特別リポート:コロナ禍で「プラ危機」、廃棄増がリサイクル圧迫

特別リポート:新型コロナがプラ業界に激震 廃棄急増し新品・リサイクルにも試練
 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)でプラスチック業界が激震に見舞われている。写真は5月、ナイロビにあるプラスチックのリサイクル工場で撮影(2020年 ロイター/Baz Ratner)
[5日 ロイター] - 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)でプラスチック業界が激震に見舞われている。武漢からニューヨークまであらゆる地域で、フェイスシールドや手袋、食品のテイクアウト用容器、オンラインショッピングで注文された商品の配送用緩衝材などの需要が増えているが、こうした製品はリサイクルできず、廃棄物が急増している。
一方、業界内ではコロナ禍でリサイクル品と新品の間で価格競争が激化。5カ国で20人以上に取材した結果や価格データから、世界各地でリサイクル品がその競争に負けている実態が明らかになった。
中国廃塑料協会のスティーブ・ウォン会長はロイターのインタビューで「本当にたくさんの人が困っている。トンネルの先に明かりが見えない」と嘆いた。
<新品プラスチックがリサイクル品の半額に>
リサイクルプラスチックが新品との価格競争で敗北を喫したのは、原材料である化石燃料の値下がりが原因。ほぼすべてのプラスチックは化石燃料から生成されるが、石油はコロナ禍による景気減速で需要が落ち込んで価格が下落。新品のプラスチックも値下がりした。
2017年に科学誌サイエンスに掲載された調査よると、1950年以降に世界中で発生したプラスチック廃棄物は63億トンで、その91%はリサイクルされていない。廃プラスチックの大半はリサイクルが難しく、リサイクル業者の多くは以前から政府の支援に依存している。業界で「バージン材料」と呼ばれる新品プラスチックの価格は、最も一般的なリサイクル品の半分ということもある。
新型コロナ感染拡大以降、リサイクルプラスチックの利用方法として最も一般的な飲料用ボトルですら生き残りが難しくなった。市場調査会社ICISによると、飲料ボトル製造用のリサイクルプラスチックは新品ボトルの製造に適合するプラスチックに比べて83-93%割高だ。
<新型コロナで廃プラが増加>
多くの国で政治家がプラスチックの使い捨てによるごみとの戦いを約束したが、そこを新型コロナが襲った。世界で取引される廃プラの半分以上を輸入していた中国は、2018年に輸入を禁止。欧州連合(EU)は21年から使い捨てプラスチック製品の多くを禁止する計画だ。米上院は使い捨てプラスチックの禁止を検討中で、リサイクルに関する法的な目標を導入する可能性がある。
プラスチックはそのほとんどが分解せず、気候変動の大きな要因となっている。
世界経済フォーラムが飲料業界のデータに基づいて試算したところによると、プラスチック製ボトル4本の製造で排出される温室効果ガスは、自動車が1マイル(約1.6キロ)走行する際の排出量に相当する。
化学エンジニアのジャン・デル氏が19年4月に公表した調査によると、米国で燃やされるプラスチックの量はリサイクルの6倍に上る。
しかし新型コロナ流行により、プラスチックごみは減るどころかさらに増える流れが際立っている。
シンクタンクのカーボン・トラッカーが9月に実施した調査によると、石油・ガス業界はバージン原料用の素材生産のために今後5年間に4000億ドル(約42.3兆円)程度を投資する計画。電気自動車(EV)の普及やエンジンの燃費改善で燃料の需要が落ち込む中、新プラの需要増が今後の石油・ガスの需要の伸びを支えると期待しているためだ。アジアなどでは中間層の消費者が新たに大量に生まれ、プラスチック製消費財の利用が高まると当て込んでいる。
エクソンモービルの広報担当者は「向こう20年から30年間にわたり、人口と所得の伸びによってプラスチックの需要が増える見通しだ。プラスチックは安全で、便利で、高い生活水準を支える」と述べた。
企業のほとんどはプラスチックごみへの懸念を表明し、削減を支援している。しかしロイターの調査で、こうした取り組みへの設備投資は新プラ向け投資に比べればほんのわずかにすぎないことが分かった。
ロイターがBASFやシェブロン、ダウ、エクソンなど大手石油・化学企業12社にアンケートを行ったところ、廃プラ削減への投資額の詳細を明らかにした企業は一握りだった。3社は詳細についてコメントを避けたか、返答がなかった。
ほとんどの企業は消費財関連企業などが支援する「廃棄プラスチックをなくす国際アライアンス」を通じてこうした取り組みを行っていると説明した。約束している設備投資額は今後5年間で15億ドルだ。国際アライアンスのメンバーの47社はほとんどがプラスチック業者で、ロイターの試算によると昨年の合計売上高は2兆5000億ドルに上る。
ロイターの調査によると、国際アライアンスと石油・化学企業が約束した廃プラ対策投資は5年間で総額20億ドル余り。年間では4億ドルで、売上高に占める比率は極めて小さい。
インパックス・アセット・マネジメントの持続可能性部門の責任者、リサ・ビュービリアン氏は新プラにこれほど多額の投資が計画されていることについて「非常に心配な動きだ」と述べた。「廃棄物処理やリサイクルで制度の整備が遅れている国は、さらに廃プラが増えれば処理する体制が整わないだろう。われわれは文字通りプラスチックの中におぼれつつある」と指摘した。
世界各地のリサイクル業者によると、新型コロナ感染拡大以降、リサイクル業界は大打撃を被っており、落ち込みは欧州で20%以上、アジアの一部では50%で、米企業の一部は60%に達している。
リサイクル会社QRSのグレッグ・ジェーソン氏によると、こうした状況は10年前には想像もできなかった。米国はバージン材料の生産コストが最も低い国の1つになり、新プラの流通量が増えている。
ジェーソン氏は「パンデミックで新プラの津波が一段と大きくなった」と話した。
ロイターの調査で石油・化学企業は、プラスチックが人口増加に絡む世界的な課題解決の一端を担い得ると回答。6社は廃プラを再利用する新たな技術を開発中だとした。
また、プラスチック以外の容器や包装はプラスチックよりも温室効果ガスの排出量が多くなる可能性があるとも指摘した。プラスチックは軽く、消費者にとって不可欠で、温室効果ガスの排出削減に役立ち得るからだという。政府に廃棄物処理のインフラ整備の支援を求める声もあった。
BASFの広報担当者は「生産能力の増強でプラスチックの廃棄による公害が増えるとは限らない」と述べ、必要とされる天然資源を減らす包装用材料の開発に何年も取り組んでいるとした。
<需要動向、メーカーの社運かかる>
今日、発展途上国の小規模な店舗の多くがプラスチックパウチに入れた日用品を売っている。NGOの「グローバル・アライアンス・フォー・インシナレーター・オルタナティブズ」によると、フィリピンで使われるプラスチックパウチは1日当たり1億6400万枚。年間では600億枚近くだ。
ネスレやP&Gなど消費財メーカーは、リサイクルやリユースが可能な包装の製造に努めている、としている。例えばP&Gはマニラの学校で100万枚のパウチを集めて、元の製品よりも価値の高いモノを生み出す「アップサイクル」を行うプロジェクトに取り組んでいる。
しかしプラスチックパウチはリサイクルが非常に難しい。コロナ禍が生んだ新たな環境汚染の要因の1つであり、配水管の詰まりや水質汚染を引き起こし、海洋生物を窒息させ、ネズミや疾病の媒介となる昆虫を引き寄せる。
素材の一部にプラスチックが使われるマスクも、環境汚染の要因だ。公式統計によると、中国の3月のマスク消費は1億1600万枚で、2月の12倍に急増した。コンサルタント会社iiメディア・リサーチのリポートによると、中国の2020年のマスク製造は全体で1000億枚を超える見通し。コンサルタント会社フロスト・アンド・サリバンによると、米国は新型コロナ感染のピーク時の2カ月に出た医療廃棄物が金額ベースで1年間相当に達した。
廃棄物が増えるとしても、プラスチック需要の増大は石油化学会社にとって社運のかかる問題だ。
エクソンは3月の投資家向けの説明で、石化製品の需要は向こう20、30年間にわたり年間4%の伸びが見込まれるとした。
BPは9月の年次市場報告で、2018年に90%超えていた輸送向けエネルギーにおける石油のシェアが80%を切り、2050年には20%程度まで低下する予想した。
石油会社は環境への懸念が石化製品の伸びをそぐのではないかと危惧している。
<コロナ禍、使い捨てプラが人命救う>
今年だけでエクソン、ロイヤル・ダッチ・シェル、BASFなどが中国の石化プラントへの投資を発表し、総額は250億ドルとなっている。コンサルタント会社ウッド・マッケンジーによると、これ以外に今後5年間で176件の石化プラントの新設が計画されており、その80%近くがアジアに集中している。
米国化学工業会(ACC)によると、米国では2010年以降、エネルギー企業によるプラスチックなど化学関連プロジェクトの設備投資が333件、2000億ドル強に上った。米国は「シェール革命」で安価な天然ガスが豊富に出回り、石化業界がこの機を利用しようと設備投資を活発化させた。
石化業界の関係者は、使い捨てプラスチックは人命を救ってきたと主張している。
米国プラスチック工業協会(PLASTICS)のトニー・ラドセウスキ氏は「コロナ禍の間、使い捨てプラスチックが生と死を分けてきた」と述べ、点滴剤の容器や人工呼吸器には使い捨てプラスチックが欠かせないと訴えた。
PLASTICSは3月、米保健福祉省に書簡を送り、医療現場におけるプラスチック製バッグの利用禁止措置を撤回するようを求めた。
しかし米国立アレルギー・感染症研究所が行った調査では、新型コロナウイルスがプラスチック上では72時間後も活性を失っていないことが分かった。これに対し段ボールや銅は24時間だ。
ACCの幹部は、プラスチックを禁止しても消費者はガラスや紙など他の使い捨て原料を利用するようになるだけなので、プラスチックの利用禁止に反対していると説明。「厄介なことだが、プラスチックを禁止してもリユース可能な製品が代わりに使われることはないだろう」と話した。
国際自然保護連合などによると、プラスチックは海洋ゴミの80%を占めている。国連によると、プラスチック汚染はカメやクジラなど海洋生物を死に至らせ、廃プラスチックから流れ出る化学物質が体内に取り込まれるとホルモン異常やがんなどさまざまな被害を引き起こす。
<対応追いつかないリサイクル業者>
プラスチックのリサイクル業者は、新型コロナのパンデミックで新たな課題に直面している。
ICISによると、第2・四半期に欧州の包装用産業向けリサイクルプラスチックの需要は前年同期比で20-30%減少した。ポルトガルのリサイクル会社エクストゥループラスのサンドラ・カストロ最高経営責任者(CEO)によると、同時に新型コロナ流行で自宅にこもった人々の間で「断捨離」が広がり、リサイクル用のごみは増えている。「リサイクル業者の多くは処理が追いついていない。自分たちが生み出したごみの解決策を提供できなければならない」と話した。
コカ・コーラは9月、ロイターの取材に、英国の包装材料におけるリサイクル品の比率を2020年初頭までに半分に引き上げるとの目標について、新型コロナの影響で達成時期が遅れると明らかにした。11月には目標が達成できると見込んでいる。
NGOの「ブレーク・フリー・フロム・プラスチック」の調べによると、コカ・コーラ、ネスレ、ペプシコの3社が2年連続でプラスチックごみ汚染企業のトップ3となっている。
3社は数十年にわたりプラスチックのリサイクルを増やすとの自主的な目標を掲げているが、おおむね達成できなかった。
ネスレの広報担当者は「バージン材料よりも高い価格でリサイクルプラスチックを購入することも少なくない」と述べ、原料リサイクルへの投資は最優先課題だとした。
この3社のリサイクル・ごみ清掃プログラムへの投資は7年間で総額2億1500万ドル。ICISとウッド・マッケンジーは、リサイクル向けの投資が今のペースなら目標達成はおぼつかないとしている。
<クジラ300万頭分の廃棄量>
ピュー・トラストが6月に公表した調査によると、各社が発表済みのリサイクル目標を達成しても、海洋投棄されるプラスチックごみは現在の1100万トンから2040年には2900万トンに増加する。投棄の総量は6億トン、シロナガスクジラ300万頭の重量に達する計算だ。
「廃棄プラスチックをなくす国際アライアンス」は国際的な懸念の高まりを受けて、発展途上国で清掃作業を行っている小規模なNGOと協力関係を結ぶと発表した。
国際アライアンスのジェイコブ・デュアーCEOは「一夜では変わらないと分かっている。われわれにとって重要なのは、私たちのプロジェクトが終着点ではなく出発点だと見なされることだ」と話した。
(Joe Brock記者、取材協力:Neil Jerome Morales記者、Catarina Demony記者、Noah Browning記者、Karen Lema記者、Heekyong Yang記者、大林優香記者、Marwa Rashad記者)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab