期待インフレ率引き上げによる実質利下げで物価2%達成へ=黒田総裁

期待インフレ率引き上げによる実質利下げで物価2%達成へ=黒田総裁
3月28日、日銀の黒田東彦総裁は、金融緩和により期待物価上昇率を引き上げれば実質金利の低下を通じて企業の設備投資意欲が刺激されるとして、期待に働きかけることが重要との認識を示した。写真は都内で撮影(2013年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 28日 ロイター] 日銀の黒田東彦総裁は28日午前、参院財政金融委員会に出席し、金融緩和により期待物価上昇率を引き上げれば実質金利の低下を通じて企業の設備投資意欲が刺激されるとして、期待に働きかけることの重要性を強調した。
リーマン・ショック後に日銀の金融緩和が欧米より消極的だったことが円高の一因と指摘し、日銀のマネタリーベース(資金供給量)やバランスシート全体の大きさを注視する姿勢を鮮明にした。日銀の保有国債を紙幣(銀行券)の発行量内に収める「銀行券ルール」はすでに形骸化しており、財政ファイナンス(穴埋め)懸念を払しょくする仕組みを政策委員会で検討する意向を示した。
日銀が昨年12月に国会に提出した「通貨及び金融の調節に関する報告書(半期報告)」の概要を説明した上で、質疑に応じた。
<期待物価上昇と株高など資産効果で2%達成へ>
黒田総裁は、2%の物価目標を達成するには「大胆な金融緩和継続に対する強いコミットメントが必要」、「やれることは何でもやる姿勢を示さなければ、物価安定という最大の使命を達成できない」と繰り返し、金融緩和の副作用に対する懸念をけん制した。消費者物価指数(CPI)が前年比マイナスで推移する現状、金融政策の出口を議論するのは「時期尚早」と明言。従来の日銀が出口政策の重要性に触れることで緩和効果を弱めたとの見方を示した。
金融政策によって2%の物価上昇率を実現する経路については「期待物価上昇率が上がり、実質金利が下がり、企業が手元流動性を取り崩し、株高により資産効果で企業の設備投資や消費にプラスの影響を与えるため」と説明。量的緩和拡大が人々の期待物価上昇率を引き上げる経路を強調した。
具体的な緩和手段としては、「より長期の金利などイールドカーブ(利回り曲線)全体を下げ、リスク性資産のリスクプレミアムを下げていく」とし、年限の長い国債の買い入れやリスク性資産買い入れの増額に強い意欲を示した。
外債の購入は「為替介入と受け取られるため、G7(日米欧7カ国)などの国際的合意事項からみて困難」との見解を繰り返した。一方、他に日銀が買い入れる資産がないような状況では「外債を買い入れる判断はあり得る」とも述べた。
<円高の一因、マネタリーベースの拡大不足>
リーマン・ショック後の急激な円高の一因について、「欧米と比べてマネタリーベース(資金供給量)でギャップがあった」と述べ、日銀のバランスシート拡大ペースが欧米より消極的だったことが要因の1つ、とした。
為替レートは「中期的には金融政策の違い、長期規的には購買力平価で決まる」と述べ、中央銀行のバランスシートの規模と為替レートは直接的に関係が少ないとの白川方明前日銀総裁の見方を否定した。
また「人口が減少している先進国はいろいろあるが、デフレに陥っていない」として、「人口成長率はデフレやインフレの主たる要因でない」と明言。デフレは金融現象との見解を示した。「中長期的には金融政策が大きく影響を与える」とも述べ、金融政策のみで2%の物価目標達成は可能との見方を強調した。同時に麻生太郎財務相が2%の達成が難しいと発言していることを踏まえ、「デフレ期待が浸透している日本で大変な困難を伴うのは十分承知している」と述べた。
<銀行券ルール、すでに上回っている>
2%達成を目指した国債の大量買い入れが長期金利の急上昇を招かないかとの質問に対しては、「物価目標は予想物価上昇率が上振れた場合にもアンカー(抑制)するので、長期金利を安定化させる」と反論した。
また、3%分の消費増税が実施されれば2%程度の物価上昇要因になるとの試算を示しつつ、「消費増税による一時的な物価2%上昇をもって目標達成とは見なさない」と述べた。
物価と賃金の関係については、「大まかに見れば、物価と賃金はシンクロ(同期)して動いている」と述べた。
中央銀行が国債買い入れにより財政を穴埋めする財政ファイナンスについては、「行わないのが世界の中銀で一致した考え」と強調。ただ、財政ファイナンス懸念を払しょくするため日銀が内部で定めている銀行券ルールについては「すでに上回っており、(日銀の国債保有は)今後もさらに上回る」と指摘、財政ファイナンスを防ぐための新たなルールについて政策委員会で議論していくと述べた。
(ロイターニュース 竹本能文;編集 田中志保 山川薫)
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