PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 躍進企業REPORT > 山口県下では初となる電子書籍事業への参入果たす
躍進企業REPORT

大村印刷:山口県下では初となる電子書籍事業への参入果たす

印刷ジャーナル 2011年3月5日
プロダクション本部制作部 大野謙治次長
電子書籍「武蔵野留魂記」(永冨明郎・著)
MCBook Maker
iPhone Builderのオペレーション
40名以上のデザイナーが日々クリエイティブ業務にたずさわる

 商業印刷と出版印刷を両輪に、「心の通うコミュニケーションづくり」を目指す大村印刷(株)(本社/山口県防府市西仁井令1-21-55、大村俊雄社長)。昨年10月、山口県下では初となる電子書籍事業への参入を果たし、自費出版「武蔵野留魂記」(永冨明郎・著)の電子書籍アプリをリリースして話題となった。この制作にはモリサワの電子書籍ソリューション「MCBook」が採用されている。

創業90周年迎える総合印刷会社

 大正10年、三方を海に開かれた本州最西端の地「山口」で産声をあげた同社。いまもなお、この地を拠点に地域に愛され続け、今年で創業90周年を迎える。
 同社最大の特徴は、地方の総合印刷会社にして出版事業を手がける点。全国的にみても珍しい存在だと言えるだろう。
 東京営業本部が中心となって展開するこの出版事業は、学習参考書や医学誌などが中心。さらに出版事業進出の布石として昭和51年に設立した東洋図書出版㈱(同社100%子会社)では、主に自費出版を手がけ、これら事業はまさに同社の安定成長を支えるエンジンとして大きな機能を果たしている。

いち早く体験することから

 同社初の電子書籍作品となったのが「武蔵野留魂記」。これは、東洋図書出版から発刊された自費出版を電子書籍化したもの。吉田松陰の生涯を独自の視点で描いた作品で、第13回日本自費出版文化賞・研究評論部門において入選した意欲作である。この制作においてモリサワの電子書籍ソリューション「MCBook」が採用されている。電子書籍事業を統括する同社プロダクション本部 制作部の大野謙治次長は「MCBookが電子書籍事業参入のハードルを低くしてくれた」と振り返る。
 電子書籍事業参入にあたり当初同社では、EPUB形式でデータを書き出し、フリーのビューアーで見てもらうという形式でもトライしたが、販売面で難しく、ビジネスとしての魅力に欠けると判断。そこで、パッケージをダウンロードしてその場で見れ、様々な機能を付加できるアプリ型の検証に入るが、当初実務に耐えうるツールは数百万円と高価で、まだまだ成熟していない電子書籍マーケットへの先行投資としてはリスクが高いと判断していた。
 そんな中、満を持して登場したのがMCBook。「電子書籍ビジネスは、技術的にはできるが、実際どのように運用するかをいち早く体験する必要があると考えていた。『とりあえず出してみたい』、そんな思いを安価な設備投資で実現してくれるMCBookの登場が我々の背中を押してくれたわけだ」(大野次長)

紙ベースで良いものを作れば、電子書籍でも良いものができる

 リフロー型(文字が流れる)電子書籍のソリューションとして採用されたMCBook。実際の運用を通じた評価について聞いてみた。
 「初作品の『武蔵野留魂記』の元データは、数年前にInDesignによって印刷だけを目的に組版されたものだったため、MCBookに読み込んでからの編集作業が若干発生したが、次回作からは電子書籍化を想定した組版ルールを設定するため、右から左でいけると考えている。また、ある出版社から依頼を受けて現在進めようとしている電子書籍用の組版だけの仕事では、モリサワの高品質組版編集システム『MC-B2』からの展開を予定している。ソフトウェアの親和性から考えて、より効率よく流れるだろうといまから楽しみにしている」(大野次長)
 また、MCBookがiPad対応したことで、組表示のバリエーションが広がったことにも着目する大野次長。文字の大きさを変えることで2段組になったり、端末を横にすると見開きになるといったレイアウトの動きで一種の特性ができたと評価する。大野次長は「『商売に使える』と実感した部分である」と語っている。
 さらに、ルビの変換なども確実に反映される点などを挙げ、日本の文字文化をリードしてきたモリサワへの信頼がMCBookにも反映されている点について大野次長は「安心感」という言葉で評価している。
 「今回、MCBookのオペレーションは組版の知識がないプログラマーが担当した。それだけスキルレスでも運用できるツールに仕上がっている。つまり、紙ベースで良いものを作れば、電子書籍でも良いものができるということ」
 今後同社では、MCBookのオペレーションをデザイナーにも習得させていきたい考えだ。40名以上のデザイナーを擁する同社において、これが実現することで、生産性が向上するだけでなく、電子書籍事業においても、これまで培ってきたクリエイティブ系の技術が活かされ、質の高い製品を提供できるとしている。

既存技術活かせる情報コミュニケーションビジネスを展開

 商業印刷と出版印刷という基幹ビジネスをベースに新たな事業領域を模索してきた大村印刷。今後もデザイナーや組版オペレータの技術が活かせる情報コミュニケーションビジネスを積極的に展開していく。山口県下で初となる今回の電子書籍事業参入も、その流れのひとつと位置づけている。
 今後は関連会社の出版物に限らず、取引先出版社の電子書籍化についても、広く制作を請け負っていくほか、様々なパートナー各社の技術、及び自社開発技術を、出版物のニーズに合わせて弾力的に提供。さらに大村印刷が商業印刷の分野で培った広告ソリューションと組み合わせ、企画から販売までのサービス提供を主力事業のひとつとして育てていく考えだ。
 また、広く流通させることが困難であった自費出版について、印刷出版と電子出版を両軸としたサービスの提供を目指す。これにより、新たな著者と読者のつながりを作り、大村印刷が長年取り組んできた「心の通うコミュニケーションづくり」の一助として、社会への貢献を果たしていく考えだ。