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ヤマザクラも交ざっている可能性
2014年、森林総合研究所の研究グループは、ソメイヨシノのDNA分析を行い、DNAの塩基配列に見られる特徴的な繰り返し配列部分を26か所にわたって分析し、ソメイヨシノの遺伝子がどういう集団に由来するのかを調べた。その結果、エドヒガン由来の可能性が一番高く、次いでオオシマザクラ由来の可能性が考えられた。三番目にはヤマザクラに由来する可能性も、DNAの特徴から推定できることがわかった。
研究グループの勝木俊雄博士(49歳)(同研究所多摩森林科学園サクラ保全担当チーム長)は、約25年にわたり桜の研究に取り組んでいる第一人者。岩波新書「桜」を著し、科学番組では桜博士と紹介されている。ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの雑種とこれまで考えられてきたが、DNA分析の結果から勝木さんは「おそらく、オオシマザクラにヤマザクラが少し交ざったものと、エドヒガンから生まれたのではないか」とみている。
勝木さんたちの研究グループは昨年12月、国際植物分類学連合の発行する専門誌に、ソメイヨシノなどサクラ類の交雑種の分類について整理した論文を発表した。
済州島のエイシュウザクラはソメイヨシノの起源だとする昔の説が韓国では今も信じられており、勝木さんは韓国のメディアからその件で取材を受けたこともある。学界でも、エイシュウザクラにソメイヨシノの学名「プルヌス・エドエンシス」をそのまま使ったうえで、同じ仲間ながら少しだけ違うソメイヨシノの「変種」と位置づけていて混乱していた。
そこで今回の論文では、済州島の現地調査と形態学的な検討を踏まえ、エイシュウザクラはエドヒガンとオオヤマザクラの種間雑種と位置づけ、エドヒガンとオオシマザクラの種間雑種(ソメイヨシノ)とは厳格に区別した。勝木さんによると、国際組織の専門誌に論文を掲載したことで、学問的には「ソメイヨシノとエイシュウザクラは別物」ということが決着し、ソメイヨシノは純日本産であり、まさに「日本の桜」だと位置づけられるという。
生い立ち調べるのは植栽管理のため
それにしても、科学者はどうしてソメイヨシノの生い立ちを調べるのだろう。勝木さんによれば、理由は二つある。ソメイヨシノは全国の公園や街路、堤防などに植えられており、植栽管理の必要がある。病気に強いのか弱いのか、低温や乾燥といった環境条件でどの程度耐えられるのかなど、ソメイヨシノの特徴を理解しておく必要がある。由来をはっきりさせることは、ソメイヨシノの性質を知る基礎データ集めの作業だという。
そして、もう一つは純粋に科学的な興味。人の手で増やされているこれほど身近な植物がどういう生い立ちなのか気になる、ということだ。
ここまで、ソメイヨシノの起源を探る研究を紹介してきたが、ソメイヨシノとヤマザクラなど他の桜を見分けることはできるだろうか。専門家は、花の色、咲くときに葉が出るかどうか、生えたばかりの葉(若葉)の色などの特徴から識別しているが、素人目にはなかなか違いがわかりにくい。
そこで勝木さんに、簡単な見分け方を教えてもらった。ポイントは花の色と、若葉だ。カッコ内は分布域。
ヤマザクラ(東北南部~九州)=白い花、赤い若葉
カスミザクラ(北海道~九州北部)=白い花、褐色・黄緑色の若葉
オオヤマザクラ(北海道~九州)=赤みのある花、赤い若葉
オオシマザクラ(伊豆諸島、伊豆半島など)=白い大きな花、緑の若葉
エドヒガン(本州~九州)=赤みのある小さい花、花が咲いた時には若葉は出ない
ソメイヨシノ(北海道南西部~九州)=赤みのある大きい花、若葉は出ない
花見の時に、「おやっ、ソメイヨシノとちょっと違うんじゃないかな」と気づくことがあったら、花と葉の特徴からどの種なのか見分けるのもちょっと面白い。
日本気象協会が3月15日に発表したソメイヨシノの開花予想によれば、今年は九州、北陸、東海地方では平年並みまたは遅いところがあり、関東甲信地方から北海道までは、平年並みの予想だという。
桜前線は、3月22日に福岡市でスタートし、23日には、愛媛県宇和島市、東京都千代田区、横浜市で開花する見込みだ。九州から関東地方にかけての多くの地域で3月末までに開花の便りが届くだろう。これらの地域では開花から満開までの日数が1週間から10日前後となるため、新年度を満開の桜で迎えられるところが多いとみられる。4月上旬には北陸・東北地方南部で開花すると予想している。桜前線が津軽海峡を渡り、北海道で花見を楽しめるのはゴールデンウィークのころだという。