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記者の眼

エボラ出血熱で世界が注目する日本発のある薬剤

 アフリカ西部でのエボラ出血熱の流行拡大が止まらない。エボラウイルスの感染は、ギニア、シエラレオネ、リベリアの3カ国を中心に広がっており、2014年8月6日までにエボラ出血熱による死者は900人を超えた。

 これまでのところ、世界で承認されたエボラ出血熱に対する治療薬やワクチンはないが、動物実験で有効性が示されている薬剤や、健常人を対象に第1相試験が実施されている薬剤が複数ある。

 世界保健機関(WHO)は2014年8月6日、来週初めにも医療倫理の専門家を集め、それらの未承認薬の使用を認めるかどうか協議するとの声明を発表した。先ごろ、エボラウイルスに感染したとみられる非営利団体の2人の医療関係職員が未承認薬の投与を受けたことも、未承認薬の使用を容認すべきではとの議論に拍車をかけた。

 使用が容認されるのではないかと世界が注目している未承認薬の1つが、富士フイルム傘下の富山化学工業が創製した抗インフルエンザ薬であるファビピラビル(商品名アビガン)だ。ファビピラビルはウイルスのRNAポリメラーゼの阻害薬で、1日2回を5日間経口投与する。2014年3月に世界に先駆けて国内で承認された。これまでに米国の研究機関などが、マウスを使った実験でエボラウイルスを排除する効果が確認されている。

 もっともファビピラビルは承認後も、国内の医療機関に出回っていない。ファビピラビルの適応症は「既存の抗インフルエンザウイルス薬では効果が不十分な新型または再興型インフルエンザウイルス感染症」であり、あくまでパンデミックに備えた危機管理用の薬剤。承認に際しては通常のインフルエンザに使用されることのないよう厳格な流通管理および十分な安全対策を実施することが求められている。加えて承認時には、国内で薬物動態試験などを追加的に実施し、解析結果の提出などを行わない限り、厚生労働大臣の要請なく製造などを行わないといった条件が課された。

 さらに、動物実験で催奇形性が認められていることから、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には禁忌。また、精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、危険性について説明した上で、投与期間中および投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合は避妊を徹底するよう警告が付けられている。

 ファビピラビルは2013年12月からインフルエンザウイルス感染症に対して米国で第3相試験を実施している段階で、日本以外では承認されていないのが現状だ。ただし、米政府は今回の事態にファビピラビルをエボラ出血熱に使えないかどうか検討を始めた模様だ。

 実は富士フイルムは2014年8月2日から8月10日まで全社夏季休業中。記者が電話で問い合わせたところ、聞こえてきたのは自動音声による返答……。その後、なんとか連絡が付いた同社広報担当者によれば、「エボラ出血熱に対してファビピラビルを使えるようにするため、臨床試験の実施に向けて、米食品医薬品局と協議しているところだ」とのコメントが寄せられた。日本で創製された薬剤に、世界の注目が集まっている。
 

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