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「寝たきり大黒柱」を生まないために 訪問診療医師銃撃事件の教訓

石蔵文信・大阪大学招へい教授
 
 

 埼玉県で発生した訪問診療の医師らが銃撃されて殺傷された事件。90代の母親を介護していた60代の息子が起こしたものでした。自らも介護施設などで診療し、多くの親子を見てきた石蔵文信・大阪大招へい教授は、息子の生活力が気がかりだと言います。このような親子関係は、特殊なものではないようです。私たちにできることは何でしょうか。

母親への愛情の問題だけなのか

 今年1月、埼玉県で訪問診療をしている医師が家族に呼びつけられ、殺害された事件がありました。医療関係者には大変ショックな事件でした。

 92歳の母親の介護していた60代の息子が事件を起こしたものです。報道で事件の内容を知るほど、介護現場における複雑な状況が浮かび上がってきます。母親へ提供された医療などの内容に不満を持っていたようですが、母親に対する愛情が深いとしても、超高齢の母親への治療に不満を言うのは違うだろうという気がしています。特に、既に亡くなってしまった母親への心臓マッサージなどを要求するというのは、もう常軌を逸しているとしか思えません。

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大阪大学招へい教授

いしくら・ふみのぶ 1955年京都生まれ。三重大学医学部卒業後、国立循環器病センター医師、大阪厚生年金病院内科医長、大阪警察病院循環器科医長、米国メイヨー・クリニック・リサーチフェロー、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授などを経て、2013年4月から17年3月まで大阪樟蔭女子大学教授、17年4月から大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授。循環器内科が専門だが、早くから心療内科の領域も手がけ、特に中高年のメンタルケア、うつ病治療に積極的に取り組む。01年には全国でも先駆けとなる「男性更年期外来」を大阪市内で開設、性機能障害の治療も専門的に行う(眼科イシクラクリニック)。夫の言動への不平や不満がストレスとなって妻の体に不調が生じる状態を「夫源病」と命名し、話題を呼ぶ。また60歳を過ぎて初めて包丁を持つ男性のための「男のええ加減料理」の提唱、自転車をこいで発電しエネルギー源とする可能性を探る「日本原始力発電所協会」の設立など、ジャンルを超えたユニークな活動で知られる。「妻の病気の9割は夫がつくる」「なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか エイリアン妻と共生するための15の戦略」など著書多数。