What's New (Nov, 1996)



■1996年11月19日

 萩原健太、最新ライヴ、結果報告ーっ!

 つーことで。11月17日、東京新宿・日清パワーステーションで行なわれた、メル・テイラー追悼“ベンチャーズ・ナイト”。やってきました。司会・進行(笑)。すんげー楽しかったっす。

 日本一のチキン・ピッキング・ギタリスト、徳武弘文さんと、日本一のメル・テイラー信奉ドラマー、三浦メザシさんの音頭取りで催されたこの追悼ライヴ。徳武さんとメザシさんを中心に、星川薫(ギター)、六川正彦(ベース)、ピアノコウジ(キーボード)というラインアップによるバンドが基本セットとなって、そこに様々なドラマー&ギタリストが参加して、メル・テイラーが日本のロックンロール・シーンにもたらしてくれた唯一無比のグルーヴ感への感謝の念を爆発させた一夜でありました。

 参加したのは、ドラマーがベテラン・スタジオ・ミュージシャンの田中清志と島村英二、元ボウイ、現ジーナの高橋まこと、メル・テイラーが体調をくずしたあとの日本ツアーで代役をつとめた竹田尚志、そしてなーんとなーんとなーんと、山下達郎!

 ギタリストはムーンライダーズの白井良明、元ヴィレッジ・シンガーズの小松久、サーフコースターズの中シゲオ、ヒックスヴィルの木暮&中森(真城もコーラスで参加)、そして、ごーめんなさいごーめんなさいごーめんなさい、萩原健太(笑)(笑)(笑)。

 徳武、星川に、東原力哉(ドラム)、バカボン鈴木(ベース)、久米大作(キーボード)、是方博邦(ギター)という、前回のベンチャーズ・ナイトを盛り上げたメンツによるセットもあり。さらにさらに、加山雄三&ハイパーランチャーズによるセットもあり。全長4時間にわたるテケテケ・エレキ・ナイトでした。

 基本セット・バンドが、メル・テイラーのソロ・シングル「バンバンリズム」「無敵艦隊」を演奏したときとか、盛り上がったなぁ。あの曲をライヴで聞くのははじめてだったし。もちろん、加山さんのとこもすごかったし。達郎さんのドラムもごきげんだった。叩いてる必死の形相はこわかったけど(笑)。

 みんなベンチャーズに対する深いリスペクトと愛情を全開にしていて。会場に詰めかけてくれた観客の方々も、すっごく熱心かつあたたかくて。まじ、メル・テイラーも天国で喜んでくれているはず。そうそう。ドラム・セットは2つ用意してあって。メルが実際に60年代に愛用していたグレッチのオールド・セットと、最近のコンサートでずっと使っていたセットと。それを叩くドラマーのみなさん(含・達郎さん)、なんだか全員メルさんがのりうつったみたいな、ドライヴ感たっぷりのプレイを聞かせてくれていた。アンコールはもちろん「キャラバン」だったんだけど。三浦、東原、田中、島村、高橋、竹田、山下、そしてハイパーランチャーズのドラマーでもあるワイルドワンズの植田良暁によるドラム・ソロ・バトルとか、盛り上がった盛り上がった。

 最後、ステージであいさつした徳武さんの目は、まじ、うるんでました。

 あー、楽しかった。



■1996年11月10日

 と、そんなわけで。

 大方の予想通り、ベックの取材は見事トびました。散りました。ステージ上であーんな元気だったのによぉ。いろいろあるわけやね。取材のセッティングをしたレコード会社とか呼び屋さんとか、きっと大変だったと思います。ご苦労様です。

 聞くところによると、ベックは毎日違うメニューでコンサートをやっていたんだそうで。ぼくがたまたま行った10月31日の赤坂ブリッツは、まさに当たりだったみたい。日によっては1時間足らずで引っ込んじゃったこともあったらしいし。そういうのを聞くと、ホントに風邪をひいて体調を崩していたときもあったのかなとは思う。11月アタマの川崎チッタでは「ルーザー」もやらなかったらしいし。

 やー、コンサートってのは水ものですな。

 ところで、ぼくが司会をやっているCS衛星放送“スペースシャワーTV”の番組『YO-HO』で吉田美奈子特集を組みまして。なんと美奈子さんご本人が出演してくださいました。美奈子さんはまじにすんばらしいニュー・アルバム『KEY』をリリースしたばかり。その新作の話題を中心に、過去23年にわたる活動のこと、大好きなアメリカン・フットボールのことなど、いろんな話をしてもらいました。

 本放送は11月9日だったので、もう終わっちゃいましたが。このあと、えー、15日の金曜日までの間に4回くらい、いろんな時間帯に再放送がありますので(笑)。見ることができる環境のある人は、ぜひ見てやってください。

 で、本当に素晴らしいそのニュー・アルバム『KEY』については、ぼくもプロモーション用のパンフレットに原稿を寄せてます。そいつを引用しておきます。長くなるので、またフォントサイズ小さくします。読まなくてもいいです(笑)。でも、読んでみて興味持った人は、ぜひ聞いてみてちょーだい。

 近ごろの日本の音楽シーンを眺めていると、あらかじめ“あきらめ”が先に立っている、そんな作品ばかりがやけに目立つ。仕方ないか。少なくとも今、都市として機能している街に暮らしている限り、否応なく世界各国の情報がほぼ瞬時に、同時進行的に伝わってきてしまう。情報の渦に呑み込まれながら、誰もがすべてを知ったような気になっている。未知の可能性に対する希望など、もはや誰ひとり抱いていないような。そんな感じ。すべてのものが既視感とともにしか存在しえない時代。だから、どこかで聞いたことがあるようなメロディをつぎはぎにし、手垢にまみれた説教まがいの歌詞を乗せ、時代の表層の気分だけをかすめとったようなダンス・グルーヴをまぶした音楽もどきが、切実な必然性など何ひとつないまま、ひたすら売り上げだけを伸ばしていく。

 正直言って、つまらないのだ。この状況、音楽ファンとして面白くない。わくわくしない。そんな、どうしようもなくグチっぽい気分に陥っていたとき、ふと届けられた吉田美奈子のニュー・アルバムを聞いて、しかしぼくの心は一気に救われたのだった。本当に。いや、別に美奈子さんが昔ながらの音楽をやっていて、そんな頑固な姿勢にぼくの心がノスタルジックに反応したとか、そういうことじゃなく。あくまでも今、この90年代に産み落とされた最新の音楽として、美奈子さんの新作はぼくの心を救ってくれたのだ。

 ときに荒々しく、ときに緻密に紡ぎ上げられた10のグルーヴ。そのどれもが、確実に今の時代に呼吸している。ここ数作、時代の流れとはあえて一線を画しながら俯瞰した地点で神々しい歌声を聞かせていたようにも見えた美奈子さんが、ふたたびストリートに降り立ち、街を行き交う人々と同じ目の高さで時代の風景を鋭く切り取ってくれている。そして何よりも、彼女はけっしてあきらめてはいないのだ。ぼくはうれしくて仕方がない。

 90年代をもっとも刺激的に象徴する音楽/文化といえば、たぶんヒップホップだろう。ヒップホップも、ある意味では前述したような、あきらめが先に立つしかない時代のもとで誕生した悲劇の文化だとは思う。過去の音源をサンプリングし、それらを換骨奪胎する中で独自性を主張するしかない音楽。だからこそ、どんなに熱く激しい60年代R&Bのフレーズをサンプリングしようと、70年代ファンクのリフをループさせようと、ヒップホップの根底に流れる手触りは、あくまでもクールだ。もちろん、自覚的なヒップホップ・アーティストたちは、そんなクールさを逆手に取りながら、鋭く時代に返り討ちを食らわせてくれているのだが、彼らにとってはサンプリングするための音源としてしか存在しない本物のファンク・グルーヴやソウル・フィーリングをすっかり我が物にしている美奈子さんは、当然のように軽々とその上を行ってみせる。豊潤なキャリアとセンスに裏打ちされた最新型の吉田美奈子サウンドは、たまらなくかっこいい。

 喧騒に満ちた都会の夜を駆け抜け、様々な人々が激しく交錯する交差点に自らも足を踏み入れ、美奈子さんは、今、膨大な情報の洪水の中で、すべての現実さえもヴァーチャルなものとしかとらえられなくなったぼくたちの、どうしようもなく麻痺したメンタリティをクールに射抜いてみせる。そして、さりげなく、しかし確かな手応えをもった“何か”をぼくたちに投げかけてくる。

 このアルバムを聞いて、ぼくたちの心はきっと覚醒するのだ。その“何か”こそ、もしかしたら美奈子さんの言う“KEY〜鍵”なのかもしれない。



■1996年11月2日

 ベック、行ってきましたよー。

 やー、よかったなぁ。10月31日、赤坂ブリッツ。行けなかった人のために、今回も曲目リスト、サービスしちゃいましょう。

 まさしく現代のポップ・ヒーローだねぇ。元プリンスの新作が出るとかで、本人が来日してのコンベンションが開かれるとかなんとか、レコード会社からエラソーに夜中いきなりの迷惑FAXが来たりしてる昨今ですが。そんなもん、どれほどの価値があるんじゃいっ……と言いたくなるくらいの勢い。“今”の息吹はこっちだよ。あの夜の赤坂ブリッツにこそ、“今”があった。

 かっこいいなぁ、ベック。なんか、こいつ素姓が不明だったけど、聞くところによると、デヴィッド・キャンベルの息子なんだって? ホントかウソか知らないけど。もしホントなら、音楽的素養ばっちりなんじゃん。既成の音楽フォーマットをきっちり知り抜いたうえでのポップ・ミュージックに対する狼藉なわけだよね。だから、すごいんだろうな。伝統的なフォーク・ブルースやらカントリーやらをかっちり底辺にたたえつつ、オルタナティヴやヒップホップに好奇心満々のアプローチを繰り広げる、と。でもって、それがまさに今を体現するポップ・ミュージックへと昇華する。

 理想的。理想のポップ・ヒーロー。今回の東京公演も、ギター、ベース、ドラム、サンプラーその他担当……の4人のバック・バンドを引き連れて、バカのりのステージ。中盤はもちろん生ギター一本の弾き語りフォーク/カントリー・コーナー。たっぷり見せていただきました。

 この中盤のソロ・セットはもちろん、バンドを引き連れての演奏でも、ぼくは思っきしカントリー・ロックを感じてしまった。今ちょうどぼくの中でグラム・パーソンズを中心にする70年前後のカントリー・ロックがブームだからってわけじゃなく。ベックには確実にパーソンズにも通じる、ぐっと内省的かつコズミックなカントリー・ロック・テイストがある。そうそう。アンコールでは、かつてグラム・パーソンズが身につけていたような、白地に金の刺繍が入ったカントリー・スーツみたいなやつを着て登場したし。自虐もこめて、そうした自らのルーツをさらけ出す中で生まれたのがベックのとんでもなくイマジネイティヴなポップ・ミュージックなんだってことを改めて再確認した。

 セカンド・アルバムのタイトル“オディレイ”って言葉が印象的にリフレインされる「ロード・オンリー・ノウズ」って曲なんか、もうタイトルからしてカントリー・ロックだよなぁ。CDで聞いているときからそう感じてたけど、実際にステージで見て、ますますその感触を確かにした。こりゃ、もう、もろ平成のフライング・ブリトー・ブラザーズです。

 あと、すごいなと思ったのは、CDのヴァージョンをほとんどそのままの形でステージでも再現しつつ、さらにワイルドにグルーヴしていく様子かな。底力あるわ。

 でね。実はぼく、来週ベックにインタビューできることになってるわけですよ。なってるんだけど。今回、ベックはここまでの取材を全部トバしちゃってるらしいのね。風邪をひいたとか言って。風邪がひどくて、ヘタするとステージも中止しなきゃいけないかもしれないとかいう噂も耳にしたんだけど。

 でもね。ワタシ、見た限りでは、どこが風邪やねんっ! ってくらい元気なステージだったからなぁ。踊りまくってるし、ギター弾きまくってるし、シャウトしまくってるし。ハロウィーンだったもんだから、動物のかぶりものまでしてハシャいでたよ。うーむ(笑)。さあ、ぼくの取材の運命やいかに。トぶのかな、やっぱ。まあ、いいけど。