silent Jealousy」は1991年7月1日にリリースされたX JAPAN(当時はX)のアルバム『Jealousy』に収録された曲で、同年9月にはシングルカットもされました。
アルバム『Jealousy』はミリオンセラーとなり、リリース直後の初東京ドーム公演と相まって、Xが圧倒的な存在となるきっかけを作ったアルバムです。
ちなみにこの頃、私はXのディレクターとしてレコーディングのCo Producerを務めていました。
「Silent Jealousy」を演奏した1991年の紅白歌合戦出場に向けて、演奏時間の制約から必要となった短縮バージョンのオケを頭を悩ませながら作り上げ、メンバーとリハーサルをして本番に臨んだのをよく覚えています。
当時Xは、ロックバンドでありながら紅白歌合戦出場を積極的に望んでいましたが、その姿勢にソニーミュージックの宣伝スタッフも驚いていました。
おそらく「あらゆる壁を壊して世界へ向う」というバンドのビジョンが、当時の音楽業界では新鮮だったのでしょう。

2007年の再結成以来、世界中をライブツアーで駆け巡り、2014年秋には米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で公演、そして今春には英ロンドンのウェンブリー・スタジアムで公演を控えており、世界中にファンを持つ、もはや世界的なバンドとなったX JAPANですが、その音楽の魅力はオリジナリティの凄さに尽きます。
バンドのリーダーでドラムスとピアノを担当し、音楽のほとんどを手がけるYOSHIKIは、ロックスターでありながら、同時に、自らの心の震えから全く新たな音楽作品を生み出すバッハやベートーヴェンのような、純粋芸術家でもあります。
そしてその純粋芸術家としての姿勢から、彼は頑にオリジナリティを貫き通して作品を生み続けています。

(ファンを除く)日本の音楽シーンでの評価に比べて、海外での評価が圧倒的に高いのも、日本にありがちな模倣品で満足する安易な商業主義的な姿勢を拒否し、徹底したオリジナリティと本当の芸術性を追求することから生まれる、YOSHIKIの音楽の純度の高さによるものでしょう。

 

さて、今回はそんな『YOSHIKIのオリジナリティ』に注目しながら、「Silent Jealousy」における名曲の理由を探ってみましょう。

日本はもとより、世界中のXファンがその音楽を好きになるとき、そこに音楽のジャンルは存在しません
Xが活躍を始めた1988年当時、Xというバンドはヘビィメタルやスラッシュメタルといったジャンルのバンドとして認知されていましたが、そのような狭いジャンルでXのオリジナリティ溢れる音楽性をくくるのが難しいことは、Xがメジャーな存在となるにつれてすぐに明らかとなりました。
Xの音楽性はジャンルにはなく、ちょうどクラシック音楽のように、その美しいメロディーとそれを支える和音の響き、そしてその美しさを体中に届けてくれる独特のリズムによって聴く人の心と細胞を震わせる、普遍的で純粋さに満ちあふれた、芸術です。
ですから90年代に入ると、Xはジャンルを超越したオリジナルなアーティストとして認知されていきました。

ところで……。
純粋芸術とは言いつつも、この曲のイントロで演奏されるギターリフは、明らかにハードロックやヘヴィメタルジャンルのギターフレーズです。
では、例えばこのギターリフ一つを取り上げて、そもそもジャンルを超えて日本のファンが急増していった90年代以降、多くの若者の心を捕らえたXサウンドは、どこに魅力があったのか、見てみましょう。

結論から言うと、それはYOSHIKIが海外の音楽の模倣をせず、心の中から溢れる音楽魂や芸術心をそのまま音楽に止揚していった結果にありました。そう、いわば「大和魂の結露」です。

Xのこういった速い曲(BPM 170~180)では、このようなギターリフがサウンド上重要な役割を果たしています。(例:「BLUE BLOOD」「X」「Standing Sex」)
このようなギターリフは、基本の部分についてはメンバーのギタリストHideやPATAではなく、YOSHIKI自身が創っていました。奏法的にはヘヴィーメタルですが、そのリフの持つメロディーやリズムは、日本の祭りをルーツとして感じさせる『大和魂』に溢れています。
「Silent Jealousy」のイントロリフは、四分音符3つの強いリズムで始まりますが、これはわらべうたの『おちゃらかほい』に見られる、お祭りで心が強く騒ぎ出すような、日本人ならではのリズムです。
YOSHIKIはそういった心の中にある日本人らしい感性を、決して疑ったり隠したりすることなく、自分自身の音楽の大切な叫びだと理解し、オリジナル作品の重要なパーツとしてそれらを芸術にしていきました。

そしてそのような原始的とも言える感性が生むリフに、同じくYOSHIKI自身の原始的なエネルギーが炸裂する、速いドラムスビートが絡んでいきます。

YOSHIKIの速いドラムは、メジャーデビュー後、快進撃を始めた1989年当時、そのあまりに速さに音楽シーンで多くの人たちが圧倒されました。
ただ、YOSHIKIの速いドラムスはただ単にスピードが速いだけではありません。
彼の速いビートは、打点の連続性と独特のグルーヴから、実は2ビートではなく、16ビートを刻んでいるのです。
しかも1小節間で独特の揺らぎがあり、その人間らしい息づかいが、聴いている人の心をつかみます。
では、このYOSHIKIオリジナルのドラムスビートの音楽的なルーツはどこにあるかというと、今度はいわゆる『大和魂』ではなく、クラシック音楽の速いパッセージにあります。
YOSHIKIは4歳の頃からクラシック教育を受けており、バッハやベートー ヴェン、チャイコフスキーなどのクラシック音楽家から多大な影響を受けています。
そしてクラシック音楽はYOSHIKIのオリジナル音楽の基盤となっています。

何よりも音楽の核である「美しいメロディーとそれを支える演奏」という部分を大切にしていたYOSHIKIが、誰の真似でもない、自身の心の震えをそのまま音楽作品として表現しよう、としたとき、彼のオリジナル作品の方向性は決まっていました。
それは、まるでクラシックの名曲のように美しいメロディーが基本にあり、それを自身のピアノとドラムスが生み出すあらゆる和音やリズムによって支え、さらにそのオリジナリティをさらに高めるバンドメンバーたちと共にアレンジし、バンドサウンドによって構築する、というものでした。

その方向性は見事に花を咲かせ、日本人ならではの情緒溢れる美しいメロディーとXのメンバーが生み出すエネルギーに満ちたバンドサウンドが織りなす数々の名曲が生まれました。
これまで、このような姿勢で音楽に向き合う日本のアーティストは皆無でした。
その結果、アメリカを始めとして、全世界の人たちが発見したのが、日本人で初めて世界中に数多くのファンを持ち、全世界規模で活動する伝説のバンド、X JAPANでした。

これはちょうど手塚治虫や大友克洋、宮崎駿が世界中で評価されているのに似ています。
何故なら、彼らが世界中の人たちを感動させているその才能の結露は、オリジナリティに尽きるからです。
彼らがディズニーの真似をしているのではないことは、画を見ればすぐわかります。
そして、日本人が持つ独特の美意識や深い人生観から独自の芸術作品を生み出し、圧倒的な支持を得ています。

その作品は日本人には深い共感を、そして海外の人たちには新しい驚きと見たことのない感動を与えてくれるのです。

 

X JAPANの、つまりYOSHIKIの音楽が持つオリジナリティについて解説を試みたため、名曲「Silent Jealousy」については、まだイントロしか触れていませんが、歌のメロディーの美しさと普遍性については、引き続き次回の名曲の理由で触れていきたいと思います。

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)

小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、’85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。2017年7月7日、ソニー・ミュージックグループの配信特化型レーベルmora/Onebitious Recordsから男女ユニット“ツダミア”としてデビュー。

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