2022.03.13
# ロシア

プーチンはなぜウクライナの「非ナチ化」を強硬に主張するのか? その「歴史的な理由」

浜 由樹子 プロフィール

例えば、2020年、ゼレンスキー大統領は、ナチ・ドイツとソ連が共謀した独ソ不可侵条約が第二次世界大戦を、そしてホロコーストの実行を可能にしたと発言した。これは、間接的に、ソ連にもホロコーストの責任があると(ユダヤ系の出自を持つ大統領が)主張しているということになる。

いうまでもなく、これに対してロシアは猛反発した。議論は欧州議会や国連にまで波及し、ロシア国内では、翌年7月に第二次世界大戦でのソ連の決定や行為を公にナチ・ドイツと同一視することを禁じる法改正が行われた。

 

「バンデラ主義者」とは何か

「ネオナチ」という言葉と並んで、「バンデラ」「バンデロフツィ(バンデラ主義者たち、バンデラ一派)」という用語が、プーチン大統領や政府高官の発言、国営メディアにも、ウクライナを非難する文脈で登場する。しかし、日本のメディアでは、この意味についても誤解、誤読が散見される。

この用語自体は、「ウクライナ・ナショナリスト」を指す言葉としてソ連時代から使われてきたが、もともとはステパン・バンデラ(1909-1959年)の名前に由来する。バンデラは、戦間期から第二次世界大戦中にかけてポーランドとソ連の両方と戦った活動家であり、極右的な準軍事組織を率いた人物である。

ウクライナの見解では、彼はウクライナの独立のために戦った「自由の闘士」「独立の英雄」ということになっている。しかしながら同時に、彼は1941年と1944年にナチ・ドイツと協力した「ナチ協力者」でもある。彼とその仲間が発表した声明には、反ユダヤ主義が色濃く表れており、ロシア人、ポーランド人、ユダヤ人を「敵対民族」として排斥することが謳われていた。

また、ナチズムの思想に通じる純血主義も窺われるが、こうした側面はウクライナではあえて触れられない。言及されることがあったとしても、ソ連の支配からウクライナを解放するために、「敵の敵は味方」の論理でドイツと手を結んだに過ぎない、ということになる。

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