2005年までワカメちゃんの声を担当した野村道子さん(撮影:田山達之) 画像を見る

「2月10日、スポーツジムでストレッチをしていたら、インストラクターに『タラちゃんの声の人が亡くなったそうです』とニュースを教えてもらって……。“また一人、家族のような仲間が亡くなってしまった”と、がくぜんとしました」

 

アニメ『サザエさん』(フジテレビ系)で、ワカメちゃんの声を約30年担当した声優の野村道子さん(84)はこう語る。フグ田タラオ役を担当していた声優の貴家堂子(さすが・たかこ)さん(享年87)の突然の訃報。番組当初からサザエさん役をつとめる加藤みどりさん(83)の悲しみも深かったという。

 

「13日、“どり”(加藤みどりさん)と電話で話すと、長年の仲間を亡くして力が抜けたのか『さみしいね。やる気がなくなっちゃうよねえ』とこぼしていました。でも、亡くなる3日前まで収録をしていたようなので、生涯現役を通すことができて、声優冥利に尽きる人生が送れたんじゃないでしょうか」

 

60年以上、ともに仕事をしてきた貴家さんとの思い出は尽きることがないという。

 

「昔はいろんな現場で一緒になりました。私が主役の現場が終わると、次の現場では貴家ちゃんが主役だったり。NHKの小学生向けの理科の学習番組や、アメリカの実写ドラマの吹き替え、アニメ作品でコンビを組むことも多かったんです。私と同じように、貴家ちゃんの実家も病院だったから、すごく話が合ったのかもしれません。よく遊びに行ったりしたものです。

 

モダンダンスを一緒に習いに行った時期もあって、レッスン後は四谷の居酒屋で飲んで、恋バナで盛り上がったりしました。貴家ちゃんは、洋服は既製品のものは着なくて、おあつらえしたものばかり。メークもせずにいつもすっぴん。一言で言うと、おだやかで、あまり動じずに、優雅な笑顔でいるような、いいとこのお嬢様というか、妖精のような人。そんな貴家ちゃんに、年下の旦那さんはぞっこんでした(笑)」

 

撮りだめをせず、毎週木曜日、決まった時間に収録があった。年末年始も夏休みもなく、風邪をひいてもけがをしても、親の通夜があっても収録の予定は変わらない。

 

「11時に行くと、入口で一人1冊ずつ台本を手に取って、そのままスタジオで簡単に1回、合わせてみて、すぐに本番。みんな慣れたもので、13時には収録が終わっていました。台本には、自分のセリフに印をつけたりするんですが、貴家ちゃんは“印を入れると、自分のセリフしか見えなくなる。全体を見るために全員の台本を読む”という昔ながらのスタンスで、まっさらな台本を手にしているんです。

 

でも、印がないものだから、たまに出トチリ(出番を間違える)するんですよ。それで冗談まじりに文句を言ったりしても、ふーんという感じで動じず、涼しげな表情。そのあたりが、やっぱりお嬢様的なんですよね」

 

2005年までワカメちゃんの声を担当した野村さん。先日亡くなった貴家さんに最後に会ったのは、2~3年前だった。

 

「私が収録スタジオに遊びに行って、旦那さんが体調を崩していた“どり”の話を聞いていたんです。すると貴家ちゃんが私たちの脇を通って『みんないろいろあるから、みっちゃん(野村さん)がちゃんと話を聞いてあげなさいね』って言って、すっと去っていったんですね。あのとき、久しぶりに会ったんだから、もうちょっと話しておけばよかったなって後悔しています」

 

貴家さんの大きな穴を埋めるため、今後、別の声優がタラちゃんの声を担当することになるだろう。

 

「声や言い回しなど、貴家ちゃんの作ったイメージを守りながら、オリジナルのテイストを入れていくことになるので、すごく大変です。でも、がんばって、貴家ちゃんが命を吹き込んだタラちゃんを、ずっと守り続けてほしいですね」

 

多くの名優が育んできたサザエさんファミリーは、これからも引き継がれていく。

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