芭蕉db

千那宛書簡

(貞亨2年5月12日 芭蕉42歳)

書簡集年表Who'sWho/basho


貴墨辱拝見、御無事之由珍重存候*。其元滞留之内得閑語候而*、珍希覚申候。
一、愚句其元に而之句*
辛崎の松は花より朧にて  と御覚可下候*
山路来て何やらゆかしすみれ草
其外五三句も有之候へ共、重而書付可申候*
一、此秋・此萩之あらそひ*、尤此道、是非をあらそふも道のひとつに而*御座候へ共、あながちに口論を好事、愚意*好しからず候間、兼而能程に*御おらそひ御尤候。
一、其角へ御状、重而返状可仕候*。嵐雪他国へ罷候間不貴報*。何やらかやらいまだ取込、旧友久々咄共指つもり、手透無御座*、貴報早々のみ。
一、渋谷与茂作殿*御堅固に相見え候。御手跡見覚候*。 以上
   五月十二日              芭蕉桃青書判
 千那貴僧

 本書簡は、『野ざらし紀行』の旅を終えて江戸に到着した貞亨2年4月上旬から約半月後、近江の門人千那に宛てて書かれた返書である。「辛崎の松は花より朧にて」や「山路来て何やらゆかしすみれ草」などの句の推敲過程が見える。