腸内細菌学雑誌
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総  説
Clostridium difficile腸炎とプロバイオティクス
岡 健太郎高橋 志達神谷 茂
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2015 年 29 巻 4 号 p. 177-185

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抄録

Clostridium difficileは芽胞形成性のグラム陽性偏性嫌気性細菌で,主に抗菌薬投与後に下痢や偽膜性大腸炎(pseudomembraneous colitis, PMC)などのC. difficile関連下痢症/疾患(C. difficile-associated diarrhea/disease, CDAD)を引き起こす原因菌として知られている.本菌は一部の健常者の腸内に定着する常在菌の一種であり,通常は他の腸内細菌により抑制されているが,抗菌薬の投与により正常腸内細菌叢が撹乱されると異常増殖と毒素(トキシンAおよびトキシンBなど)産生を引き起こしCDADが発症する.抗菌薬関連下痢症(antibiotic-associated diarrhea, AAD)のうち,5-20%が本菌によるものと考えられており,治療には原因抗菌薬の中止とバンコマイシンまたはメトロニダゾールの経口投与が有効であるが,10-35%に再発が認められ,近年では再発を繰り返す症例が問題となっている.CDADは,腸内に定着した常在性C. difficileによるものの他に,保菌健常者やCDAD発症者の糞便を介した接触感染が主な感染経路であり,特に芽胞を形成する菌であることから,芽胞が長期間にわたって環境中に生残して院内感染や再発の感染源となることが考えられる.特に入院患者では,本菌の検出率は入院期間と相関することが知られている.また,芽胞は抗菌薬に抵抗性であることから,再発例の一部では,治療後に芽胞の形態で腸内に生残して再発を引き起こすものと考えられる.従って,CDADあるいは再発性CDADの治療および予防法としては,原因抗菌薬の中止やバンコマイシンまたはメトロニダゾールの経口投与による治療や接触感染予防策や環境清掃などによる一般的な感染予防法に加え,抗菌薬の使用制限による正常腸内細菌叢の撹乱防止や,何らかの方法による正常腸内細菌叢の維持および早期回復が重要となる.これまでに,正常腸内細菌叢の維持および早期回復を目的としたプロバイオティクスによる予防の有効性が多数の研究者により報告されており,CDADの治療および予防においては,主に抗菌薬の補助療法としてプロバイオティクス製剤等が使用されている.プロバイオティクスには病原性細菌の生育阻害作用と腸内細菌叢の改善作用があることから,C. difficile腸炎の予防や治療補助に有効であると考えられるが,その効果や作用機序はプロバイオティクスの菌種や菌株によって異なり,菌種あるいは菌株ごとの大規模臨床試験による科学的検証が望まれている.

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© 2015 (公財)日本ビフィズス菌センター
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