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『愛のむきだし』 園子温監督インタビュー

2009年2月4日 (水)

愛のむきだし



 
園子温監督 INTERVIEW


愛のむきだし




園子温監督最新作『愛のむきだし』が1月31日(土)より、ユーロスペースにて公開された。
初日は"舞台挨拶"も含め、"超満員"で上映された。今後も全国順次ロードショー予定。

作品の詳細&関連アイテムなどは、こちらのNEWSを。あわせて、こちらのOFFICIAL HPも

こちらの作品は、"237分の衝撃。実話をベースに描く、無敵の"純愛"エンタテインメント"と謳われているのだが、
第59回 ベルリン映画祭"フォーラム部門" 正式招待作品
第9回 フィルメックス"アニエスベー・アワード" (観客賞) 受賞作品
のように、もうすでに、評価を受けている。

"東京ガガガ"の噂は聞いていたし、園監督の過去の作品も拝見させて頂いてはいた・・・けれど、
初めてお会いした園監督は、ファッションも、その風貌も、"ロック"そのもので、
監督の全身は、自身の"小宇宙"で創られているような空気さえ漂っている気がした。

あえて言わせて頂くと・・・こんなに音楽とマッチした映画は最近ないし、
もっというと、ゆらゆら帝国がスクリーンでこんなに聴ける日が来るなんて・・・って感じだし、
圧倒的なパワーで展開されるその映像の連続がもうすべて、爽快。

ヒロインの満島ひかりちゃんがものすっごく最高!だし、西島隆弘くんの"童貞"&"女装"ぶりもかわいいし、
渡部篤郎さんの神父のハマリっぷりには脱帽だし、
渡辺真起子さんのあんなにはっちゃけた演技は観たことがないし・・・って、

お聞きしたいことは、とにかくたくさんあった・・・んだけど、
4時間の映画について、20分程度お話ししただけでは・・・なので、まずはそう、
特にお聞きしたいことばかり、お尋ねしてきました、"ゴロワーズ"を吸いながら・・・の監督に。


INTERVIEW and TEXT and PHOT: 長澤玲美


   
日本映画がやってないところは、
全部やりたいと思った。




---  本日は、よろしくお願い致します。


園子温(以下: 園)  よろしくお願いします。


---  監督の最新作『愛のむきだし』を拝見させて頂いたんですが・・・最高にたのしませて頂きました。


  ありがとうございます。


---  この作品は、編集前は6時間を超えていたそうですが・・・最終の形がこの237分(3時間57分!)になったんですよね?特に邦画では、異例の上映時間だと思うのですが、この長さに対して、配給サイドやプロデューサーの方々からのご意見などはありましたか?


  やっぱり、衝突はありましたね、特にプロデューサーと。長いと、映画館で1日にかけられる回数が少なくなってしまい興行的に大変だから、「出来れば3時間くらいにならないのか?」というようなことを言われました。僕も別に、長くするためにやってたわけではないので、最大限、切れるところは切っていったんです。けれど、4時間になったあたりから結構きびしくなってきて・・・。全部のシーンがつながっていて、ここから1時間を切るとなると、つながりが分断されてしまい、わけがわからなくなるので、「ここまでかな」ということで、プロデューサーにもあきらめてもらい、ああいう形になりました。


---  上映時間の長さで反対していた方が完成された形を観て、納得はされているんですよね?


  そうですね。最初から納得はしてたんですよ、「傑作です」と。でも、「長いです」っていう(笑)。「"おもしろい"のと"興行"とは違うから」って。でも、最終的には、「これでいこう」って腹をくくってもらいました。


---  腹を・・・(笑)。マスコミ試写の時は途中で、10分くらい休憩が入りましたよね?(笑)。


  僕は入れなくていいと思うんですけど・・・「入れてよかった」っていう客、あんまり見たことないんです。


---  そうですか?(笑)。


  みんなに、「いらないんじゃないか」と言われるんです(笑)。別に、"インターミション"を入れるつもりで作ってる映画じゃないので、あそこで仕方なく切ってあるだけなんですけど・・・。


---  公開時、なくなりますかね?(笑)。


  そこは相談したいんですけどね。休憩入れることによって、前半と後半っていう風な感じに見られがちなので。あそこは別に、何の軸にもなってなくて、ただ真ん中で切ったってだけですから。


---  「『愛のむきだし』は、"むきだしの愛"ではなくて、"愛のむきだし"だから、"物" "愛という物質"。"物としてむきだされた愛"が・・・"勃起" "パンチラ" "盗撮" "カーチェイス" "喧嘩"に形を変えて、"物"として溢れ出す。この映画は、"エンターテインメントのむきだし"。エンターテインメントの殻を壊して、むき出してみせよう・・・」と監督はおっしゃっていましたが、この上映時間もまた、エンターテインメントの枠を超えていると思いました。監督が書かれた原作「愛のむきだし」も読ませて頂いたんですが・・・。


  ああ、ありがとうございます。


---  こちらは、映画の脚本とほぼ同じ内容にされていると思うんですが・・・一部、ナレーションが入っていなかった部分がこの本には書かれていたりして、後からまた、映画の違う部分を知ることが出来てたのしく読ませて頂きました。この映画のストーリーは、監督のお友達の"実話"がベースになっているんですよね?


  古くからの友達というか、一緒に自主映画を作っていた人です。途中で完全に人生の道が分かれて、彼は"盗撮"の道を歩み出したんですが、あるとき彼の妹がとある"宗教団体"に捕まって、出られなくなり、彼がその"ヘンタイパワー"で、妹をその新興宗教から"脱会"させたっていう話を聞いたんです。15・6年も前くらいの話ですが、その時は、「おもしろい話だな」と思っただけで、別に映画にしようとは思っていなかった。ずいぶん(時間が)経ってから、急に思い立って、「あれを映画にしよう」と。


---  "こっちの世界"って考え方が、「確かに」って思ったんですけど・・・キリスト教を信じる神父やその家族、新興宗教の"ゼロ教会"って、彼らにとってはそれぞれが信じているものだから、違う種類のものという意識があるかもしれないですけど、客観的に見ると、全部一緒ですよね?"盗撮"している世界が"こっちの世界"で、"あっちの世界"に行ってしまった妹を"脱会"させることが本当にいいことなのかも、よくわからなくなって来ますよね・・・。


  だから、僕の友達は、実際に"盗撮"する彼も、"ヘンタイ"であることにすごく自信をもっている。純粋に"盗撮"が好きで、本当に"童貞"で、性的な問題よりも、"盗撮"が好きだったんですよ。その当時もう彼は、その筋のプロの人に見込まれて、"盗撮のカリスマ"みたいになっていました。とにかく彼の作品がものすごく評判を呼んで、彼の撮った盗撮ビデオが飛ぶように売れていたらしいんですよ。でも、それはもう、彼のみぞ知る世界。


普通、そういう組織から"脱会"させようとする時って、牧師とかを使うくらい、大変な作業らしいんですけど、そのすごい"肉体パワー"というか"本能パワー"というか、そういう"ヘンタイパワー"で、「"こっちの世界"に戻ってこい!」と自信を持って、力強く、妹を引き戻したっていうのがすごいなと思ったんです。


"こっちの世界"っていうのは、傍目から見れば、「そっちの宗教もあれだけど・・・お前の"こっちの世界"もかなり微妙だぞ」と思うんですけど(笑)、彼は堂々としたものでものすごい信じきっている。そういうところがすごいなあと思って。だから、そういうものがやっぱり、やりたかったですね。


 
人を愛して、すごく虚しくなる気持ちを
"空洞"ということに当てはめるとすごく、
いいなあって思って。






---  それぞれの世界が成り立っていて、それがぶつかった時のあのぐちゃぐちゃになるんだけど、まとまっちゃった感じがすごくおもしろかったです(笑)。原作にも書かれていましたけど、"空洞"って言葉を多用されていましたよね?"ゼロ教会"の教会における階級では、"CAVE" "ACTOR" "PROMPTER"という段階があって、その"CAVE"も"空洞"という意味ですし、どこかの媒体で監督が「主演の西島隆弘くんの顔も空洞っぽかった」っておっしゃってましたが・・・(笑)、原作の時点で、"空洞"は"キーワード"としてあったんですか?  


  ゆらゆら(帝国)を(楽曲)使うってことが決まり、「空洞です」でやろうと思ったから、最初のシナリオよりももっと、"空洞"という言葉を思い切って入れてみたんです。そしたら、ゆらゆら帝国のあの曲が、映画にすごくはまった。人を愛して、すごく虚しくなる気持ちを"空洞"ということに当てはめるとすごく、いいなあと思ったんです。


---  映画のテーマ曲とか主題歌って、エンディングに1曲だけ、脈絡もなくかかることって多いですよね?でも今作は、劇中でも、本当にいっぱい、ゆら(ゆら)帝(国)の曲が使われていてたので、すごく爽快でした(笑)。わたしは個人的にも、彼らの音楽が好きなのですごくうれしかったんですけど、スクリーンであんなに、ゆら(ゆら)帝(国)が聴けることって、今後もないんじゃないかなっていう想いもあったりして、よけいに感慨深かったといいますか・・・(笑)。(注:「空洞です」の他に、「美しい」と「つぎの夜へ」も使用されてます)


  アメリカだと、ロックがすごくマッチする映画があったりするんですけど、日本って、ロックがマッチする映画って、なかなか難しいというか、ないんじゃないかなと。曲と音楽と映像がちゃんとマッチ、フィットするように心掛けましたね。


まあ、日本のテーマ曲って実は、後付けのものが多いから。有名人使って、"お囃子隊"みたいなところで、テーマでも何でもなくて、"お囃子曲"みたいな感じっていうか(笑)。あんまり、テーマ曲になっていないんですよね、邦画の場合。


---  そうですよね(笑)。今作では「空洞です」が本当に、この"映画のための音楽"であり、この"音楽のための映画"でもありますよね。


  そうなんですよ。この形っていうのが本来のテーマ曲であると思うんですよね。


---  他にも、「空洞です」は、"ゼロ教会"の"CAVE"の人達が合宿所で合唱みたいに歌ってたりもしますよね?(笑)。ああいうところでも使われていて、そこもすごくおもしろかったんですけど・・・(笑)。


  実は、"小池アヤ"が勧誘される時に、教会の中でうっすらと、アレンジバージョンもかかっているんですよね、本当にうっすらなんですけど・・・。


---  ・・・そうでしたっけ?(笑)。そのシーン、もう1回観て確認してみますね。あとは、ラヴェルの「ボレロ」も使われてましたよね?


  台本書く時から、「ここはラヴェルを使いたいな」と思っていました。「ラヴェルベートーヴェンはもう、台本の時から使いたい、今度の曲だな」と。"ロックとクラシックを融合させたい"とも思っていて。向こうの映画なんかは、平気でがんがんやるんだけど、日本ではやらないから、日本映画がやってないところは、全部やりたいなと。
("クラッシック"使用楽曲は→ラヴェル: ボレロベートーヴェン: 交響曲第7番サン=サーンス: 交響曲第3番です) 



次のページに続く・・・



自殺サークル 『自殺サークル』

石橋凌、永瀬正敏らによるミステリー・サイコホラー。新宿駅ホームで、54人もの女子高生が一斉に投身自殺をした事件をきっかけに、各地で集団自殺が頻発し本格捜査が始まる・・・。ショッキングな描写も交えた衝撃作品。

   
エクステ 『エクステ』

栗山千明、大杉漣らによる、パニックホラーなのにユーモアもある、異色エンターテインメント。園監督が作詞&作曲した「My ヘアー」も必聴ですよ。「愛のむきだし」のヒロイン、満島ひかりちゃんも、ちょこっと出演してます。

   
気球クラブ、その後 『気球クラブ、その後』

川村ゆきえ映画初出演!荒井由実の名曲「翳りゆく部屋」を畠山美由紀がカバー。永作博美の演技は、ここでもやっぱり、すばらしいです。あんな"気球BAR"でお酒、実際に飲めたら何か、すてきですね。





   
Hazard: ハザード 『Hazard: ハザード』

オダギリ ジョー主演!ほぼ全編に渡り、NYのブルックリンやハーレム地区でのロケを敢行し、手持ちカメラの使用、1シーン1カットの多用により、緊張感とスピード感あるドキュメンタリータッチの映像に。暴走する若者の姿を鮮烈に捉えた"青春映画"。

   
紀子の食卓 『紀子の食卓』

崩壊してしまった現代家族の姿を炙り出す、"ホームドラマ"には、吹石一恵、つぐみ、吉高由里子ちゃんらが出演してます。園監督は、"原石"の女優さんを発見するのがお得意なんです・・・よね?

   
奇妙なサーカス: Strange Circus 『奇妙なサーカス: Strange Circus』

12年ぶりに女優業に復帰した宮崎ますみ主演で贈る禁断の官能オムニバス。実の父に抱かれる小学生と彼女に嫉妬する母。歪んだ3人の関係は、次第にエスカレートしていく。R-18作品。

   
夢の中へ 『夢の中へ』

冴えない劇団員の男がテロリストになったり、取調べを受けたりする不思議な夢に浸食されていく物語を描く。田中哲司、夏生ゆうな、村上淳、オダギリ ジョー、市川実和子、岩松了、麿赤兒、温水洋一らが出演。








   



うつしみ 『うつしみ』

各国の映画祭で圧倒的なスピード感が絶賛!国内での上映時は、超満員の観客で沸いた伝説の"疾走"映画。"劇中劇"という設定の中で、"うつしみ=虚身"である少女や男たちの"現身"を求める衝動を描き出す。荒木経惟、荒川眞一郎、麿赤児などキャストも個性的。

   
帰ってきた時効警察 『帰ってきた時効警察』

その名の通り、『時効警察』が"帰ってきた"ver。園監督が手掛けたのは、♯3「えっ!?真犯人は霧島くん!?」と♯6「青春に時効があるか否かは熊本さん次第!」。♯3では、満島ひかりちゃんが出演してます。





   
時効警察『時効警察』

"金曜夜のおたのしみ"として、ゆるーく、でも熱ーくヒットしちゃった"時効警察"、初のBOX。こちらでの園監督は、♯4「犯人の575は崖の上」と♯6「恋の時効は2月14日であるか否かはあなた次第」。♯6では、まだあどけない、吉高由里子ちゃんが、出演してます。