繊維の女王として未だその地位を譲らない絹(シルク)は,衣料用素材として6000年以上の歴史がある。カイコが常温常圧で紡糸するメカニズムは,シルクの特徴的な化学構造によるところが大きい。このメカニズムを有効に生かすことで,シルクタンパク質を水溶媒により常温常圧で,フィルム,スポンジ,ゲル,ナノファイバー不織布へ加工することが可能となる。一方,シルク(絹糸)は,外科用縫合糸として古くから臨床的に使用されてきた生体親和性に優れた医療用素材でもある。加工性と生体親和性を生かすことで,医療用材料として,特に再生医療用細胞足場材料としての,シルクの利用研究が活発化している。シルクスポンジ内に軟骨細胞を播種して,軟骨欠損モデル動物に適用したところ,広範囲の軟骨欠損患部に良好な軟骨組織の再生が確認された。新しい軟骨再生治療法へのシルクの活用が期待できる。