韓国船沈没、死者58人に 管制との交信記録公開
船傾き、船員の身動き取れず
【ソウル=小倉健太郎】韓国南西部、珍島沖の旅客船「セウォル号」沈没事故で、韓国政府は20日、死者が58人、行方不明者が244人になったと発表した。政府の対策本部は同日、セウォル号が事故時に珍島海上交通管制センターと交信した記録を公開。船が傾いたことで船員の身動きが取れず、乗客の救護が遅れた当時の状況が鮮明になった。
公開した交信記録は、16日午前9時7分からの31分間。既に沈没が始まっており、セウォル号が「海洋警察を早くお願いします」と救助を要請した。同10分には「今にも転覆しそうだ」と伝達。管制センターが乗船者の状態を尋ねると「傾き過ぎていてほとんど身動きが取れない」と回答した。
同12分、救命ボートへの乗船を始めたか、との問いかけにも「乗れていない。船が傾いて動けない」と答え、乗客の脱出も「大きく傾いていて不可能だ」と交信。管制センターは数分後、重ねて「脱出させるかどうか船長が早く決めてください」と指示した。
この間、管制センターは「放送で乗客に救命胴衣を着用させてください」と指示したが、セウォル号側は「放送も不可能な状態だ」と回答。「左舷から脱出できる人だけが脱出している。放送したが移動が難しい」と伝えた。交信は同38分を最後に途絶え、その後は管制センターの呼び掛けに答えることはなくなった。
一方、韓国海洋警察などの合同捜査本部は20日も逮捕した船長のイ・ジュンソク容疑者(68)らの取り調べなどを続けた。参考人聴取に応じた乗務員の一部は「非常時の安全教育を受けたことがない」と説明したという。捜査本部は乗務員や海運会社関係者ら30~40人の出国禁止措置を取った。政府が船内に入る5つのルートを確保し、内部捜索を本格化したが、生存者の発見には至っていない。