キーエンス、おもしろCMの狙い

2012.02.23

営業・マーケティング

キーエンス、おもしろCMの狙い

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 懐かしの山口百恵「プレイバックPart2」のメロディー。絵画風の人物がくるりと振り向き、モノトーン幾何学模様のダンサーが不気味に踊る。セリフは「キーエンス」「その会社 キーエンス」のみ。そんなキーエンスのCMが話題だ。「意味不明」「インパクト狙いだろう」などといわれるが、その意図はどこにあるのだろうか。

■「その会社、キーエンス!篇Part2 15秒Ver.」(キーエンスホームページ)
  http://bit.ly/fcEX6f

 同CMは2011年にはピンク・レディーの「UFO」のアレンジで放映されていたものの続編ともいうべきもの。そもそも、キーエンスは産業機械用の制御用センサーを開発、販売する会社。バリバリのB to Bだ。本来、食品や飲料、日雑品などのようにCMで売上を盛り上げる業種ではない。毎年放映のタイミングが就職活動初期にあたるため、「学生へのアピール説」が有力だ。だが、狙いはそれだけではないと考えられる。

 キーエンスの営業スタイルの特徴は、各営業担当者が企業の工場など生産現場にアプローチをかけることにある。生産ラインを徹底的に研究させてもらい、同社のセンサーを組み込むことで生産性の向上やロス率低減などの効果を挙げる提案を行うのである。そのため、提案先のキーマンはライン長であり、購買意志決定者(ディシジョンメーカー)は工場の「エンジニアリング予算」を握っている工場長だ。製品の原材料にあたる物を売り込むわけではないので、購買部門などではないのである。その分、アプローチ先は多くなる。さらに、新規の営業先に訪問した際などには必ずキーマンと面談させてもらえるわけではない。まずは窓口となるような工場の担当者(ゲートキーパー)が存在する。購買意思決定に影響を及ぼすそれらの人々をインフルエンサーという。
 例えばB to Cの食品や飲料、日雑品などでもCMは消費者に訴えかける一方で、流通チャネルのバイヤーや店長、売り場担当者などに「CMがいっぱい流れているから売れるだろう」と思って棚を確保し、並べてくれることを期待している。同様に、キーエンスは製造業では超有名企業であるが、「キーエンスです」といったときに、「ああ、あおのオモシロイCMの!」となった方が話は早い。そうした、インフルエンサーマーケティングの効果も同時に狙っていることは想像に難くない。
※図)3月末刊行「ポーター×コトラー 仕事現場で使えるマーケティングの実践法が2.5時間でわかる本」(TAC出版)に掲載

 さらにB to BのCMは株主及び市場へのアピールという機能もあるが、忘れてはならないのが社員及びその家族へのアピールだ。広義でのインフルエンサーである。
 キーエンスは不景気の中でも40%を超える売上高営業利益率を維持し続けている。それを支えているのは平均年収1,400万円ともいわれる高収入社員だ。好業績で高収入。だが、その業務が楽ではないことは想像に難くない。そんな環境でも、本人とその家族にとって「テレビでCMされている有名企業」であるということは少なからずモチベーションを左右する。そうした効果も狙っているはずだ。

 CMを流せば単純にモノが売れるわけではない。それはとりわけインフルエンサーの構造が複雑なB to Bではなおさらである。誰にアピールすれば誰が同動き、どんな結果をもたらすのか。その予測と設計が重要なのだ。それは前述のようにB to Cでも変わりはない。広告でモノを売るのではなく、マーケティングの設計全体で売るのである。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

フォロー フォローして金森 努の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。