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  • 2013/11/27 掲載

ノーベル経済学者スティグリッツ氏が語る、米国資本主義の失敗と日本が取り組むべき課題

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2008年のリーマンショック以降、世界経済は大きく後退してしまった。株価はリーマンショック前の水準を回復しているものの、男性のフルタイムワーカーの所得は40年前よりも悪化し、平均資産は20年前とまったく同じ水準に陥っている。ノーベル経済学賞受賞者で、コロンビア大学 経済学部 教授のジョセフ・スティグリッツ氏は、「“富者が富めば貧者にも富が浸透する”というトリクルダウン経済はうまく機能しなかった」と評する。米国同様に金融緩和を進めるアベノミクスだが、本当に日本再生につながるのか。また日本が取り組むべき課題は何か。日立イノベーションフォーラム2013で、スティグリッツ氏が語った。

執筆:レッドオウル 西山 毅、構成:編集部 松尾慎司

執筆:レッドオウル 西山 毅、構成:編集部 松尾慎司

レッド オウル
編集&ライティング
1964年兵庫県生まれ。1989年早稲田大学理工学部卒業。89年4月、リクルートに入社。『月刊パッケージソフト』誌の広告制作ディレクター、FAX一斉同報サービス『FNX』の制作ディレクターを経て、94年7月、株式会社タスク・システムプロモーションに入社。広告制作ディレクター、Webコンテンツの企画・編集および原稿執筆などを担当。02年9月、株式会社ナッツコミュニケーションに入社、04年6月に取締役となり、主にWebコンテンツの企画・編集および原稿執筆を担当、企業広報誌や事例パンフレット等の制作ディレクションにも携わる。08年9月、個人事業主として独立(屋号:レッドオウル)、経営&IT分野を中心としたコンテンツの企画・編集・原稿執筆活動を開始し、現在に至る。
ブログ:http://ameblo.jp/westcrown/
Twitter:http://twitter.com/redowlnishiyama

“規制の不在”で景気後退を招いた米国経済

photo
コロンビア大学
経済学部
教授
ジョセフ・スティグリッツ氏
 はじめにスティグリッツ氏は、米国流資本主義の失敗について言及した。経済の“歪曲化”も発生しており、数多くの若者たちが金融業界に入ってくる反面、他の業界に入ってくる数は限定的になっているという。

「中産階級の平均所得は1996年よりも下がっており、特に男性のフルタイムワーカーの所得は40年前よりも悪化している。また平均資産は20年前とまったく同じ水準だ」

 また米国は他のあらゆる国以上に高等教育の不平等が起こっており、これが機会の不平等という問題につながっている。

「米国はチャンスのある国で、下層から上昇できると言われてきたが、それは“神話”に過ぎなかった」

 その背景にあるのが、高等教育を受けることの困難さだ。授業料はどんどん上がる一方で、所得は減少している。また高等教育のためにお金を借りなければならない学生たちが多く、彼らの負債総額は1兆ドル以上になっている。これはクレジットカードの債務総額を上回る額であり、次の経済危機の原因になる懸念がある。

「2008年に始まった景気後退は、さらに状況を悪化させた。にもかかわらず、2008年以降に生み出された利益の95%を受け取っているのは、実はこの経済的危機を作り出した米国のトップ1%の人たちだ。結果、不平等感、あるいは社会的な不公平感が米国中に蔓延している。ほとんどの米国民にとって、景気後退はまだ終わっていない」

 米国は実績を重んじる経済であり、社会だ。そこで実績を測る方法が求められる。企業なら利益、社会ならGDPに注目する。しかし、利益もGDPも指標としては不適切だったとスティグリッツ氏は指摘する。

「大きな富がトップに集中し、中間階層から最下層はますます悪い状況に立たされた。“富者が富めば貧者にも富が浸透する”というトリクルダウン経済はうまく機能しなかった。これで市場経済は、それ単独では効率的でもなく、安定したものでもないということがわかった」

 こうした中で、1つの考え方の変化がみられる。経済をトップダウンで構築するのではなく、中間層から構築するという考え方だ。中間層から構築することで、持続可能な経済成長がなされる。「そこで必要なのが規制だ」。

規制によって、成長と平等の同時実現を目指す

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 多くの場合、規制は経済を押さえ込むと言われているが、米国では十分な規制がなかったために、多くの富が失われた。

「赤信号を守る必要があるように、どんな社会や経済においても、規制の重要性を理解しなければならない。一連のルールであり、それによってお互いがどのように協調し合うかを示してくれる。1人の人間の失敗が、別の多くの人々に打撃を与えないようにしなければならない」

 しかし、米国には十分な規制はなかった。その結果、米国は間違った資源の配分が行われ、不平等が生まれた。不平等が当たり前な状況は、企業が利益を独占あるいは寡占化するために行うロビー活動、いわゆる「レントシーキング」を誘発する。実際に多くの企業がリッチになり、独禁法に反対するような動きをしている。

「もちろんイノベーションは生まれてきたが、それを使って独禁法に反する、自社の利益のみを確保するような動きをしていることが重要な問題だ。結果、経済全体のパワーを弱体化させ、多くの国民の所得は下がってしまった」

 そこで重要となるのが、成長をサポートしながら、平等もサポートすることだ。この2つはかつてはトレードオフだと言われていたが、そうではないとスティグリッツ氏は言う。

「不平等は単に経済的な力関係がもたらしたものではなく、政治的な選択の結果だ。米国はどこが間違っていたのかを考えなければならない。教育制度や税制、企業のガバナンス、破産法、マクロ政策など、さまざまな側面での理解を深め、状況を改善していくことが重要だ」

日本は包括的な枠組みを持つ数少ない国

 また、不平等は失業につながる。日本がなぜ成功していると言えるのかといえば、他国に比べて低い失業率を誇っていることにある。「完全雇用は(経済の再生に)絶対に不可欠なもの」。

「金融政策は1つの手段でしかないが、米国はそれに依存しきっている。金融危機によって金融緩和が行われたが、その資金の多くは大手の銀行に流れてしまった。お金がいくべきところ、すなわち中堅中小企業や社会の役にたっていない。米国の金融制度はうまく機能していないということだ」

 さらにこうしたばらまきの反動で、現在は緊縮財政を進めているが、「緊縮財政の結果は簡単に予測することができる」。

「経済そのものが減速するということだ。実際に現在の公共部門の雇用は、景気後退の前と比べて50~60%も低くなっている。強制的に支出を下げようということで、政府機関は一部、閉鎖に追い込まれたが、これも経済に悪影響を及ぼす」

【次ページ】スティグリッツ氏が考える日本の強みは?

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