10月15日放送の「火曜サプライズ」で、仕事がなくて水道で空腹を満たすくらい困った時代があったと語っていた賀来賢人さん。しかしいまは映画に舞台にドラマに大活躍。彼が絶好調の理由とは――。

インタビュー・文/菊地陽子 写真/山本倫子

小学校から高校卒業までの12年間、
面白い奴が一番強いって信じてた

撮影/山本倫子

かつて、大手企業の新卒採用担当者から、こんな話を聞いたことがある。

「面接をしながら、“いいな”“一緒に働いてみたいな”と思う学生は、具体的なエピソードを持っていて、それを簡潔に、面白く話せる人物だ」と。

確かに、インタビューを生業にしていると、「今日は面白い話を聞けた」と思う時は、エピソードが具体的で生き生きとしているか、「自分はこう考える」というその人の“視点”とか“見解”にオリジナリティが感じられる時であることが多い。

賀来賢人さんに初めてインタビューしたのは、6年前のことだ。『悪霊』という松尾スズキさんの舞台に出演することになり、舞台に対する意気込みを聞いた。その時は、「映像も好きですが、舞台は、いつも自分に目標をくれる。鍛えられる。修行の場みたいなものです」と話していた。

小学校から高校を卒業するまでの12年間を、男子校で過ごしたせいか、「中学の、普通なら色気づく時期になっても、“カッコつけなきゃ”みたいな発想は微塵もなくて。誰もが、いかに仲間の“笑い”を取れるかに必死でした。12年間、“面白い奴が一番強い”って信じてた(笑)」。

 

そんな中、ドラマ『木更津キャッツアイ』を観て、「楽しそうだな」「ああいう現場に自分もいたい」「自分にもできるかもしれない」というシンプルな動機で役者を志した。でも2009年、20歳の時に『銀色の雨』で映画に初主演した時、打ちのめされた。

台詞の一言一言にいちいちダメ出しされて。生まれて初めて追い詰められました」

でも、その経験があったからこそ、“俳優としてちゃんと頑張ろう”と思えたという。ーー24歳の賀来さんは、そうやって、自分の内面に起こったことを、くるくると表情を変えながら描写した。インタビューを終えた帰り道で、「エピソードが豊富で、面白かったね」と編集者と話したことを覚えている。

それから、テレビや映画はもちろん、いくつかの舞台で、活躍する彼を観た。17年には、ドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』と映画『斉木楠雄のΨ難』で、喜劇作家の福田雄一さんとタッグを組んだ。映像の中でも、彼の喜劇役者としての適性が花開いている感じがした。そして昨年、福田さんが脚本・演出を担当したドラマ『今日から俺は!!』で主演を務め、“面白い奴が一番強い”と信じて突き進んできた男の真骨頂を見せつけた。

そんな中、赤堀雅秋さん作・演出の舞台『流山ブルーバード』にも出演。ある意味、「今日俺」と同じ“青春群像劇”だが、もっとずっと窮屈で、ささくれた青春の中にある“乾いた笑い”を表出させていた。みっともなさの中に潜む、笑うことで紛らわせるしかない現実。嫌な奴、可愛げのない奴を思う存分演じられるのも、言ってみれば、舞台の特権なのである。