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日本周辺の安全保障環境が厳しさを増しています。政治や経済、外交など、日本の針路を考えます。

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日本、際立つ豪州重視 中国へのけん制が結束強めた「準同盟国」

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オーストラリアのモリソン首相(左)を「肘タッチ」で迎える菅義偉首相=首相官邸で2020年11月17日午後4時46分、竹内幹撮影
オーストラリアのモリソン首相(左)を「肘タッチ」で迎える菅義偉首相=首相官邸で2020年11月17日午後4時46分、竹内幹撮影

 菅義偉首相とオーストラリアのモリソン首相は17日の日豪首脳会談で、安全保障分野を中心に両国の連携を強化する方針を確認した。両国に共通するのは、周辺地域への進出を強める中国への懸念だ。両国の同盟国・米国が政権移行期を迎え、不安定な状況が続く中、日豪は「準同盟国」として結束を強めている。

「日豪は特別な戦略的パートナー」

 「日豪は特別な戦略的パートナーで、重要性は高まる一方だ」。菅首相は会談でモリソン氏に呼びかけ、「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた連携強化を図る方針を強調した。

 モリソン氏は日本にとって新型コロナウイルスの感染拡大後、初めて来日した外国首脳だ。菅首相にとって9月の政権発足後初めて日本で迎える首脳であるとともに、各国首脳の中で就任直後に最初に電話協議を行ったのもモリソン氏だ。菅政権は豪州重視の姿勢を際立たせている。

 背景にあるのは、両国がシーレーン(海上交通路)として重視する南シナ海や太平洋への進出を強める中国の存在だ。

 日豪両国の共通点は多い。米国と同盟関係を結ぶ一方、中国との経済面での結びつきも大きいのが特徴だ。外務省関係者は「世界を見回してもこれほど類似点が多い国は珍しく、お互いの国益のために力を合わせるのは当然だ」と強調する。中国の脅威に対抗するため、日本にとって豪州との連携強化は欠かせない。

安全保障の連携が焦点に バイデン新政権引き寄せる戦略も

 協力の中核となるのが、安全保障分野の連携だ。

 首脳会談で大枠合意した円滑化協定は相手国に一時滞在する自衛隊と豪軍の法的な扱いを定める協定だ。地位協定を結ぶ米国以外では初めてとなる。

 2014年7月に交渉が始まったが、日本にある死刑制度によって、豪軍の兵士が訪日中に犯した罪で死刑が科せられる恐れがあるため、交渉は難航してきた。両国が大枠合意に至ったのは、両国の共同訓練をはじめ、自衛隊・豪軍の連携が急務とみたためだ。

 両国間では、17年に自衛隊と豪軍が燃料や弾薬などを融通し合える物品役務相互提供協定(ACSA)を発効させたが、20年10月には、レイノルズ国防相が来日し、平時に自衛隊が他国軍の艦船などを守る「武器等防護」の対象に、米軍に続いて豪軍を加えるための調整を始めることで合意した。「準同盟化」に向け、急ピッチで環境整備を進めている。

 日本が豪州との連携強化を急ぐのは、米新政権の動向が不透明であるためだ。日豪印との連携強化を進め「自由で開かれたインド太平洋」構想を重視してきたトランプ大統領が米大統領選で敗れることが確実となり、米国は政権移行期の不安定な状況が続いている。「同盟国重視」を掲げるバイデン前副大統領だが、どこまで構想への関与を強めるかは見通せていない。日本政府は豪州との結束を急速に強めることで、バイデン新政権の関心を引き寄せる戦略を描いている。【青木純】

豪首相、菅氏に「これからは『ヨシ』と呼ばせて」

 モリソン氏は会談冒頭、菅首相に「これからは『ヨシ』と呼ばせてもらう。ぜひ私を『スコモ』と呼んでほしい。両国は志を同じくする二つの国だ」と語りかけた。「スコモ」とはモリソン氏の愛称。モリソン氏が菅首相との信頼関係を急ぐのは、豪中関係の急速な悪化が背景にある。豪州にとって「戦略的パートナー」である日本の重要性が増している。

 モリソン氏は帰国後、新型コロナウイルス対策のため14日間の隔離となり、30日に開会する連邦議会も最初の数日はオンライン出席となる。国内ではこの時期の日本訪問に対する慎重論もあったが、「外国首脳として初めて日本で菅首相と会談することは重要だ」と押し切った。

 豪中関係の悪化は、…

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