”To Be Or Not To Be”アサヒビールはどこまで踏ん張るか?

2009.11.26

営業・マーケティング

”To Be Or Not To Be”アサヒビールはどこまで踏ん張るか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

「全品均一価格居酒屋」が繁盛する中、頑なに発泡酒の「樽」を出荷せず、踏ん張っているビールメーカーがある。アサヒビールである。

日経MJ2009年11月16日15面・コラム「ふーど記」に”発泡酒「樽」7年ぶり復権”という記事が掲載された。今年1~10月の「樽(たる)・タンク」の販売が増えているという。その理由は低価格均一居酒屋であり、同価格でたっぷり提供できるため、ビールより発泡酒が選ばれた結果だという。

 ビールから発泡酒へ。その動きにビール大手4社の中で唯一抗アサヒビールだ。同社は発泡酒も第3のビールも「樽」で展開していない。取引先の料飲店からのプレッシャーは想像に難くない。それでもアサヒビールが踏ん張るのはそれは主力商品「スーパードライ」を擁する同社の矜持の現れでもある。

 「スーパードライ」の歴史をひもといてみよう。
 アサヒビールは1980年代半ば、ビール市場シェアで10%を割り込む存亡の危機を迎えていた。反転攻勢は1987年の「スーパードライ」の上市ではじまった。「ビールはキレです」と従来にない価値観を訴求しわずか1年、1988年に一気にビール市場のトップシェアを奪取。同88年から89年にかけて各社が追随し、「サッポロドライ」、「サントリードライ」、「キリンモルトドライ」を上市して激しさを極めたいわゆる「ドライ戦争」も制して、揺るぎないビール市場のリーダーの地位を確立したのである。

 スーパードライに注力し、ビール市場を牙城とする。「アサヒはドライ一本、ビールのみで勝負する」と宣言したアサヒであるが、デフレ不況の中、消費者が安価な発泡酒支持を強める動きを無視することはできなかった。2001年、「本生」でついに発泡酒市場に参入した。
 発泡酒参入以降、アサヒは「スーパードライ」の中核的価値である「”キレ”の呪縛」にはまっている。2位転落の憂き目を見たキリンは発泡酒「淡麗<生>」、そして第3のビールでも「キレ」を武器にシェアを拡大した。アサヒは同じ「キレ」を訴求すると、低価格な発泡酒や第3のビールがスーパードライとカニバリゼーション(共食い)を起こすことを避けるために市場のトレンドではない「コク」を訴求せざるを得ない。それが「呪縛」である。

 料飲店に対して頑なに発泡酒「樽」を展開しないのは、「スーパードライ」のブランド価値を守りたいためだ。料飲店で顧客が例えば「本生」をジョッキで飲んで「発泡酒でも十分美味しいじゃん!」と思うようになれば、自らスーパードライの命脈を断つことになってしまう。何としてもそれは避けたい。
 ビールにおいて、料飲店は品揃えが上位ブランドに集中する。その結果、スーパードライで料飲店市場の1/3占有しているともいわれていた。まさにアサヒの牙城でありドル箱だ。その市場が発泡酒に置き換わり始めている。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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