次代のテクノロジー進化の方向性

HD化が一通りの納まりを見せ、2K/4Kという高解像度化への拡大と、ステレオスコピック3Dなどの新展開もその方向性を見いだそうとしている現在、今後の映像テクノロジーが進化していく方向はどのようなものなのだろうか?IBC2011視察から見えてきた次代のテクノロジー進化の方向性として、2つのポイントが見えてきた。

一つは圧縮技術の追求とその管理だ。前述したパナソニックの”AVC ULTRA”のように、デジタル技術の最も利点として捉えるべきものとして、圧縮技術の更なる追求がある。従来と同等、もしくはそれ以下の転送レートでも現行の高画質画像を余裕で扱えることは、今後の映像分野において最も重要となる技術だ。

ibc2011digitalrapids.jpg

そしてこの圧縮を管理コントロールするトランスコード・テクノロジーこそが、次代のプロ業務において一つのビジネス基盤になっていくことが想像できる。例えばポストプロダクション。編集、合成といった従来作業が個人のデスクトップでも出来るようになってきた今日、これからのポスト作業の要として注目すべきは、配信先別にコーデックや方式を変換/管理するトランスコードとそのQCオペレーティングである。さらに複雑化しているコーデック間を往来する際の品質管理=QC(クオリティコントロール)の世界では、次世代技術と言えるものが出て来ている。digital rapids、Amberfin、Digimetricsといった企業や、NTTなどでも新たなトランスコード/QC技術での躍進が見られた。

もう一つは動解像度。ジェームズ・キャメロン監督が最近発言している「今後は48p → 60p → 120pでの撮影に!」といった発言がその象徴だが、この”動解像度”という呼び名はソニーが好んで使用している用語で、これが標準化されるかは判らないが、要はHS(ハイスピード)撮影ではなく、秒間コマ数を上げて表示する事により、標準速での動的表現を鮮明するという解像度の追求である。

ibc2011SONY HDC-2500.jpg

実際にその方向性を示すカメラがソニーから出品されていた。『HDC-2500』は3G光ファイバー伝送システムを標準装備している点やHS2倍速収録などが注目されているが、実は120iで収録されていることから、カメラコントロールユニット『HDCU-2000/2500』から2倍速表示以外に標準速での120i映像が出力できる。ただし120iの標準速動画を再生するには、対応モニターなどの表示側の技術も必要だ。この動解像度の分野を追求する為には、カメラ技術だけではなくソニーのようなモニター/TVの表示技術も合わせを持った総合的な技術力が求められてくる。

次世代技術の傾向とは…?

YOSHIOKA_SONY.jpg

今回のIBC2011で基調講演も行った、ソニーのこの分野におけるトップである、プロフェッショナル・デバイス&ソリューショングループ プレジデント 吉岡 浩 執行役副社長のインタビューからも、こうした次世代技術の傾向をうかがう事ができた。

–F65誕生の背景と4K構想について

約1年半前、それまで独立していたB2Bの開発部隊、半導体などのイメージャー、テレビ開発の各部隊が、全てデジタルイメージングという1つの傘の中に入りました。それまでのようにそれぞれが個別で動いているとどうしても開発時点から販売成績とのバランスを考えがちだったのですが、一つになったことで『販売結果を気にする前に良い製品を作ろう!』ということを全社一致で目指せるようになり、そこから新たなプロジェクトが幾つか動き出し、その結果として生まれて来た一つの成果が今回のF65です。F65はダイナミックレンジ、ノイズ感、色のノリなど、4Kという以外でも画質の総合的な進化を目指して開発を進めて来た製品で、フィルムカメラを超えるデジタルシネマカメラを目指してきました。4Kに関しては、4Kベースの商品群をテレビ、業務用機器、半導体の部隊が中心となって準備していくことを同じく1年半位前から進めています

–高精細画像の現状と4K一般化への方向性

個人的な意見ですが、実は現在の民生用ビデオカメラでも基本性能は格段に良くなっていて、カメラの持っている本来の高画質性能を引き出そうとすると、家庭用テレビでは再現しきれていません。個人的には、放送規格とは別にこれに対応するような高精細表示が可能なTV/ディスプレイを作ってみたいという想いはあります。コンスーマの4K製品が具体的にいつ出てくるのかは想像しがたいですが、他社の動向を見ていてもそろそろという感じもしています。ディスプレイに関してはテレビを4K対応にすることは可能ですが、現在ではどうしてもコスト高になってしまいます。いま一般用テレビの値段も下がっていますし、4K対応でいきなり10倍の値段では受け入れて頂けないでしょう。その意味ではプロジェクターの方がコンスーマ用途として向いているので、民生用の4Kプロジェクターなども現在、鋭意開発中です

–表示技術とOLED

今年の当社のテーマ”Believe Beyond HD”の大きなメインの4つの柱である4K、3D、35mmと並ぶOLED(有機EL)は、4Kなど業務用途として高精彩な画像表示に非常に向いている技術です。ただしこれまではサイズを大きくする事に課題がありましたが、現状は25型まで拡張でき、現行製品も非常に評判もよいです。またスチルカメラのαシリーズに搭載したOLEDのEVFに使用されているものは、同じ”OLED”という名称がついていますが、実は全く別のEVF専用の技術製品です。OLEDのモニターよりも小さい面に高精彩に表示しなくてはならないので、モニターよりももっと高度な技術が必要になります。これらも事業部間コラボレーションの一つであり、今後は業務用ビデオ製品等へ採用する可能性はあると思います。

–動解像度について

この春に初めてF65のデモ映像を観ましたが、高解像度でまさにフィルムのような素晴らしい映像に私自身も驚きました。しかし観ているうちに動解像度という点では24pでは勿体ないという気もしてきます。この先の開発という点で動解像度という方向性はあると思いますね。面白いもので、一つの技術テーマをクリアするとまた次のテーマが見えてくるもので、またこうした新たな目標があるとエンジニアも頑張ってくれます。


Vol.05 [IBC2011] Vol.07