讃岐うどん遍路

うどん天国 空前ブームの深層

7.ブランド

「偽物」で評判低下も

違法駐車が相次ぐうどん店周辺=仲多度郡内
違法駐車が相次ぐうどん店周辺=仲多度郡内

 「毎日のように来てくれる人もいて、やりがいはあります」。善通寺市内で「清水屋」を営む清水睦夫さんは目を輝かせる。脱サラ後に修行を経て、高松高等技術学校の「さぬきうどん科」に入学。調理や経営のノウハウを学び、昨年八月に開業にこぎ着けた。

 ブームのおかげで雑誌に再三取り上げられ、遠来客も少なくない。「想像よりは順調な滑り出し。売り上げがついてきていないから、成功とまではいきませんがね」と苦笑する。

 ブームを受けて昨年始まったさぬきうどん科。これまでに高松、丸亀の両高等技術学校で計七十五人が修了し、うち開業、開業準備中は実に十六人。このほか、高齢者だけで切り盛りしていた店への後継者出現や、元気のいい若手職人の台頭など、ブームは次代につながる財産を残した。

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 曲がりくねった路地を、スピードを落とさず走る車。向かう先は、がもう(坂出市)。店主の蒲生正さんはこぼす。「全国に名が知れて、遠いところから来てくれるのはありがたいが、マナーの悪い客が増えたよ」。

 何軒も店を巡ろうと三、四人で一杯を頼んだり、路上駐車を平気でしたり。「駐車場は増やしたんだが…。ご近所に迷惑をかけてしまう」と申し訳なさそう。

 山越(綾上町)も同様に、マナーの悪さが頭痛の種。農繁期には「違法駐車でトラクターが通れない」と苦情が相次いだこともある。

 常連客の敬遠現象も起きた。高松市の二十代の会社員は「食べに行きたいが、行列を見るとちょっとね」。店側も地元客に育てられてきただけに、残念がる。

 脚光を浴びた有名店は、一方で弊害に悩んでもいる。

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 「讃岐うどんは香川産」という業界の常識が、人気の全国的な拡大で崩れつつある。

 乾麺(めん)類の業界団体、県製粉製麺協同組合の佐々木謙二専務理事は「県外の工場で作られた麺が、讃岐うどんとして売られているようだ」と苦々しく話す。

 こんな経験もした。

 ある県外業者が「讃岐うどん」を販売していた。問い合わせると、香川のメーカーから麺を仕入れているという。が、そんな話は聞いたことがない。「ブームになる前からあった話だが、今はもっとかもしれない」。

 例えば土産用の生麺の場合、全国生麺類公正取引協議会が、公正競争規約で讃岐うどんの定義を設けている。▽県内で製造▽手打ち・手打ち式▽熟成二時間以上―などで、違反が重大なら公正取引委員会が指導に乗り出す。

 ところが、実際は製造基準を満たした上、「本場」「特産」などの字や香川の絵・写真を付けなければ、県外で作っても讃岐を名乗っても問題はない。「どこで作っても物は同じ」(同協議会、公取委)だからだ。

 さらに規約は会員だけに有効で、異業種参入などの未加盟業者には関係ない。公取委は「著しく誤認を招くなら景品表示法違反を適用する場合もあるが、製造基準を満たしてないからというわけではない」と現状を説明する。

 乾麺はもっとあいまいで、規約はなく自主的な申し合わせだけ。頼みの日本農林規格(JAS)法の品質表示基準でも、讃岐うどんとしての縛りはない。「はやると偽物は出る。訴えるのは時間とお金がかかるし、野放しにせざるを得ない」(佐々木専務理事)。

 業界が恐れるのは、ブームに便乗したまずいうどんが広がり、せっかくのブランドイメージが低下すること。「消費者は味に敏感だから、おいしくなければ長続きしないはず」と関係者は信じている。

(2003年12月8日掲載)

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