設計品質確保の思想 ――航空宇宙エレクトロニクスに学ぶ「信頼性設計」

檜原弘樹

tag: 組み込み

技術解説 2006年3月28日

● 人工衛星の開発プロセスはウォータ・フォール型

 人工衛星の開発プロセスは,いわゆる伝統的なウォータ・フォール型(各工程が完了すると,前の工程へ逆戻りせず,1方向に工程を進める手法)注3が基本となっています(図7).まず,地球観測や天文観測,衛星通信などの要求仕様を明確にします.続いて,開発が進む中で仕様変更や部品・材料の調達状況,実施されたテスト(製造検査)工程などを確実に記録し,いつでも再確認できるトレーサビリティ管理が行われます.

 人工衛星の開発は国家プロジェクトとして進められることが多かったことから,多くの技術基準が文書化されています.それらを参照しながら,基準に合っていることを確認していきます.そして,一般的な環境における機能・性能テストから,打ち上げ,軌道上の厳しい環境を模擬したテストまでを着実に実施し,出荷します.

 注3;この開発手法をNASAではPPP(Phased Project Planning)と称して取り入れている.

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図7 人工衛星開発の流れ
人工衛星は,全体としては地上運用設備も含めた大規模なシステムであり,典型的なウォータ・フォール・モデルに従って開発される.近年,組み込みマイコンを多用するようになり,個々のコンポーネント単位ではさまざまな開発プロセス(開発手法)が導入・評価されている.

 人工衛星の開発は,具体的には以下のステップに従って進められています.

1) 研究フェーズ

 研究フェーズでは,人工衛星が用いられるミッションの内容についてユーザとの調整を進め,開発仕様としてミッション要求を設定します.これらは基本仕様や開発計画としてまとめられ,全体的な開発方針が設定されます.

 また,この研究フェーズでは,開発する人工衛星がどのようなものになるべきかを決める概念設計が行われます.ここでは最終的に衛星が伝送するデータを利用するユーザや運用担当者との調整を繰り返し,衛星が持つべきミッション要求を明らかにしていきます.この過程で基本仕様,およびどのような開発方針で進めるのかを設定し,開発計画をまとめます.また,新規の技術要素として何があるのかを調査し,新たに研究開発が必要と判断されたもの(例えば,新しい部品など)については開発対象として選考します.

2) 開発研究フェーズ

 開発研究フェーズは予備設計とも呼ばれます.ここでは開発する人工衛星の仕様や開発計画を詳細化し,文書化します.また,開発計画を遂行することのできる開発体制もこのフェーズで確立されます.

 並行して進められる新規技術要素の研究開発については,この予備設計のフェーズで試作テストが行われ,開発を進められるめどが立たなくてはなりません.この段階で作られる試作機をBBM(breadboard model)と呼びます.このフェーズで所定の機能や性能が得られることを確認したら,その後,信頼性保証を行うための工程を確立することになります.

3) 開発フェーズ

 開発仕様,開発計画,開発体制が整備され,新規技術要素の試作テストが成功すると,いよいよ人工衛星の開発が始まります.この開発フェーズは,大きく四つの工程に分けて管理されています.

 「基本設計」の工程では,エンジニアリング・モデルやプロトタイプ・モデルの設計を行います.各種の解析を実施し,所定の機能・性能を達成できることを確認します.また,厳しい宇宙環境で所定の期間,運用可能なことを確認します.これらの設計解析結果をもって基本設計審査会(PDR:Preliminary Design Review)を開催し,試作品の製造に取りかかってよいかどうかを審査します.

 「詳細設計」の工程では,装置の試作を通じて最終的な設計を確定します.また,実際に厳しい宇宙環境を模擬したテストを行い,製造プロセスとテスト・プロセスを確立します.これらの結果を反映し,打ち上げるモデル(フライト・モデル)の設計を進めます.製造テストの結果を評価し,詳細設計資料を審査することにより,フライト品注4の製造に取りかかってよいかどうかを審査します.

 「維持設計」の工程では,フライト品の製造・テストを進める中で,各種のドキュメントの維持・改訂も含めて製品としてまとめる作業を進め,打ち上げの準備を行います.人工衛星の製造・テストが完了し,打ち上げに向けた文書などの準備が完了すると,品質に関する認定試験後審査(PQR:Post-Qualification Test Review),および出荷前審査(PSR:Pre-Shipment Review)を行います.

 この審査をパスすると,人工衛星はロケット発射場へと出荷されます(「射場作業」の工程).

4) 運用フェーズ

 運用フェーズでは,打ち上げた直後に軌道上で初期テストを行い,所定の機能や性能が得られていることを確認します.その後,一連の定常運用を実施して,実運用が可能であることを確認します.一連のテストが終わったら最終的なユーザに引き渡され,人工衛星の利用フェーズへと移行します.

 注4;日本では製造する人工衛星はそれほど多くない.開発した最初のモデルが実際の運用に供せられることが多いため,プロトフライト・モデル(proto-flight model)とも呼ばれる.

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