仙台で始まる公営ガス争奪戦 17年に全面自由化
編集委員 松尾博文
電力・ガスの自由化時代に、地域や業界の垣根を越えた競争はどこで始まるのか。需要が見込める首都圏ばかりでない。意外なところで戦端は開かれる。ガス市場改革が迫る公営ガス事業の民営化である。
仙台市の伊藤敬幹副市長は2月、市議会で同市が運営するガス事業について「民営化を含め検討を深める時期に来ている」と述べた。仙台市ガス局内には1日付で「事業改革調整室」を設置した。民営化の検討再開に向け一歩を踏み出す。
仙台市は2000年代後半に民営化を検討したことがある。東京ガス、東北電力、石油資源開発の3社連合を事業の譲渡先候補に選んで交渉を進めたが、08年のリーマン・ショックによる事業環境の悪化で中断した。
なぜ、再検討を始めるのか。「ガス市場改革で事業環境が大きく変わる」(仙台市ガス局の川口慶介事業改革調整室長)可能性があるからだ。17年にはガス小売りが全面自由化され、ガス会社の地域独占は撤廃される。
ただし、公営ガス事業の場合、国の規制がなくなっても、予算や料金の変更には議会の承認が必要だ。域外への供給やガス以外の事業進出にも制約がある。エネルギーの大競争時代を控え、「将来の姿について方向性を示す」(川口室長)必要に迫られている。
仙台市の選択をエネルギー各社が注視している。仙台市ガス局は周辺市町村を含め、約35万戸に供給する。需要家数で全国9位の規模を持つ最大の公営ガス事業者だ。ここに事業参画できれば東北に足場を築ける。
「仙台は魅力だ。民営化されるなら検討したい」。石油資源開発の幹部は関心を隠さない。同社は新潟県と仙台を結ぶ幹線パイプラインを保有する。福島県北部には液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地を建設中だ。この基地と新潟・仙台パイプラインをつなげる。
東ガス首脳は前回の民営化交渉の経験から「関東から白河関、勿来関を越えるのは簡単ではない」と言う。だが、茨城県に建設中のLNG基地が15年度中に完成する。福島県小名浜までのパイプライン延伸も検討中だ。その先に見えてくるのは仙台。進路に立ちふさがる石油資源開発にみすみす大需要地を奪われるわけにいかない。
エネルギー大手の幹部は「電力、ガス、石油。大手ならどこも興味があるはず」と語る。仙台攻略に誰と組むべきか。陣営づくりも必要だ。
攻め込まれる東北電力は、防衛に動かざるをえない。海輪誠社長は会見で「(仙台市ガス局の)公募の話があれば検討していきたい」と前向きな姿勢を示した。
仙台市ガス局の行方を見つめるもう1つのグループがある。全国に26ある公営ガス事業者だ。日本ガス協会によれば、都市ガスの事業者は全国で206。公営ガスは1割超を占める。10万戸に供給する大津市、7万戸の金沢市など、準大手級の事業者も少なくない。
ガス市場改革に対応しなければならないのは仙台市と同じだ。総務省は昨年8月、公営事業の経営基盤強化を促す報告書で、公営ガス事業者に対し、ガス改革の経営への影響を調べ、民営化を含む事業のあり方について検討するよう求めた。
電力・ガス改革で幕が開く仙台の陣。公営ガスの争奪戦は全国に広がる可能性がある。
[日経産業新聞2015年4月9日付]