『なぜソケットやラチェットハンドルには、1/4インチ、3/8イン チ、1/2インチと いった区別があるんだろう?』と疑問に思う人もい るのではないでしょうか?

そもそもソケットレンチというものは、例えばラチェットとソケットという具合に組み合わせて使う工具のために、そのジョイントが必要とな ります。このジョイントする4角部分が差し込み角であり、その2面幅の大きさでサイズが示されます。一般的には、1/4インチ(6.35ミリ ).3/8インチ(9.5ミリ).1/2インチ(12.7ミリ)の3種類で、さらに大きなサイズもあります。

当然のことながら、差込角の小さい方がコンパクトな形状となり、狭い場所での作業に適しています。しかし、強度的には大きなトルクをかけることができません。逆に、差込角の大きい方がツール自体も大きくな り、狭い場所などでは使い勝手が悪いが、強度的には頑丈で大きなトルクをかけることができます。つまり差込角の大きさによって、締め付け トルク(※)と作業性が自ずと決定してしまうものなのです。

またソケットの大きさの範囲が、差込角によってだいたい次のように決まっています。1/4インチ(6.35ミリ)のソケットは、3ミリから14ミリ。3/8インチ(9.5ミリ)だと、6ミリから24ミリ。1/2インチ(12.7ミリ)だと、8ミリから32ミリ。はじめての工具の購入やバイクをメンテするには、9.5ミリがよいというのは、このような理由からなのです。

ソケットやラチェットの差込角に種類があるのは、ただ大きさの違いだけではなく、締め付けトルクと作業性に深い関わりがありますので作業場面に合った工具を選ぶことが大切だと言えます。


   
 
※【締め付けトルク】
ボルト、ナットなどを締め付ける時に必要な回転モーメント。
トルクは「力」×「長さ」で表わされ、その単位はSI(国際単位系)でN・m(ニュートンメートル)、重力単位系でkgf・m等があります。

差込角の種類
「ハンドル」 と 「ソケット」を連結するためのジョイント部を 「差込角」と呼びます。その4角部分の2面幅の大きさでサイズが示されます。
標準寸法:1インチ=25.4mm

差込角の小さい方がコンパクトで狭い場所での作業に適している。しかし大きなトルクをかけることができません。逆に差込角の大きい方は、ツール自体も大きくなり、狭い場所での使い勝手が悪くなるが、強度的には大きなトルクをかけることができます。

つまり差込角の大きさによって締め付けトルクと作業性が自ずと決定してしまうものなのです。

また工具のカタログをじっくりと見ていると、ソケットやレンチなどに 『面接触』という文字を見かけた人もきっと多いのではないでしょうか?

従来のソケットやレンチでは、ボルトやナットを回そうとする時、ボルトやナットの6角部の角にトルクをかけて回していました。つまり6角部の角とレンチの内面が線で接触しているため、力が一部分に集中してしまっていました。これによりボルトやナットの角を傷めたり、また角をなめたネジは、回すことが出来ませんでした。この点を改良するために考え出されたのが、面接触理論というものを採用したものです。

つまり面接触とは、ボルトやナットの6角部の角(山のエッジ)を避けて、面の部分をレンチの内面がとらえることにより応力の集中を抑えるようにしたものです。これによって、レンチの強度が高まり、ネジに対しても角を傷つけにくくなり、より確実な締め付け及び緩め作業が行なえるようになりました。場合によっては、角のなめたネジにも対応できることもあります。

そもそもこの面接触というものは、1960年代にスナップオンがアメリカの航空機サービスから「航空機に使われているボルトやナットの角に絶対にふれさせない工具」の開発要請があり、商品化したフランクドライブというものが元祖です。

その後、80年代に入ってこのスナップオンのフランクドライブの特許が消滅したことにより、日本のメーカーをはじめ世界の有名ブランドメーカーもこぞって面接触理論を採用したレンチを商品化してきました。

ちなみにフランクドライブという名称は、スナップオンの登録商標のため、国内外の各メーカーは、右※2のような名称を付けて呼んでおります。


面接触タイプ
ボルトやナットの6角部の角を避けて、面の部分をレンチの内面がとらえることにより応力の集中を抑えるようにしたもの。これによってレンチの強度が高まりねじに対しても角を傷つけにくくなりより確実な締め付けが行えます。


スタンダードタイプ

国内外のツールメーカー面接触タイプの名称※2
<日本>
●当社スエカゲツール(Pro-Auto):ウェーブドライブ
●ko-ken:フラットドライブ
●Tone:ストロングドライブ
●KTC:パワーフィット
●フラッシュ精機:パラボラ
<海外>
●FACOM(ファコム):OGV
●USAG(ウサック):Full contact
●STAHLWILLE(スタビレー):As-drive


上記のように、ソケットやメガネレンチのボックス部は面接触が主流となり、今やレンチの定番です。一方、伝統的な線接触のレンチは、ドイツのメーカーのハゼット(HAZET)の他、一部のメーカーだけになってしまいました。なんだか寂しい気がします。面接触により、より大きなトルクを伝達することができることは理論上は理解できますが、一流メーカー製の線接触のレンチはボルトやナットに対してのフィット感が抜群です。線接触を愛するあるプロのメカニックは、面接触のレンチはボルトやナットにレンチを入れた時にガタを感じると言ってました。

ガタといえば、必ずしも全ての面接触のものがいいとは限りません。多くの面接触型の工具の中には、形だけ一人前の面接触のタイプのものが あるかもしれません。ソケットやメガネ、スパナなどのレンチ類は直接ボルトやナットに対戦する最前線のツールです。非常に重要な役割と責任があることは言うまでもありません。だからこそ、国内外を問わず、真剣に作られた一流メーカーの加工精度の高いものを選ぶ必要があるでしょう。

上記で説明したように“ボックス部が面接触かそうでないか”の区別ではなくて、ハンドツールというものは外観上の表面処理方法によって大きく2種類に分かれます。
それは、
 ・ピカピカのミラー仕上げ(別名:鏡面仕上げ)と
 ・梨地仕上げ(別名:ショット仕上げ) 

です。
「どちらが優れているの?」「あなたならどちらを選びますか?」と結論を急ぐ前に作り方の違いをふまえて具体的に説明します。

■ミラー仕上げと梨地仕上げの比較
☆ミラー仕上げ

  ピカピカの鏡面加工を施したもの。
  高級感があり見た目の美しさと油などで汚れたときに
 ふき取りやすいというメリットがあります。
 現在の主流派となっています。

☆梨地仕上げ
  果物の梨の表面を思わせるザラザラしたフィーリング
  に仕上げられたもの。ヨーロッパではドイツの
  ハゼット(Hazet)やスタビレー(Stahlwille)に代表され
  ます。 質実剛健な趣があり、通好みの渋さを感じさせ
  ます。油手でも滑りにくいというメリットがあります。
※両者とも一長一短があり、どちらを選ぶかは結局好みの
  問題かもしれません。


ハンドツールの多くは、※鍛造(たんぞう)で形がつくられ、熱処理を 施されることによって強靱(きょうじん)な性質を与えられます。これだけでもツールとしての基本性能は充分満たされます。つまりこのままでも使用できるということです。しかしこのままだと、すぐに錆びてしまいますし、製品としての品質は低いといえます。そこで製造工程として、研磨工程(みがき工程)があり、さらにメッキ工程があって完成品となるわけです。

ミラー仕上げは、ピカピカのまばゆい鏡面に仕上げるものです。美しい表面を作り上げるためにひたすら磨きあげます。この作業工程を研磨工程といいます。またこの研磨にも
 ・バフ式
 ・バレル式
の2種類があります。バフ(buff)は「もみ皮」を意味します。つまりバフ式は、木綿の布などで素材の表面をこすることで、美しい表面を作り上げる方法です。手間がかかりますが、任意の場所の部分研磨ができるという メリットがあります。

一方、バレル(barrel)は「樽」を意味します。つまりバレル式は、樽の中に素材とバレルストンと呼ばれる研磨石を入れて前後左右にゆさぶり、カチャガチャみがく方法です。バフ式よりも磨く効率は高いが、任意の場所を磨く部分研磨ができないのが欠点といえます。

またバフ式もバレル式も研磨材の大小によって、荒目から細目という段階があります。以上の研磨を組み合わせた表面処理がミラー仕上げと呼ばれるものです。
もちろんピカピカのミラー仕上げにするためには、光を助長させる光沢剤というものも入れています。

梨地仕上げは、果物の梨の表面を思わせるザラザラしたフィーリングに仕上げるものです。その製造方法は、高速回転する翼車で多量のショッ ト(綱粒子)を連続的に遠心力投射することによって、素材の表面を磨くというものです。簡単に言えば、ごく小さなボール状の投射材という ものを素材に、はげしくぶつけてその表面を磨くという方法です。

この工程を専門用語でショットブラスト又はショットピーニングと呼ばれています。またぶつけるボールの大小によって、いろいろなフィーリ ングに仕上げることができます。ツールの全体を梨地に仕上げるものや、 ソケットやエクステンションの差込み部の外周の表面だけに、このような梨地仕上げを採用しているものもあります。

何ごとも派手好きなアメリカはメッキもまばゆいピカピカのミラー仕上げ。この傾向はアメリカだけにとどまらず、日本のメーカーも相次いでミラー仕上げのものを登場させました。フランスのファコムも昔は梨地仕上げでありましたが、数年前にモデルチェンジしております。

一方、梨地仕上げは、ヨーロッパはドイツのハゼット(Hazet)
スタビレー(Stahlwille)に代表されます。ピカピカの鏡面仕上げもいいが、こうしたザラザラした粗い仕上げも質実剛健な趣きがあって通好みの渋さを感じます。

上写真:
バレル研磨している様子。
樽の中に素材と
バレルストーン(研磨石) を入れて前後左右にゆさぶりガチャガチャ磨く方法。

下写真:
バレルストーン(研磨石)

実際にクルマやバイクをメンテナンスする場合は、油手(あぶらて=手に油がついている状態)のケースが多くありますので、表面がつるつるのミラー仕上げのツールで強いトルクをかけようとすると滑りがちです。梨地仕上げの場合、絶対に滑らないとは言えませんが、ミラー仕上げのものに比べると滑る可能性はかなり低いと言えます。しかし、ツールが油で汚れた時には、ミラー仕上げのものであれば簡単に拭き取ることができます。逆に梨地仕上げのものは、油が付いても拭き取りにくいと言えます。つまり両者に長所と短所があり、どちらを選ぶかは結局好みの問題といえます。現在一般的には、見た目の美しさと油を拭き取りやすいミラー仕上げのものが主流派となっています。しかしピカピカのミラー仕上げがトレードマークのスナップオンも実用主義社会のヨーロッパにおいては、鏡面仕上げがあまり受け入れられなかったようで、今ではスナップオンユーロツールというブランドネ−ムの梨地仕様で価格も抑えたラインも発表しています。

ピカピカのミラー仕上げの超高級ツールは使うのがもったいないということで、飾ったままにしているという話を聞いたことがありますが、はやり工具というものは使ってこそ、また使えてこそ価値あるものですから、ミラー仕上げ・梨地仕上げにしろ、ガンガン使った方がよいでしょう!
 
※【鍛造】(Forging)「たんぞう」と読み、文字どおり鍛えて造ると いう意味です。
ハンドツールだけではなく、多くの金属製品はこの鍛造という製造工程 を経ています。鉄の素材を型の上に置き、上から何トンものハンマーが落ちてきて(打撃を加えて)形づくる作業工程のことです。