L’Arc~en~Cielを擁する「マーヴェリック・ディー・シー・グループ」代表の大石征裕氏がハイレゾを語る!

 マーヴェリック・ディー・シー・グループ代表 / 一般社団法人日本音楽制作者連盟 理事長 大石征裕さんがmoraインタビューに登場。大石さんは1981年にデンジャー・クルーを設立し、レーベル&マネージメントとして44マグナム、デランジェ、ダイ・イン・クライズ、ボディ、ラルク アン シエルなどを手掛け、日本ロックシーンの礎を築いた伝説的なプロデューサー。実は、ラルク アン シエルの1stアルバム『DUNE』など、レコーディング・エンジニアやディレクターとして手掛けた作品もあるミュージックマンなのです。ラルク アン シエルでは、早い時期からライブ録音を24bit/96kHzで収録していたなど、音へのこだわりに評判の高い氏に、様々な側面から高音質ハイレゾ分野について語って頂きました。

インタビュー&テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 


 

――大石さんは音制連の理事長であったり、マネージメント、インディーズ・レーベル、レコーディング・エンジニア、プロデューサー、ディレクターなど様々な顔をお持ちですが、現在ソニーのハイレゾ・ウォークマンなどの普及で急激に広がりはじめている高音質ハイレゾ分野について、お話をお伺いできればと思います。そもそも僕はデンジャー・クルー作品育ちで……あ、もともとは小学生の頃にボウイから音楽に入って、Xでインディーズ文化を知って、そこからどっぷりデランジェやら、ジキルとかにハマりつつ、ダイ・イン・クライズであったり、ボディ、ラルク アン シエルにハマっていきました。それこそインディーズ時代の初回限定盤とか血眼になってゲットしましたよ(笑)。

大石 ありがとうございます。それは、相当お金を使って頂いている感じですね(笑)。

――そうですよ、何回同じ盤を買ったことか!

大石 あ~!(苦笑)。初回限定盤なのに通常盤より収録曲が少ないとか、ジャケの色合いが違うとかね(笑)。

――まぁ、それが手に入るかを一喜一憂するのがファン心理としてとても楽しかったんです。そして、今や国民的ロックバンドになりましたけど、ラルク アン シエルだと、やはり1993年にリリースされた1stアルバム『DUNE』に思い入れが強いんですよ。

大石 あれは私がディレクター・エンジニアを担当しました。それこそハイレゾ化にあたっては、当時のCDのマスターだったPCM−1630だったり、リマスタリングした時のPMCDや、当時ハーフのマスターテープにミックスダウンしていたので、とりあえず全部を聴いて「どれにしようか?」、「やっぱりハーフのアナログマスターがいいよね!」など試行錯誤しましたね。『DUNE』のマスタリングは、1993年にリリースした最初のヴァージョンも当時1度やり直したり、さらに『DUNE 10th Anniversary Edition』でもリマスタリングしていて、結局どれが気に入ってるかっていうと一番最初にやり直したヴァージョンなんです。

――なるほどです。

大石 今回、その気に入っていた仕上がりにハイレゾ化では近づけようとしたのですが、当時CDマスタリングは「なるべく圧縮して突っ込めよ!」という考え方が主流だったのですが、今回は、まだハイレゾを勉強したてだったこともあって、迷いもありましたが、マスタリングエンジニア氏からの勧めで「ヘッドルームに2~3dbのマージンをとって、余裕ある感じで空間を感じさせるのがハイレゾ」という方向性に落ち着きました。ただ自分的にはその方向の中で納得するまで、4回やり直したのかな? マスタリング代だけで結構かかりましたが勉強代ですね!(苦笑)。

――こだわりですねぇ。

大石 結局マスタリングエンジニア氏も意地になって徹底的に付き合ってくれました。結果、5パターン全部を聴き比べ、今回のテイクに落ち着きました。当時のアナログハーフのマスターの良さに加え、AD機器やテクノロジーの進化が上乗せされた素晴らしい仕上がりになりました。

 

 

――もともと大石さんは、バンド44マグナムのスタッフからスタートしたと思うのですが、ご自身の中ではマネージメントもやりつつエンジニアもされていたという、よりミュージシャン、制作側の気持ちがわかるポジションだったということなのでしょうか?

大石 もともとPAエンジニア的なポジションで44マグナムのメンバーと接触し始めました。その流れでデモテープを録ったのが1980年くらいですね。私も含めて東京進出の前です。エンジニア、テックとしての関わりからツアープランナー、そしてマネージメント。もともと楽器や録音することが大好きだったんですよ。

――なるほどです。大石さんの中でラルク アン シエルなど「この曲、ハイレゾ化で印象変わったな!」というものはありますか?

大石 ラルク アン シエルの『DUNE』を聴くと、CD時のマスタリングは粒立ちさせる傾向だったので、少しコンプが深く仕上げてあるように思います。ハイレゾ化では、全体にかかるコンプは薄くし、その分上下左右に空間的に広がって聴こえるようになっています。それがハイレゾらしさかな。やっぱり生ドラム、生ギター、生ベースの表情は全然違いますよね。

――確かに注目ポイントですね。あと『DUNE』のドラムはsakuraさんですが、後に加入したyukihiroさんのドラムって、すごく独特な響き方をしてますよね? ハイレゾで聴くと響きに独特な発見がありました。

大石 余談ですけど、yukihiroがジキルを辞めて、ダイ・イン・クライズに接触した頃にデモテープを録ったんですよ。私がエンジニアでデモテープを録ったんですけど、現場に行くとキックの中に毛布が詰まっていて「yukihiroくん、ちょっと中の毛布取っていい?これじゃあドラムの音が鳴んないよ」って聞くと、「僕、こうじゃないと気持ち悪いんです」って。要するにその頃、余韻のあるものが全部嫌いだったんですね。例えばクラッシュシンバルはなく、スプラッシュとチャイナしかなかった。全部短い。全部タイト。更に正確無比。yukihiroのドラムの音ってやっぱり特徴的ですよね。今はスタイルも変わってきていますが、ドラム全体のキレの良さ、キット感がすごく繊細だと思います。

――ラルクアン シエルのハイレゾ音源を聴いていて改めて思ったのが、メタル的な影響はもちろん、UKギターポップ的な影響もありましたよね。洋楽センスがハンパなくて。

大石 4人ともザ・キュアーのようなUKロックをよく聞いていたと記憶しています。当時はドラムがsakuraだったんですけど、sakuraが加入する以前から『DUNE』の楽曲はすでに出来上がっていたんですね。大きくサウンドを左右したのはギターのkenと、ベースのtetsuyaのフレージングの影響が大きいでしょうね。『DUNE』は、ちょっとプログレっぽいところもあるなと当時私は思いました。空間のコントロールの妙と言うか、独特なサウンドに驚きました。

――なるほどです。ルーツが見えてきますね。アルバム『DUNE』を改めて聴くと、バンドアンサンブルなど面白いですよね。

大石 kenの趣向だと思うんですけど、音を詰め込むのがあんまり好きじゃないんです。ギターもその頃、あまり歪んでなくて。録音時の事ですが、ギターアンプを私が無理やりROLAND JC-120で録ったことを、後になって好みではなかったと聞かされて(苦笑)。要するに立体感が出ないアンプが嫌いなんですね。その頃からkenは耳でわかっていたんでしょうね。

――ご自分の担当アーティストじゃなくて、ハイレゾで購入されたり、聴いてみたい音楽ってありますか?

大石 聴いてみたいと思ったのは80年代の歌謡曲かなぁ。中森明菜さんとか、松田聖子さんあたり。大滝詠一さん関連はハイレゾ化されたんだっけ? ……あ、まだなってないんだ。あとはムーンレコードの山下達郎さんは聴いてみたいなぁ。

――ラルク アン シエルでは『AWAKE TOUR 2005』からライブ音源を24bit/96kHzで収録されていたことは、早かったなと思うのですが、この高音質シーンへいちはやく取り組まれた意識改革の理由は?

大石 そうですねぇ。私がオタクなんじゃないでしょうか。今後は32bit/96kHzで収録する方向で検討しています。まぁDSDレコーディングもあるので、それと二本立てでとも。やっぱり出来る限り良い音で残しておきたいってことかな。テクノロジーは進化していくわけだから。もちろん、リリース形態や記録メディアに関しては、状況に応じてなかなか追いついていかなかったりはするんですけどね。

――ハイレゾ界隈でいうと、ラルクアン シエルも担当されているエンジニア比留間整さんが、最近BUCK-TICKの『悪の華』のハイレゾでのマスタリングをやられていて話題になりましたね。

大石 彼は印象としてはアナログ派で、あの頃ってエンジニアの人たちはマニアックな人が多くて、比留間さんも機材オタクなんですよ。特にコンプレッサーにうるさい。当時はコンプレッサーをうまくコントロールするエンジニアが良しとされていて、EQで形を整える人はよろしくないよねっていう風潮がありました。比留間さんはアタックとリリースを巧みに調整することで、各パートを上手くまとめる達人だと思います。更に、最終的にまとめた時のコンプレッサーの使い方もすごく上手な人なんです。

――今回、BUCK-TICKの名盤アルバム『悪の華』が、当時のマスターからのハイレゾ化と、2015年版で改めてハイレゾ仕様に合わせてのリマスタリングをリリースされたのが面白かったです。

大石 BUCK-TICKもラルク アン シエルもそうですけど、比留間さんは当時、ドラムとベースだけはデジタルマルチにスレーブで2インチのアナログマルチ24chを使って録音する手法を取り入れていました。他のパートはデジタルでトラックダウンはハーフアナログに落とす。つまりドラムとベースだけは全工程アナログで収録したことになります。BUCK-TICKの今回の作品は、スレーブも含めて今回起こし直したのだと思うんですけど、元素材がアナログなのでハイレゾと相性ばっちりですよね。比留間さんはとても機材の選択が巧みで、当時レコーディングコンソールもNeve派。しかも、その頃はギリギリ現役で稼働していたNeve VR-72シリーズを選ぶ。コンソールを選べない場合は、別にH/Aアンプを用意するんです。うちの会社は比留間さんの言いなりになり(笑)、オールドNeveのH/Aアンプ、#1073や#1081、1台100万円以上するんですけど、相当チャンネル数揃えましたからね (苦笑)。

――高音質でのレコーディングにこだわられてきた大石さんにとって、ハイレゾ化から見る音楽の未来のライフスタイルの変化について、どのようにお考えですか?

大石 えっ、難しい質問ですね(笑)。まぁ機材の発展はもちろんなんですけど、やっぱり音楽の聴き方も変わってきていますよね。情報量が増えているので1曲1曲とじっくりと向き合えることは魅力かな。あと、最近またビニールが見直されて、リリースも増えたり、レコードプレーヤーも再発されてますよね? だからハイレゾの普及によってアナログを引っ張りあげているような気もします。私たちの年代でいうと「LPを売らずにとっておいて良かったな」というか。そういう市場も再活性するんじゃないかと思います。

――先日、代々木に『Spincoaster Music Bar』というハイレゾ・バーが出来たんですけど、ハイレゾはもちろんアナログも聴けるんですね。そこで、YMOを聴いたら実が詰まって聴こえてくるサウンドで、アナログってやっぱいいなぁと再発見したりしました。

大石 そういう体験はいいよね。アナログの良さを味わいたくて、恵比寿のBAR TRACKに行ったりしますよ。

――ラルクアン シエルのライブ音源って、2000年代から高音質で録られていると思うのですが、ハイレゾって立体感というか空気感の表現に優れていることを考えると、ライブ音源のリリースを期待したいですね。

大石 そういえば考えてなかったですね。ラルクアン シエルは本来24bit/96kHzでの収録素材はあるわけだからリリースは可能ですね。もう少し市場が広がったら出せるのかな。

――最近、日本ではコンサート市場は盛況ですが、ライブ盤というかライブ音源に価値があまり見出されなくなっている時代なので、ラルクアン シエルに市場を広げていって欲しいですね。

大石 そうですね。確かにライヴ音源には空間的な響きとかハイレゾならではの魅力がありますよね。いろんなアーティストも取り入れてほしいですね。レーベル担当の方達の努力も必要でしょう!

 


 

L’Arc~en~Ciel ハイレゾ配信中!

『DUNE』 『Tierra』
『heavenly』 『True』
『HEART』 『ark』
『ray』  『REAL』 
『SMILE』  『AWAKE』
『KISS』  『BUTTERFLY』 

 


 

【プロフィール】

大石 征裕(おおいし・まさひろ)マーヴェリック・ディー・シー・グループ代表取締役兼C.E.O. / 一般社団法人日本音楽制作者連盟 理事長
1960年大阪生まれ。1981年デンジャー・クルー設立、1983年ムーンレコード、ユイ音楽出版との傘下で44マグナムをデビューさせる。1985年インディーズ・レーベル、デンジャー・クルー・レコーズを設立。インディーズをベースに、ラルク アン シエルを始めとするロックバンドを輩出。2000年香港、上海に支社を設立し、本格的に海外事業展開を開始。同年、㈱ジャパン・ライツ・クリアランス」設立、取締役に就任。2003年(社)音楽制作者連盟 理事就任 (現・一般社団法人日本音楽制作者連盟)。2007年デンジャー・クルーの名称をマーヴェリック・ディー・シー・グループと変更の上、C.E.O.に就任し、 (社)音楽制作者連盟(現・一般社団法人日本音楽制作者連盟)理事長に就任。