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<概要>
 石油危機による脱石油政策以来、原子力発電の比重は高まってきている。原子力は供給安定性があり、他の電源に比して環境負荷が最も小さい利点に加えて、経済性も優れている。2004年現在、52基の原子力発電所、4,574万kWの発電設備容量、2001年度の総発電電力量は約2,389億kWhとなっている。2013年度までには13基が運転開始し、5,995万kWになると計画されている。これらには立地の受容性も含めて流動的な問題もある。さらに将来には、高速増殖炉の開発が重要性を持つ。
<更新年月>
2005年07月   

<本文>
1.原子力発電の特徴
 わが国で原子力発電が開始されたのは、1965年の東海発電所であるが、2004年(平成16年)4月1日現在、52基の原子力発電所にて4,574万kWの発電設備容量、2001年度の総発電電力量は約2,389億kWhに達している。
 石油代替エネルギーの供給目標においても、27.6%とされるなど、今後の電力供給において、石炭、天然ガスと同等の役割を果たすことが期待されている(表1)。
 これは原子力が石油や他の電源に比べ、以下にあげる特徴を有していることによる。
(1)供給安定性
 中東産油国への依存度が高い原油に比べ、原子力の燃料となるウランは世界中に分布し、しかも政情の安定した先進国に多く分布しているので、資源としての不安が少ない。また、燃料の単位質量当たりのエネルギー発生量が大きいため、備蓄や輸送が容易である上、原子炉に一度燃料を装荷すると、少なくとも一年間はその燃料を取り替えずに発電できるので、その期間は燃料を貯蔵しているのと同様の効果がある。さらに国内に核燃料サイクルを確立し、プルトニウム回収ウランを利用すれば、海外依存度の低い準国産エネルギーの長期の供給源とすることができ、一層エネルギー供給の安定性を達成できる。
(2)環境負荷の小さいクリーンエネルギー
 地球温暖化の原因の一つであるCO2を排出しないこと、大気汚染や酸性雨の原因となるSOx、NOx等を排出しないなど、クリーンで環境への負荷が小さい(図1)。原子力の廃棄物においては、環境から隔離して処分できる特徴がある。
(3)優れた経済性
 資源エネルギー庁は、総合エネルギー調査会原子力部会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会)において1999年(平成11年)12月に各電源の発電コストの試算値を示した。出力130万kWの発電プラントを40年間運転するとし、設備利用率を80%(水力は45%)、割引率を3%とした場合、期間を通した耐用年発電原価は1kW時当たり約5.9円(1992年度運転開始べース)であり、他の電源のLNG火力6.4円、石炭火力6.5円、石油火力10.2円、水力13.6円に比べ有意の経済性を示している。原子力発電コストの内訳を表2に示す。
 また、発電原価に占める燃料費の割合が低い(石油火力は50%以上に対し、原子力は約29%)ため、燃料価格にあまり影響されず、長期コストの安定性に優れている。
(4)安全性への考慮
 原子力発電所には多くの安全システムが取り入れられており、これらの設計上の考え方も、他産業に比べ著しく進んでいる。国は、原子力発電の安全性を確保するため、法に基づき、原子炉設置許可等、設計、建設および運転の各段階において厳重な安全規制を行っている。運転段階では、自主点検等も行うなど、故障・トラブルの予防保全に努めている。これらの結果、原子力発電所による大きな周辺被害は我が国では生じていない。
2.電力需給と原子力発電
(1)電力需要の見込み
 平成16年度(2004年度)の電力需給計画によると、今後の一般電気事業用の需要電力量については、着実に増加していくものと予想されており、2002年(平成14年)度の8,415億kWhから、2008年度には8,810億kWh、2013年度には9,411億kWhとなる見込みである。これは内需を中心とした安定的な経済成長、経済社会の高度化、アメニティ志向の高まり、高齢化の進展等により、電気の持つ利便性・制御性等からの電力化率の高まりを反映して、省エネルギー対策の着実な進展による減少要因を踏まえても、増加が上回ることによる。
(2)長期電力需給バランス
 電力は、需要に応じ安定的に供給する必要があり、常に最大需要電力の増加に対応し得るよう電源設備を計画的に開発していく必要がある。電源設備の開発に当たっては、認可出力から定期検査を控除し、水力発電の水力減少等、異常高気温、景気変動等の予期し得ない事態が発生した場合においても電力を安定的に供給することができるように、一定の予備力を加えた供給力を確保する必要がある。
 供給力は、今後10年間の電源の開発および適切な調達により、2008年度には1億8,069万kW、2013年度には1億9,242万kWを確保する計画となっている。その結果、夏の最大需要電力に対して、2008年度で9.7%、2013年度で10.2%の予備率を有しており、安定供給が確保できる計画となっている(表3)。
 電源構成については、非化石エネルギーの中核として原子力の開発を推進するとともに、電源の多様化の観点から、原子力に加え、石炭火力、LNG火力、水力(一般および揚水)等についてバランスのとれた開発をすることとなっている。また、石炭火力、LNG(Liguefied Natural Gas:液化天然ガス)火力については、地球環境問題への対応および省エネルギーの推進の観点から、高効率発電方式を採用し、発電効率の向上に努めることとしている。
 原子力発電は、2013年度までに13基が運転開始し、5,995万kWになると計画されている。これらには立地の受容性も含めて流動的な問題もある。図2に日本の原子力発電所の分布を、表4に今後の原子力立地計画を示す。 これらの原子力発電の増設の結果、発電設備構成にしめる原子力の割合は図3のようになる。
3.核燃料サイクルの仕組みと原子力の未来
 鉱山から採掘されたウラン鉱石は、製錬工程などを経て核燃料に加工され、原子力発電所で使用される。使い終わった燃料(使用済み燃料)は再処理して、燃え残りのウランやプルトニウムを取り出し、再び核燃料に加工して原子力発電所の燃料として使用すれば、ウラン利用のサイクル体系が完成する(図4)。この核燃料サイクルを確立することには、以下のような期待と課題がある。
(1)エネルギー安定性(セキュリティ)の確保
 原子力は上記のように、供給安定性や価格安定性に優れたエネルギー源であるが、国内に核燃料サイクルが確立すれば、供給安定性は一層強化される。
(2)資源の有効利用
 再処理によって使用済燃料から燃え残りのウランやプルトニウム等の有用な核物質を分離回収し、これを再利用することにより、ウラン資源の有効利用が可能となる。
(3)プルトニウムの利用
 高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)が開発されれば、そのままでは燃料として使えないウランの99.3%も占めるウラン238が、再処理によって回収されるプルトニウムをリサイクルして、燃料として50倍以上に利用できるようになる。未来の資源を決定付けるものとして期待されている。高速増殖原型炉「もんじゅ」は開発の段階で1995年ナトリウム漏れを起こし、2005年現在運転が停止されている。高速増殖炉の実用化が遠くなれば、軽水炉にプルトニウムを用い(いわゆるプルサーマル)、リサイクルして燃やすことで、ウランの有効利用を図ることできるが、立地自治体の受け容れが問題となっている。
(4)放射性廃棄物処理・処分の負荷の低減
 再処理は、使用済燃料に含まれる放射性廃棄物を適切に処理処分する上でも効果的で、放射能濃度の高い、いわゆる高レベル放射性廃棄物の発生量は40%程度に減少する。さらに、再処理の過程で、放射能レベルの高低、放射性廃棄物の性状に応じて廃棄物を分別することができるため、合理的な処分をすることができる。
現在主流の軽水炉、それに続くべき高速増殖炉のほか、将来型炉として高温ガス炉などの開発も進められている。
<図/表>
表1 石油代替エネルギー供給目標改定(2010年度)
表1  石油代替エネルギー供給目標改定(2010年度)
表2 原子力発電コストの内訳
表2  原子力発電コストの内訳
表3 今後の電源開発量と需給バランス
表3  今後の電源開発量と需給バランス
表4 今後の原子力立地計画
表4  今後の原子力立地計画
図1 各種電源別のCO2排出量
図1  各種電源別のCO2排出量
図2 日本の原子力発電所
図2  日本の原子力発電所
図3 発電設備構成の推移(一般電気事業用)
図3  発電設備構成の推移(一般電気事業用)
図4 核燃料サイクルの流れ図
図4  核燃料サイクルの流れ図

<関連タイトル>
電気事業審議会の長期電力需給見通し(1998年6月) (01-09-05-13)
長期エネルギー需給見通し(2001年7月・総合資源エネルギー調査会) (01-09-09-06)
高速増殖炉の必要性 (03-01-01-02)
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
平成16年度電力供給計画 (01-09-05-21)

<参考文献>
(1)経済産業省ホームページ:「石油代替エネルギーの供給目標改定」について(2005年4月)
(2)経済産業省ホームぺージ:原子力のページ
(3)資源エネルギー庁:平成16年度電力供給計画の概要、資源エネルギー庁(2004年3月)
(4)(財)日本原子力文化振興財団:「原子力」図面集 2001−2002年版、(2001年10月)、p.60、139
(5)(社)日本原子力産業会議(編):世界の原子力発電開発の動向1998年次報告(1999年5月14日)
(6)(社)日本原子力産業会議(編):原子力産業新聞(第2018号)、(1999年12月23日)
(7)資源エネルギー庁ホームページ:総合資源エネルギー調査会 統合部会/需給部会報告書「今後のエネルギー政策について」(2001年7月)
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