3月米ジェイムズタウン財団が発行する雑誌「チャイナ・ブリーフ」は、記事「中国の戦略思想=21世紀の人民戦争」を掲載した。
 それによると、人民戦争は静態的な理論ではなく、機械化と情報化が人民解放軍の近代化をもたらし、「人民戦争の内容と形式を革新している」(2008年中国国防白書)とし、先の全国人民代表大会常務委員会は、「国防動員法」を可決し、「国家の主権・統一。領土の完全性及び安全が脅かされた時」に、民間の資源を徴用する法的根拠とし、同法の成立は人民戦争が中国の戦略思想において、今なお継続していることを示すものとなったという。
 人民戦争とは持ち得るすべての力を戦争に動員することであり、平時には予備役が「社会化」、あるいは軍の「外部」に置かれている状況を指す。海上・航空輸送は、もとより、情報戦では民間のハッカーを含めた「人民サイバー戦争」が展開されるだろうという。
 しかし、昨年起きた中国近海での米海軍調査船を巡る問題では、人民戦争モデルは効果を上げることができなかった。成功にはあらゆる資源の大規模投入が不可欠なことを事件は明らかにしている。つまり人民戦争を展開するには遠隔地よりも中国本土、あるいはその周辺で行う方が成功する確率が高い。そうした点から人民戦争戦術を転換するべきでははとの声も上がっている。しかし、人民解放軍の共産党に対する絶対的な忠誠がある限り、つまり「党が銃を管理する」(党が鉄砲を支配する)時代が続く限り、人民戦争は中国の戦略思想の中核であり続けるだろうと。
 中国マスメディアの常套手段春秋の筆法である。つまり米国の雑誌記事を引用しながら、意見を述べるやり方である。
 要は、党と軍の関係(党の軍隊)の現状追認であり、正当化である。
 毛沢東の人民戦争理論は、消耗戦、戦略持久・戦術攻勢思想であるが、現実の人民解放軍が進めている近代化は、ハイテク化、機動戦、戦略攻勢・戦術防御思想で、超限戦を志向するものである。違いがあるにもかかわらず、それを人民戦争、なおかつ21世紀の人民戦争モデルとまで持ち上げ、毛沢東で権威付けをし、党の軍隊を主張し、人民解放軍の国軍化(国家の軍隊)には進みたくはないのであろう。あくまで中国人民解放軍は、党の軍隊として置いておくが、実態は、国防動員法に見られるように近代化(国家化)を進めるものである。名は人民戦争論であるが、実は近代国家戦論である。つまり、毛沢東の戦争論を大義名分としながら、その実態は近代化機動論への移行であって、それを動態的な思想と正統化しているようである。

註:「中国の戦略思想は、21世紀の人民戦争モデル-米誌」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100328-00000010-rcdc-cn
  「中国国防動員法成立」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/61144971.html
  「梁国防相党の軍隊化に反対?」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/60839267.html
  「中国広域機動演習開始」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/60366268.html
  「2008年中国の国防分析」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/59729508.html
  「黄海で中国漁船米海軍海洋調査船を妨害」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/59530916.html
  「2008年中国の国防」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/58388297.html
  「チベット超限戦」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/54463186.html
  「チベット人民戦争宣言」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/54348845.html
  「情報民兵」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/39261305.html
  「超限戦」http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/33008587.html