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写真・文 岡克己
海に囲まれた島国、日本。岬や島にひとり建つ3200もの灯台が、長い間航海の無事を見守ってきた。漆黒の闇のなか、荒れ狂う暴風雨のなか、灯台守は何を思い、歯を食いしばってきたのか。同じ瞬間、深い孤独と向き合っている、はるかかなたの仲間が心の支えだったのだろうか。
灯台をこよなく愛する写真家、岡克己さんが、灯台のもっとも美しい瞬間を追い求め、物語をたどる「灯台ものがたり」。4週にわたって厳寒の北海道の海を守る灯台を紹介する。まずは、新旧映画のロケ地、「ハナミズキ」の湯沸岬灯台と「喜びも悲しみも幾歳月」の日和山灯台から。
湯沸岬灯台(とうぶつみさきとうだい)/北海道
【航路標識番号=0144 国際航路標識番号=M6830】
道東の釧路と根室の中間あたりに位置する浜中町の霧多布岬にあります。でも霧多布岬は通称で正式名称は湯沸岬というそうです。なので灯台名も「霧多布岬灯台」ではなくて「湯沸岬灯台」です。だけどアイヌ語「キタプ ki-ta-p(茅を刈るところ)」の語源に、「霧」の漢字をあてた「霧多布」のほうが、「トプッto-put」が由来の「湯沸」よりすてきかもしれません。灯台名も今に「霧多布岬灯台」に改称されたりして、まさかそんなことはないと思うけど。
「君と好きな人が、百年続きますように」がキャッチコピーの映画『ハナミズキ』のロケ地、という立て看板が無料駐車場から灯台に続く遊歩道の入り口に。映画のシーンでは生田斗真さん演じる康平クンが軽トラで灯台そばまで上がっていき、紗枝役の新垣結衣さんと、灯台の上でキスシーンなのですが、現実は、駐車場に車を止めて灯台までは徒歩、そして灯台にも登れないので『ハナミズキ』ごっこはできません。
灯台周辺は厚岸道立自然公園に指定されている太平洋を望む風光明媚(めいび)な観光地。近くの落石岬灯台や花咲灯台が「日本の灯台50選」に選ばれているので、ここは選ばれなかったのかもしれないけれど、全然負けてないと思います。すてきな景観に出合えるお薦め灯台のひとつです。
前身は、1930(昭和5)年10月11日に旧浜中村が建てた霧多布港灯柱、49(昭和24)年3月10日に廃灯。それに代わり、48(昭和23)年に全国の灯台を含む航路標識を管轄する海保(海上保安庁の略)が発足し、その後湯沸岬灯台が建設され、51(昭和26)年6月15日に初点灯。その後、85(昭和60)年12月に改築されて、積み木をトントントンって3段に積み上げたような現在の形になりました。
霧が多発する岬なので灯台から岬の先端に170メートルぐらい行ったところに灯台設立当初からダイヤフラムホーン(霧信号/霧笛)が設置されていたのですが、ディファレンシャルGPSなどの航海計器・通信機器の普及で2010(平成22)年3月19日を最後に廃止されました。
岬の先端には、幕末から明治初期にかけて蝦夷地を6度も訪れて、「北海道」の名も命名した松浦武四郎さんの歌碑もあったのですが、なんだか達筆すぎて読めませんでした。
【撮影機材】オリンパスOMD E-M1 ED12-40mmF2.8 35mm(35mm判換算70mm相当で撮影)1/30sec F7.1 ISO200 WB5300K RAW
●ぶらりガイド●
<湯沸岬灯台>
▽アクセス:JR根室線浜中駅下車 くしろバス「霧多布温泉」行き25分、終点下車 徒歩40分/車なら……道東自動車道阿寒ICから約100キロ、2時間
▽めし&みやげ:11月から3月はウニ丼が絶品。8月から10月までならサンマ丼。おみやげには昆布製品やチーズはいかが。
▽おすすめポイント:「アゼチの岬」や「琵琶瀬展望台」に足を延ばせば、厳寒の太平洋と大湿原を一望できます。
浜中町観光協会 http://www.kiritappu.jp/
<花咲灯台&落石岬灯台>
▽アクセス:
花咲灯台=JR根室線根室駅下車 根室交通バス「花咲港」行き10分「車石入り口」下車 徒歩20分/車なら……JR根室駅前から15分 下車徒歩10分
落石岬灯台:JR根室線落石駅下車 徒歩60分/車なら……JR根室駅前から20分 下車徒歩30分
▽めし&みやげ:根室のご当地グルメ「エスカロップ」は通年食べられ、タケノコ入りのバターライスにトンカツをのせデミグラスソースをかけたもの。氷下魚(こまい)やチカは冬が旬です。「オランダせんべい」はやわらかくて素朴な甘み、おみやげにどうぞ。
▽おすすめポイント:オホーツク海や太平洋の絶景、漁船が出入りする漁師町の光景をお楽しみください。
根室市観光協会 http://www.nemuro-kankou.com/
日和山灯台(ひよりやまとうだい)/北海道
【航路標識番号=0580 国際航路標識番号=M6996】
小樽郊外の高島岬、祝津の港を見下ろす日和山にあります。
港の近くにあって、船の行き来や天候の観察をしていた小高い丘のことを「日和山」と呼びます。そんな理由から「日和山」という名称は日本全国に幾つもあって、灯台の建っている「日和山」も幾つかあります。だけど「日和山」を灯台名に使っているのはココだけです。
佐田啓二、高峰秀子のダブル主演、主題歌も大ヒットした映画「喜びも悲しみも幾歳月」(1957年/松竹)のラストシーンに登場する灯台です。なんてことを言われてもご年配の方にしかわからないのかもしれませんね。そして、佐田啓二さんが中井貴一さんのお父さんだってことを知らない人もいたりして。30年後に製作された続編「新・喜びも悲しみも幾歳月」(86年/松竹)には、息子の中井貴一さんが出演していて、あっ、脱線している、話を戻さなきゃ。
1883(明治16)年10月15日、北海道では納沙布岬灯台に次いで2番目に木造六角形灯台で初点灯。1911(明治44)年に霧信号所を併設、53(昭和28)年にコンクリート造り灯台に改築、68(昭和43)年10月に灯塔の塗色を、白色から現在の赤白横線塗りに変更、そして近年、2010(平成22)年3月31日に、最後まで頑張っていた霧信号所が閉鎖され、これで海上保安庁が所管する全国の霧信号所がすべて廃止になりました。
まだ霧笛の霧信号所があった頃の点灯カットです。右側に写っている建物は移築、復元されている鰊(にしん)御殿です。
【撮影機材】オリンパスOMD E-3 ED35-100mmF2.0 70mm(35mm判換算140mm相当で撮影)1/15sec F5.6 ISO200 WB5300K RAW
●ぶらりガイド●
▽アクセス:JR函館線小樽駅下車 北海道中央バス「おたる水族館」行き20分、終点下車 徒歩15分/車なら……札幌自動車道小樽ICから30分 下車徒歩15分
▽めし&みやげ:ニシンの季節到来! 産卵のため群れが海岸に押し寄せる「群来(くき)」ももうすぐです! 塩焼きがオススメ。運がよければカズノコ入りに当たるかも。ハッカクは見た目はグロテスクですが刺し身や軍艦焼きが人気です。
▽おすすめポイント:2月12日まで「小樽雪あかりの路」を開催。アイスキャンドルやスノーキャンドル、ワックスボールが夜の街並みを幻想的に彩ります。
小樽観光協会 http://otaru.gr.jp/
灯台ミニ事典「日本の灯台50選」
1998(平成10)年11月1日に「第50回灯台記念日」と「海上保安庁創設50周年」の記念行事として、海上保安庁と公益社団法人燈光会が「あなたが選ぶ日本の灯台50選」と題して、心に残る日本の灯台を全国から募集、その投票によって選ばれた灯台です。(応募総数4万465通)
住んでる街の近くにあれば、ぜひ訪れてみてください。
◆北海道(9基)
稚内灯台―――――(北海道稚内市)
宗谷岬灯台――――(北海道稚内市)
知床岬灯台――――(北海道斜里郡斜里町)
納沙布岬灯台―――(北海道根室市)
花咲灯台―――――(北海道根室市)
落石岬灯台――――(北海道根室市)
襟裳岬灯台――――(北海道幌泉郡えりも町)
チキウ岬灯台―――(北海道室蘭市)
恵山岬灯台――――(北海道函館市)
●東北地方(9基)
尻屋埼灯台――――(青森県下北郡東通村)
大間埼灯台――――(青森県下北郡大間町)
龍飛埼灯台――――(青森県東津軽郡外ヶ浜町)
鮫角灯台―――――(青森県八戸市)
入道埼灯台――――(秋田県男鹿市)
陸中黒埼灯台―――(岩手県下閉伊郡普代村)
魹ヶ埼灯台――――(岩手県宮古市)
金華山灯台――――(宮城県石巻市)
塩屋埼灯台――――(福島県いわき市)
●関東地方(3基)
犬吠埼灯台――――(千葉県銚子市)
野島埼灯台――――(千葉県南房総市)
観音埼灯台――――(神奈川県横須賀市)
●中部地方=日本海側(3基)
姫埼灯台―――――(新潟県佐渡市)
禄剛埼灯台――――(石川県珠洲市)
大野灯台―――――(石川県金沢市)
●中部地方=太平洋側(8基)
石廊埼灯台――――(静岡県賀茂郡南伊豆町)
神子元島灯台―――(静岡県下田市)
御前埼灯台――――(静岡県御前崎市)
伊良湖岬灯台―――(愛知県田原市)
神島灯台―――――(三重県鳥羽市)
菅島灯台―――――(三重県鳥羽市)
安乗埼灯台――――(三重県志摩市)
大王埼灯台――――(三重県志摩市)
●近畿地方(2基)
潮岬灯台―――――(和歌山県東牟婁郡串本町)
経ヶ岬灯台――――(京都府京丹後市)
●中国地方(4基)
美保関灯台――――(島根県松江市)
出雲日御碕灯台――(島根県出雲市)
高根島灯台――――(広島県尾道市)
角島灯台―――――(山口県下関市)
●四国地方(4基)
男木島灯台――――(香川県高松市)
室戸岬灯台――――(高知県室戸市)
足摺岬灯台――――(高知県土佐清水市)
佐田岬灯台――――(愛媛県西宇和郡伊方町)
●九州地方(7基)
部埼灯台―――――(福岡県北九州市)
白州灯台―――――(福岡県北九州市)
水ノ子島灯台―――(大分県佐伯市)
大瀬埼灯台――――(長崎県五島市)
女島灯台―――――(長崎県五島市)
都井岬灯台――――(宮崎県串間市)
佐多岬灯台――――(鹿児島県肝属郡南大隅町)
●南西諸島(1基)
平安名埼灯台―――(沖縄県宮古島市)
岡克己プロフィル
おか・かつみ。写真家、灯台研究家。写真家・中村昭夫氏に師事。月刊誌「おかあさんなぜ?」写真部などを経て、以後フリーランス。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。最新刊は「ニッポン灯台紀行」(世界文化社)。