ジェンダーのゆがみが顕在化しやすいのは災害時だという。生理用品の備蓄が足りなかったり、女性が使いづらいトイレの改善が進まなかったりする課題は能登半島地震でも浮かんだ。週末ごとに高速道路のサービスエリアの女性用トイレに長蛇の列ができるのも同様の理由からだ、と瀬地山さんは訴える。

「これらが放置されているのは、意思決定のプロセスにかかわる女性が不十分である証左とも言えます」

 韓国では女性候補を多く擁立した場合、政党助成金の配分比率が高くなる制度がある。韓国でこうした制度が実現した背景には政権交代があるという。日本でも女性議員の比率が過去最高だったのは09年の11.3%。政権交代が起きた年だ。政界の地殻変動が起きれば、新しい勢力の中から女性議員も増えやすい状況になる、と瀬地山さんは言う。

反動で女性ゼロ

 閣僚はどうだろう。昨年9月の岸田政権の第2次改造内閣で女性閣僚が過去最高に並ぶ5人になった一方、50人を超える副大臣と政務官は全員男性だった。これは「女性閣僚を増やした反動」と瀬地山さんは見る。22年8月の第1次改造内閣で女性閣僚が2人にとどまったことが一部で批判されたことを踏まえ、女性閣僚を増やしたものの、その反動で次世代の閣僚候補である副大臣や政務官にすべて男性を据えざるを得なかったというわけだ。

 昨年の内閣改造をめぐっては、女性閣僚の起用について岸田文雄首相が「女性ならではの感性を発揮してほしい」などと会見で発言したことも物議を醸した。瀬地山さんは「女性としての意見を聞かせてほしいというのは、それ自体が差別になり得る」と批判しつつ、「2段階のステップが必要な面も否めない」と言う。「最低限の女性の声をくみ上げる」システムが機能しなければ、「女性の声は一つではない」という当たり前の段階に進めないからだ。

 このステップを通過してきた自治体がある。北海道江別市だ。

カフェ閉めて市議選に

 同市の女性議員は1975年の市議選で初めて誕生。その後、数人の女性市議が常に議席を確保した時期を経て、07年以降は10人以上が続く。19年の市議選で定数25人のうち女性議員が12人と48%を占め、全国の市区で比率がトップになった。

 同年の選挙で初当選した猪股美香市議(40)は福島県鏡石町出身。江別市とは縁もゆかりもなかった女性がなぜ、市議に当選できたのか。

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