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[若手印刷人リレーエッセイ] みんなで印刷業界をもっと価値のある業界にしていきたい。
すさまじいデフレ時代が到来しています。日々のニュースでは、何がいくら下がったと値下げ競争をあおっています。お店にしてみれば下げたくないのでしょうが、消費者の購買力が下がり、価格を下げないと売れないというのが本当のところでしょう。人口減少社会になり、需要が確実に減っていく中、価格が下がっていけば、マーケットは確実に小さくなっていく。マーケットが小さくなっていく中で、社会が豊かになっていくわけがないのは言うまでもありません。
小泉政権のころだったか、盛んに勝ち組、負け組ということが言われました。そしてみんなが勝ち組に残ろうと、必死にコストダウンを図り、価格を武器に仕事の獲得を目指しました。しかし仕事を失うわけにいかないライバルは、コストダウンうんぬんにかかわらず、価格を下げ追従し、その結果、みんなが努力すればするほど、業界の価値を下げていくことになりました。昔のように、価格を下げることによって購買層が広がり、需要が増えるのならよいのですが、総需要が増えない中では、業界そのものが縮小し破綻を来たします。では、印刷業界はどうか? 先日、印刷の業界紙に「収益力低下で業界に赤信号」と書かれていました。業界として魅力を失いつつあるということではないでしょうか。
製造業である限り利益を確保するため、当然コストダウンに常に心掛け、取り組んでいくことは大切なことは当然です。しかし、それよりも今私たちが考えなければならないことは、どうやってもっと価値のある業界、あるいは会社にしていくかということではないでしょうか。
マーケットを大きくしないと経済が成長せず、経済が成長しないと豊かな社会ができないとすれば、価格を下げる努力より、価値を生む努力をするべきではないでしょうか。
過去にいろいろな産業で、イノベーションが興され、新しい価値を付けることによって、商品価値を上げ、価格を上げて市場規模を拡大させてきました。例えば自動車産業。エンジンが改良され、エアコンが付き、窓が電動となり、ハンドルがパワステになり、ギヤがオートマチックに。そして自動車は買い替える度に高価になっていきました。新しい機能が新しい価値を生み出してきたからです。
そんな中、経済産業省が国家プロジェクトとして「感性価値創造イニシアティブ~第四の価値軸の提案~」を策定しています。
「我が国が引き続き、暮らしぶりを向上させ、活力のある発展を遂げるためには、従来のものづくりの価値軸(性能、信頼性、価格)に加え、新たな着眼点からの価値創造が必要になっています。
そこで、経済産業省では、生活者の感性に働きかけ共感・感動を得ることで顕在化する商品・サービスの価値を高める重要な要素を、「感性価値」として着目し、日本の強みを活かしながら、我が国産業の競争力の強化と生活の向上のために産学官が一体となり取り組んでいくべき事項を、今後の産業政策の柱とすべく検討してきました。」(経済産業省2007年5月22日)
この第四の価値軸の提案はまさに私たち印刷業界が取り組むべき課題ではないでしょうか。印刷物は視覚的な情報、感性はもとより、手触り感、重量感など現実に体感でき、人々の感性に訴え掛けることができるリアルなメディアであります。感性豊かな箱に入れる、包装紙で包む。また人々に情報を伝える冊子、DM。そこに感性価値をもたせることによって、私たちのお客様の感性価値創造に貢献できるのではないでしょうか。そしてお客様に新たな価値をご提供することによって、私たちの仕事の価値を高めていく努力、これが今後の課題ではないでしょうか。全印工連でも取り上げられ、私が副議長をさせていただいている全国青年印刷人協議会でも、感性価値創造事業を展開し、『「INSATU」への飛翔―感性価値創造の理論と実践―』という冊子も発行しております。
また今後、どうやってもっと魅力ある、もっと存在価値のある業界、会社にしていくのか。そのためには私たちの事業領域をもう少し広げてみる努力も有効なのだろうと思います。
これも全青協で業態変革実践プラン100選事業として、取り組ませていただきましたが、全国にはマーケティング、企画、プリプレスから、ポストプレス、ロジスティクスまでいろいろ自社の強みを開発され、実践しておられる会社があります。単に原稿を頂いて印刷するだけでなく、その前後にお客様にとって価値のあるサービスを提供することによって、私たちの仕事の価値を高めるのです。全印工連から発行されている『業態変革・ワンストップサービス実践ガイドブック』にも、いろいろな事例やソリューションマップが載せられています。本当に各社がそれぞれ自社の領域を拡げ、印刷業界の価値を高める努力をしていくことが、今のデフレの状態から脱し、付加価値を高めていくために大切なことではないでしょうか。
業界が良くならないで、自社だけ高収益企業になるというのは、ごく稀にはあり得るかもわかりません。でも一般的には業界自体が高収益な業界に、高収益企業が多いのが普通です。みんなで印刷業界をもっと価値のある業界にしていきたいと思います。
水谷 勝也(みずたに・かつや)。1959年11月11日生まれ、三重県四日市市出身。慶応義塾大学経済学部卒。趣味は旅行、読書、ゴルフ。
富士印刷株式会社
1966年設立。事業内容は、パッケージ印刷、特殊印刷(UV印刷)、ビジネスフォーム印刷、商業印刷など。東海圏内で唯一、抗菌印刷の特許実施権取得。
資本金3000万円、従業員数75名。
本社・工場:〒510-0056 三重県四日市市南起町4-1
TEL 059-352-8181
/ FAX 059-354-0962
『JAGAT info』2010年2月号