ポストゲームショー(田口壮) 「パ・リーグの遠征は厳しい」は本当か
プロ野球のセ・パ交流戦でパ・リーグが勝ち越した理由の一つに「札幌から福岡まで広範囲の移動に慣れているパ・リーグに対し、セ・リーグは不慣れな遠征が負担になった」ということが挙げられていました。こうした点がハンディになるのかどうか、メジャーの例もみながら考えてみましょう。
■メジャーの移動、イメージと違い楽
広大な北米大陸を回るメジャーの遠征は試合数の多さと相まって、肉体的にも精神的にも日本よりはるかに厳しいというイメージがあるかもしれません。
結論からいうと、日本より楽です。原則的にチャーター機で移動しますから、空港での手続きなどを含めて、ストレスを感じることがほとんどありません。
連戦が終わるとすぐに着替えて、球団が用意したバスに乗り、空港に向かいます。空港では一般の旅客と同じセキュリティーゲートを通るのでなく、バスでそのまま飛行機に横付けです。そこで保安係の人に金属探知機などのチェックを受けます。
そこから先はもう空港施設に戻って、他の人と接触するようなことはできませんが、空港に用事があるわけではありませんし、問題ありません。
飛行機で移動したら、またそこにバスが待っていて、という具合です。確かに移動時間が長いということはありますが、日本で一般のお客さんにまぎれて飛行機や新幹線で移動するよりもはるかに楽でした。
空港もメーンの大きな空港でなく、場所によっては地方の空港を使いますので、一般のお客さんも少なく、混雑に見舞われることはまずありません。
ヒューストンに到着したとき、軍関係のような見慣れない飛行機や機材が並んでいるなあ、と思ったら米航空宇宙局(NASA)関係の空港だった、ということもありました。
■時差3時間、「西から東」はやっかい
ブルージェイズが本拠を置くトロントはカナダですから、米国からは国境をまたぐ移動になります。当然、入国審査、税関検査が必要になりますが、私がいたころは空港に着くと飛行機のなかに係員が入ってきて、パスポートなどをチェックしてOK、という段取りになっていました。いちいちゲートに並ぶ必要がないのです。
今はさすがにそこまではやってくれず、入国管理・通関のゲートを通るようですが、それでも専用のゲートなのでスムーズです。日本だと、プロ野球チームだからといって特別扱いしてくれるはずもなく、これはもう文化の違いとしかいえませんね。
メジャーにおける移動の関門といえば、やはり時差でしょうか。個人差がありますが、東西3時間の時差はなかなかやっかいです。ニューヨークやボストンなどの東海岸から、ロサンゼルスやサンフランシスコの西海岸への飛行時間はだいたい6時間です。
東から西に移動するときは西の方が3時間遅れですから、例えばデーゲームを終えて、東時間の午後8時に出発すると西時間の午後11時着です。この東から西への移動はいいのですが、逆が大変です。
西の午後8時出発だと、飛行の6時間+時差3時間ということで、東時間の午前5時着になるのです。これだけで「一日仕事」になります。どこでも眠れる人はいいのですが、普通はそうもいきません。
■深夜1、2時出発に素朴な疑問も
メジャーは試合が終わったあとは長居せず、すぐに次の遠征先あるいはホームタウンに移動するのが原則です。ナイトゲーム後でも深夜1時、2時という時間に出発するわけです。
しかし、わざわざこんな時間に移動しなければいけないのか、という素朴な疑問が最近わき起こってきているようで、ジャイアンツがこのほど、遠征先のワシントンからサンフランシスコに戻るのに、翌日移動という試みをするのだと聞きました。日本人にはぴんとこないかもしれませんが、これはメジャーの慣行からすると画期的なことのようです。
メジャーでは移動した日にすぐ試合ということはありません。日本では移動、即試合という日程が組まれます。これが選手としては結構きつく、私がメジャーの方が楽だと感じた一因かもしれません。
遠征は日本の方がきついと思います。そしていろいろ指摘があるように、セ・リーグよりパ・リーグの方が日ごろからきつい移動をこなしている、ということも確かかもしれません。
千葉のQVCマリンフィールドや西武プリンスドームへの移動では、東京駅から定宿まで在来線を使うことがありました。東京駅から40分くらいでしょうか。これは結構な負担です。
■バスで12時間以上揺られるよりマシ
私はニューヨークに遠征したとき、結構地下鉄を使って球場入りしていました。ただしこれは、タクシーに乗るより時間が読めるというメリットと、チーム全体の移動ではなく個人個人での移動だったからで、日本で在来線に乗るのとはちょっと事情が違いました。
多くの球場が新幹線の駅から近いところにあり、その恩恵にあずかっているセ・リーグの選手が、パ・リーグの本拠地に乗り込むだけで「疲れた」というのも無理はないかもしれません。
しかし、米国でマイナー生活を経験した者にとってはパ・リーグの遠征もたいして気にはなりません。
日本では、リーグ内遠征の場合の移動は飛行機や新幹線で、長くても3時間程度でしょうか。ときに12時間以上もバスに揺られるマイナーに比べたらだいぶましです。
マイナーでは飛行機を使う場合でも「最安料金」のチケットを使います。ということは仮にその都市への直行便があっても使わず、必ず経由地がある格安チケットを使うのです。乗り換えの疲れることといったら……。
あの経験からすると、パ・リーグの移動自体は苦になるものではありませんでした。東京駅から在来線での立ちっぱなしの40分も平気でした。
■車内で「普段着」姿を見せるのも…
しかし、一つだけ心に引っかかっていたのはこうして一般のお客さんと同じ電車に乗り合わせる姿を見せることが、果たしてチーム全体のイメージにとっていいのかどうか、ということでした。
プロ野球選手が特別だというつもりは全くないのですが、人気商売の一つとして"普段着"の姿を洗いざらい見せてしまっていいものかどうか。ファンの夢を壊すことにはならないかと思うのです。私自身はやはり、メジャーに行ってみて、選手は基本的に球場でユニホーム姿しか見られない存在、という距離感が大事だと思いました。
もっとも、電車に乗る選手は身近に感じられて好感が持てる、という人もいるかもしれません。読者の皆様はどうお考えでしょうか。
(野球評論家)