私たちが日々楽しんでいるコーヒー。このコーヒーが、見えないところで私たちの健康を守ってくれているという驚きのエビデンスが続々と報告されている。その健康効果の核となるのが抗酸化成分のポリフェノールだ。その効果について、前回記事(「コーヒーで糖尿病のリスク下がる 運動に匹敵する効果」)は、コーヒー摂取が糖尿病リスクを下げる強力な予防因子であることや、ポリフェノール摂取量が多いほど総死亡、心血管疾患、脳卒中リスクが下がることを見てきた。

 今回は、コーヒーポリフェノールの血管への影響などについて、引き続き、ネスレ日本 ウエルネスコミュニケーション室室長の福島洋一さんに聞いた。

コーヒーポリフェノールは体内で長くとどまって働く可能性

 コーヒーの健康効果を担うとされる抗酸化成分、コーヒーポリフェノール。前回記事でも示したが、1杯150mlのコーヒーには約300mgのポリフェノールが含まれている(下図)。

主な食品、飲料に含まれるポリフェノール含有量(100gあたり)
主な食品、飲料に含まれるポリフェノール含有量(100gあたり)
主な食品、飲料に含まれるポリフェノール含有量を調べると、コーヒーは赤ワインに次いで100gあたりのポリフェノール含有量が多い。コーヒー1杯(約150ml)には約300mgのポリフェノールが含まれる。

 ここで、あらためて、コーヒーポリフェノールとは何なのかをおさらいしたい。

 「私たちが食品から摂取するポリフェノールは、8000種類以上もあるといわれ、代表的なのが茶カテキン、かんきつ類のヘスペリジン、タマネギのケルセチン、ベリー類のアントシアニンなどです。コーヒーポリフェノールは、クロロゲン酸類が代表的ですが、焙煎によって褐変物質のメラノイジンも生まれます。ただし、コーヒーのメラノイジンは褐変しても抗酸化作用を有することが確認されています」(福島さん)

 コーヒーにはポリフェノールが豊富に含まれることは分かった。では、このポリフェノールが、体内に入った後、どのように吸収され、健康効果を発揮してくれるのだろうか。

 福島さんは以下のように説明する。

 「ここ20年間ほどで、ポリフェノールがどのように体内で働くかについての研究が大きく進展してきました。例えば、緑茶に豊富に含まれる茶カテキンは摂取後小腸で吸収され1~2時間血中を巡り、3時間後には尿から排せつされるため、こまめに飲むことが大切、とされています。一方、コーヒーポリフェノールは、長く血中にとどまっていることが分かってきました」(福島さん)

 健康なボランティアを対象に、コーヒー摂取後に血中に現れるクロロゲン酸類代謝産物を時間を追って観察した研究がある(*1)。これによると、摂取後30分のときにクロロゲン酸類代謝産物の濃度がいったん上がり、再び4~6時間後にも濃度が上がった。なぜ、2回にわたって濃度が上がるのだろう。

*1 Biochem Pharmacol. 2017 Sep 1;139:24-39.

 「緑茶の茶カテキンと異なり、コーヒーは小腸で吸収されるだけでなく、大腸にも到達し、腸内細菌叢によって食べられた後に形を変えたポリフェノールとなって血中を長時間巡ることが分かってきました。このような特殊な仕組みにより、コーヒーポリフェノールのうち少なくとも8割は吸収され、体内で有用な働きをしているのではないかと考えられています」(福島さん)

コーヒーポリフェノールと血管の関係は?

 面白いことに、コーヒーポリフェノールの血中濃度が上がるのと同じタイミングで、血管内皮機能の改善が見られた、という研究も報告されている(下図)。

コーヒーをとると血管内皮機能が高くなった
コーヒーをとると血管内皮機能が高くなった
健康な成人男性15人にコーヒー(クロロゲン酸類として89mgまたは310mg)、コーヒーと同等のカフェインのみ(コントロール群)を摂取してもらい、その後5時間までの血管内皮機能(血流依存性血管拡張反応:FMD)を測定した。その結果、クロロゲン酸類を強化したコーヒー、通常のコーヒーはいずれも摂取1時間後、5時間後に血管内皮機能が有意に改善した。この研究により、コーヒーによる血管内皮機能改善には主にコーヒーポリフェノールが関わっていることが示唆された。(データ:Clin Nutr. 2017 Dec;36(6):1520-1529.より作図)

 血管内皮機能とは、加齢とともに進行する動脈硬化と関わる血管の働き。この機能が衰える「血管内皮機能障害」が血管で起こると、動脈硬化が進行していく。

 血管内皮機能に対するコーヒーポリフェノール(クロロゲン酸類)の効果を確認したところ、摂取1時間後と5時間後に、コーヒー摂取群では血管内皮機能が有意に改善した。

 「まさにポリフェノールが吸収されるタイミングとシンクロして、血管がしなやかになったのです。血管内皮機能が1%改善すると、循環器疾患リスクが13%低下する、というメタ解析研究もあります。人は血管とともに老いる、といわれますから、血管がしなやかになることは全身の健康状態の維持に寄与するといえるでしょう」(福島さん)

飲まなくても問題ないけど、飲み続けると「お得」な飲料?

写真はイメージ=123RF
写真はイメージ=123RF

 前回、今回とコーヒーの健康効果について見てきたが、ポリフェノールをはじめとした、コーヒーに含まれる成分が病気リスク低減に強く関わっているようだ。日常的に摂取し続けることで、さまざまな効果が期待できる、健康維持のための心強い飲み物といえる。

 「コーヒーの面白さは、ビタミン類やたんぱく質のように、栄養素ではないところ。“とらなくても死なないけど、とっていると非常にお得”というところだと考えています」(福島さん)

 カフェインの影響を考えて夕方以降のコーヒーは控えている人も、コーヒーと同様にポリフェノールを豊富に含むデカフェを飲むと、寝ている間にもコーヒーポリフェノールが抗酸化作用を発揮してくれるといえる。

 もちろん、コーヒーの健康効果を担うのは、コーヒーポリフェノールだけではない。次回は、カフェインと認知症などとの関わり、カフェインのとり方の注意点について聞いていく。

(グラフ制作:増田真一)

福島洋一(ふくしま よういち)さん
ネスレ日本ウエルネスコミュニケーション室室長
福島洋一(ふくしま よういち)さん 東京農工大学農学部農芸化学科卒業、同大学大学院修了後、ネスレ日本入社。農学博士。ネスレ中央研究所(ローザンヌ)、ネスレリサーチ東京R&Dプロジェクトマネージャーを経て2010年より現職。主にコーヒーや抹茶の機能性研究に取り組む。人間総合科学大学非常勤講師。

[日経Gooday(グッデイ)2022年3月8日掲載]情報は掲載時点のものです。

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