収拾がつかない最低賃金論争 金融政策で雇用増、持続的な経済成長が解決の近道

2014.01.10

 米国で最低賃金引き上げを求める声が高まっている。

 この論争ははっきりと2つの派に分かれる。代表的な経済学教科書である『マンキュー入門経済学』でも書かれているが、最低賃金の問題では、データを吟味すれば主張の正しさを論証できる「である」論(実証論)と、価値観を前提として平行線になる「べきだ」論がしばしば混同される。

 しかも、「である」論でも確実な答えはあまり出ないので、実際の政策論争では、「べきだ」論が幅をきかせる。その結果、議論している経済学者の間の価値観の違いは埋めがたくなり、論争は終わらない。今の米国経済界はまさにこの状態だ。

 労働者サイドの立場を強調する価値観からは、最低賃金を引き上げるべきだという「べきだ」論が主張される。それを補強するように、最低賃金を引き上げれば所得増で消費が増え、さらに雇用も増えるという「である」論も出てくる。

 一方、企業経営者サイドの立場を強調する価値観からは、最低賃金を引き上げるべきではないという「べきだ」論が主張される。また、最低賃金を引き上げればむしろ職を奪うと「である」論で反論する。

 本来であれば、「である」論のところで決着が付くはずだ。しかし、最低賃金について、伝統的な経済学では、最低賃金制はそれより低くても労働しようとする雇用を減らすという考えが有力だったが、この考え方は労働市場を完全競争市場とみているという点で致命的な誤りがある。

 最近では、最低賃金によって労働者のインセンティブが高くなるため弊害は少ないという考え方もあり、これまでの実証研究の結果ではどちらが正しいのかはっきりしていない。これがミクロ的な経済学の現状である。このため、経済論争が「べきだ」論の価値観の争いになって、収拾がつかない。

 雇用を考える際、まず検討されるべきは金融政策である。米国では雇用の確保のために金融政策を行うことが法律で規定されているために、まず金融政策を考えるのは当然として、その上で最低賃金の論争が行われている。

 日本では、いまだに金融政策が雇用の確保に役立つことが理解されていない。本来雇用を守る立場であったはずの民主党政権において、就業者数は2009年9月の6300万人から12年12月の6255万人と45万減少した。しかし、自公政権になってから金融政策で劇的な変更が行われた結果、就業者数は13年11月の6350万人へ95万人も増加した。

 こうした雇用増加の過程においては、実質賃金が低下することもある。これは既存の労働者に多少のデメリットかもしれない。しかしながら、雇用の増加は、新規を含めた労働者全体にとっては大きなメリットになる。最低賃金の引き上げ議論の前に、金融政策をしっかり行うことを考え、雇用の増加をまずは目指すべきである。次に、雇用の増加を達成した上で、持続的な経済成長によって賃金の上昇を考えたらいい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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