「スクウェア・エニックス・グループは中国でもっとも成功している海外ゲームメーカー」

 2014年7月31日(木)~8月3日(日)、中国・上海にある上海新国際博覧中心にて、中国最大規模のゲームイベントChinaJoy 2014が開催。会期中にスクウェア・エニックスの本多圭司氏にインタビューをする機会を得た。スクウェア・エニックスといえば、中国市場において、大きな存在感を放っているゲームメーカー。最近何かと話題の多い中国市場だが、その中国戦略は?

中国市場は幅広いタイトルラインアップで展開していきたい

スクウェア・エニックス・グループの中国戦略を本多圭司氏に聞く 「最適のコンテンツを最適なパートナーと」【ChinaJoy 2014】_02
本多圭司氏
スクウェア・エニックス・ホールディングス取締役
スクウェア・エニックス・チャイナ 董事長
スクウェア・エニックス取締役

――スクウェア・エニックスさんの中国における取り組みもけっこう長くなりますね。
本多 スクウェア・エニックスが中国での事業を立ち上げたのは、2001年になります。台湾のソフトスターさんと組んで参入しています。このときのフラグシップタイトルが『クロスゲート』で、これは中国市場でもトップ3に入る大ヒットを記録しています。その後、2004年に私自身が中国に赴任しまして、2005年にスクウェア・エニックス単独100%の資本でスクウェア・エニックス・チャイナを設立しました。そのときも『クロスゲート』を中心にして、いくつかの新規タイトルを展開したのですが、正直に申し上げて、結果としてはすごくきびしいものがありました。中国市場はみなさんが認識されているようにとても巨大な市場なのですが、一方でものすごい制約があるということも事実です。そもそも、オンラインゲームを運営するための資格が国で定められていて、基本的には、この資格は外資では取れないんです。コンテンツも、個別に国の許可を得なければいけない。そういう意味では、非常に難しい市場ではあります。その中で、私たちとして、「単独で何かできることをやってみよう」ということで、大きな展開も含めて展開してみたのですが、うまくいきませんでした。そんな中、ここ7年はコンパクトな運営を心掛けて、いろいろなことを学んでいきました。結果として、中国拠点の事業としては、ずっと利益が出続けている状態です。

――どのような施策が成功したのですか?
本多 中国は制約市場ということもあって、主要企業が寡占している状況です。最近では多少新しい企業が入ってきますが、いくつかのメジャー企業で占められている状態に変化はありません。それぞれに強みが違うんです。「私たちが今後、中国の中で自分たちの持っているコンテンツを最大限にユーザーの方に楽しんでいただくためにはどうしたらいいのか?」ということを考えた場合に、「それぞれ得意分野を持っているパートナーさんと組むのがいいのではないか?」という結論になったんですね。最適のコンテンツと最適のパートナーを上手に組み合わせる。それを、ここ2~3年ずっとやってきました。結果、盛大さんと組んだ『拡散性ミリオンアーサー』が、中国市場でトップ3に入るほどの大ヒットを記録しました。さらに、7月18日には、パーフェクトワールドさんにIPをライセンスして、私たちが彼らの開発を監修するという形でスマートフォン向けの『クロスゲート』を配信したのですが、これがすごく順調な立ち上がりで、iPadのランキングでは1位を取っています。現地の報道では、月間で15億円くらいの売り上げになるのではと、言われているほど注目されています。中国市場の数字というのは、なかなかに判断しづらいのですが、かなり大きな規模の成功になっているのは事実です。一方で、盛大さんと組んだ『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア』(以下、『新生FFXIV』)も8月25日にサービスインしますし、テンセントさんと協力しての『三国志乱舞』のサービスインも予定しています。

――バラエティーに富んだタイトルを続々とリリースしますね。
本多 『ファイナルファンタジー』のような、私たちがグローバルで大事にしている重要なIPや『クロスゲート』という、中国市場開拓の発端となったタイトルなど、自信のIPをいちばんの相手と組んでいるほか、『拡散性ミリオンアーサー』のような新規IPでも成功を収めています。一方で、PCのMMORPGからモバイルのスマートフォンコンテンツまで、とにかく幅広い、多様なコンテンツを展開しています。これがいろいろな形で噛み合い始めて、成功事例が出始めている……というのが、私たちの現状ですね。多岐にわたるパートナーシップとバラエティーに富んだラインアップ。どちらも、私たちがいま一番先行しているのではないかと、自負しています。中国市場においては、日本企業はもとより、エレクトロニック・アーツなどの欧米企業を含めて、外資としては私たちが先頭ランナーとして走っているとは思います。

――自社で展開しようという発想はなかった?
本多 やっぱり企業として考えると、本当は自分たちで全部やるというのが理想型だとは思っています。ただ、それができる国と、できない国というのが厳然とあって、理想を追求するとなかなかビジネスに合っていない……という場合に、そこをどうクリアーするかで、現地の信頼できるパートナーと組んで、私たちのコンテンツを最適化してもらうという発想が生まれたんです。ユーザーの方にとって、いちばん楽しみやすい環境を作ってもらうというのが、一番重要ですから。それを理解するまでに、いろいろと苦い経験もしました。これが未来永劫そうかというと、そうではないかもしれませんが、現状ではベストだと思っています。

――なるほど。ではラインアップ戦略について聞かせてください。中国では、PCオンラインゲームとスマホが人気ですが、おもにそこを攻めていく感じですか?
本多 中国のユーザーさんがどの環境で遊ぶのかを限定せずに、とにかく幅広い分野で展開していく予定です。あとは、『新生FFXIV』 がサービスインしたときに、それがどのくらいうまくいくのかが、私たちにとっての関心事項ではありますね。

――『新生FFXIV』に対する手応えは?
本多 あります。いまグローバルの登録ユーザーは230万なのですが、中国のクローズドベータの募集は100万人を超えています。近々オープンベータを開始した段階で、もっと大規模な展開を行う予定です。それにあわせて、当然マーケティングやプロモーションなども積極的に動いていきますので、かなり期待できるのではないかなと。

――『ファイナルファンタジー』シリーズは、中国でも人気なんですね。
本多 じつは、『ファイナルファンタジー』は、中国で一度も正式にサービスをしたことはないんですよ。いろいろな形で、かなりの数が中国に入ってきているようで……。『ファイナルファンタジーVII』 や『ファイナルファンタジーX』 などは、中国のゲームファンもご存じですね。シリーズの知名度は高いです。実際のところ、私が中国に行った2004年くらいから、当時サービスインしていた『ファイナルファンタジーXI』を遊びたいという声はすごく大きかったです。技術的な制約から、なかなか実現できなかったのですが……。そこで、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)に関しては、日本でローンチする前から、ずっと盛大さんとは話をしていました。足掛け4~5年くらいになりますね。ご存じのように、『FFXIV』に関しては、ローンチのときに市場できびしい評価を受けて、吉田が途中で引き取って、“新生”に向けてものすごい努力をしてくれたのですが、再生のための努力をしつつ、同時並行で中国ともずっと「中国市場でどういうふうに『新生FFXIV』を展開していくか?」ということを、議論してきました。

スクウェア・エニックス・グループの中国戦略を本多圭司氏に聞く 「最適のコンテンツを最適なパートナーと」【ChinaJoy 2014】_04
スクウェア・エニックス・グループの中国戦略を本多圭司氏に聞く 「最適のコンテンツを最適なパートナーと」【ChinaJoy 2014】_03
▲盛大遊戯ブースで大々的に展開された『新生FFXIV』。

――盛大さんと組んだ理由は?
本多 中国市場におけるオンラインゲームの最初の成功事例って『伝奇』なんです。もともと『伝奇』は韓国・ACTOZさんのタイトルなのですが、それを中国に持ってきて、ナンバーワンのタイトルにしたのが盛大さんです。そういう意味では、盛大さんはゲームの運営能力が極めて高いです。私たちとしても、『新生FFXIV』 は、世界でもトップのMMORPGだという自信があるのですが、中国でこれだけのブランドを取り扱える企業としては、やはり盛大さんがいちばんいいのではないかと判断しました。『拡散性ミリオンアーサー』も盛大さんと組んでいますが、「とにかく中国の人たちが、スマホのコンテンツに対して求めていたであろうことを前面に押し出していきましょう」ということで、意志の疎通は果たせて、盛大さんと取り組むことになりました。
 テンセントさんとは、『三国志乱舞』を展開するのですが、『三国志』自体が中国ですごく人気のあるテーマじゃないですか。ですので、できるだけユーザー基盤の大きいところと組んでやるのがいいのだろうということで判断しました。テンセントさんは、ご存じのように、WeChatという、日本で言うところのLINEのようなメッセンジャーサービスをお持ちです。LINEとほぼ同等のユーザー基盤を、ほぼ中国国内だけで持っているような企業なわけです。そういう巨大なコミュニティーを持っているところとやるのがいちばんいいのではないかと判断しました。
 『クロスゲート』は、パーフェクトワールドさんと組んで始めたのですが、おそらく中国では、いちばん開発力に優れた企業だと思っています。『クロスゲート』はIPのライセンスアウトで、先方で開発してもらうというスタイルだったので、やはり開発力が強いところとやりたいなと。

――中国企業からしてみたら、「うちは、スクウェア・エニックスさんとガッツリやりたい」みたいな要望はないのですか?
本多 そこは納得していただいていますね。私たちが中国で展開していきたいコンテンツは、当然のこと中国の各企業さんから見てもほしいコンテンツなわけで、おのずと競合は起こります。ですが、私たちにとって“どこと組むのか?”というのは生命線になるので、そこに関しては徹底的に考えます。各社での成功事例を積み上げていくことが、私たちの中国市場における交渉力とプレゼンス(存在感)を高めていくことにつながるわけですから。それぞれのパートナーさんと成功事例を作っていきたいというのが、私たちの考えかたですね。

――成功事例も続々と出始めていますしね。
本多 そういう意味では、中国におけるプレゼンス(存在感)は上がってきているかもしれません。中国で、まだおつきあいしていない会社がいくつかありますが、できるものであれば、今後はおつきあいしていきたいです。ある程度主要な企業によって、市場が寡占化されていますが、それでも新しいメーカーが出てきていないわけではないですからね。Qihoo 360さんなんかは、比較的新しいメーカーですよね。近年はメジャーになってきている。今回タイトーの『パズルボブル』はQihoo 360さんと組むのですが、そういった新しいパートナーと新しい試みをしていきたいですね。ほかにも潜在的なパートナーはけっこうありますし、それぞれの会社の強みを活かした関係を、どれだけ数多く組めるかも、重要な財産になると思っています。

――ちなみに、最適化したコンテンツを最適化したパートナーに提供しつつ、その各パートナーからノウハウを吸収する姿勢も、スクウェア・エニックスにはある?
本多 もちろん。たとえば、『拡散性ミリオンアーサー』ひとつとっても、日本での運営と中国での運営はぜんぜん違うんです。中国でローンチしたのは、日本で運営を開始してから1年強経ったころでした。そのため、中国でサービスインするときは、追加コンテンツが山のようにあるわけです。中国では、これを短期集中で展開しました。そういう意味では、運営のライフタイムはものすごく短いです。ただ、市場自体が極めて大きかったので、“長く広く”というのではなくて、“とにかく高く”ですね。私たちにとってはちょうど、そのころ中国でスマートフォン市場が立ち上がるタイミングで、そのときにどれくらいの大きな成功例を作れるか、というのがこの市場でプレゼンスを上げることになりますから。“高さ”はものすごく大事だったんです。『拡散性ミリオンアーサー』のときは、平均的な成功で長くやるよりも、「こんなにもすごい成功をしたぞ!」っていう実績を作ることが重要だったので。中国の運営に関しては、日本と必ずしも合わせなくていいという考えかたを取っていました。

――独自の手法を取ったわけですね。
本多 あとは、先行して韓国と台湾で展開していた経験値も大きかったですね。日本市場に比較的近いのは台湾で、韓国は中国に近いというのがだいたいわかったんです。ですので、「韓国での成功パターンを中国で実現したほうがいいね」というのは方向性としてありました。一方で、技術的な部分では、中国市場は台湾に近い。韓国はクラウドサービスの環境がしっかりしているのですが、中国・台湾は自社サーバーでの運営。中国での運営は、相当大規模になることが予想されますが、台湾市場である程度技術的な研修をしっかりと積んで、安定した状態で運営できる体制ができた。コンテンツ運営に関する安定性を完全に確保してもらってから、中国市場に挑むことができたんです。万が一サービスの質が低下すると、ユーザーさんはその時点でぱっと離れていってしまいますからね。そういった意味では、『拡散性ミリオンアーサー』は、うまい形で中国市場にハマって成功した例だと思います。

――『拡散性ミリオンアーサー』は、“カルチャライズ”に近い形で、内容も変わっているようですが、大胆に“現地任せ”を貫いたようですね。
本多 ものによります。『拡散性ミリオンアーサー』は、“高さ”を求めたので、「徹底的に中国の意向を生かしましょう」という方向性で戦略を練りました。ただし、『新生FFXIV』のようなコンテンツだとぜんぜんわけが違います。これは、私たちにとって一番重要なIPですし、世界的に「『ファイナルファンタジー』ってこういうものだから」という世界観が定められていますから。とはいえ、最終的に盛大さんと相当議論はしました。『新生FFXIV』に関しても、彼らから要望がでてきます。それを吉田が全部一度話を聞いて、「この部分は大丈夫です。そもそも想定されています」や「クエストをこれ以上マウスワンクリック化することはしません。ゲームではなくなると考えているからです」などのように全部ひとつひとつ丁寧に返答してくれています。その過程で、『ファイナルファンタジー』像というのを、中国の方にもきちんと納得していただいて、理解していただいています。IPをどう展開するかは、ケースごとに異なりますね。

――パーフェクトワールドが中国で展開しているスマホのクロスゲートを日本やその他の国で展開する予定はありますか?
本多 これまでPC版『クロスゲート』は中国以外の地域でも展開してきており、各地に多くのファンがいます。今回さらにスマートフォンでも遊べるようになり、これまでクロスゲートを遊んだことのない人にも気軽に触っていただける環境にもなったと思います。ですので、詳細は未定ですが、他の国への展開については、パーフェクトワールドさんといっしょにに前向きに検討しているところです。

――では、提携している中国メーカーのタイトルを、スクウェア・エニックスが日本もしくは海外で展開するといった可能性はありますか?
本多 我々は、おもしろい・すぐれたコンテンツをユーザーの方々に提供する、ということが仕事ですから、中国発であるかどうかにかかわらず、我々がおもしろいと感じ、日本や海外のユーザーの方々に楽しんでもらいたいと評価したものであれば、積極的に展開していきたいです。

中国コンシューマーゲーム機の展開はすごく楽しみ ただし……

スクウェア・エニックス・グループの中国戦略を本多圭司氏に聞く 「最適のコンテンツを最適なパートナーと」【ChinaJoy 2014】_01

――今後の話を聞かせてください。中国で14年ぶりにコンシューマーゲーム機が解禁になりますけれども……。
本多 すごく楽しみにしています。ただ、ハードウェアが解禁されたということと、ソフトウェアが解禁されたということは別の話で、ソフトウェア的にはコンテンツの審査というのは相変わらず残っているんです。私たちとしては、どのコンテンツだったら中国で展開できるのかということが、まだちょっと見えていない。全部、それぞれ政府の許可を取っていかないといけないので、政治的なものだったり、暴力的なもの、性的なものに対する制約はきびしいですね。そういった点を含めて、私たちも、ソニーさんやマイクロソフトさんと打ち合わせをしていますが、「どういうコンテンツを軸に展開をしていくか?」ということが、大きなポイントになります。さらに、ご存じのように、中国市場はいわゆるパッケージを売る市場ではないんです。ほとんどフリー・トゥ・プレイの市場ですから。あんまりパッケージを売るという習慣がそもそもないんです。

――ゲームショップで、パッケージが置かれることはたぶんないであろうと?
本多 売ってはいますが、やっぱりオンラインでコンテンツをダウンロードして遊ぶというのが、かなり強く根付いている国ですね。そのへんの流通も含めて、どのような考えかたで展開されるか……ですね。

――なるほど。コンシューマーゲーム機“解禁”とは言いながらも、課題も多そうですね。
本多 そういった意味では、まさに“これから”だと思います。やりかたにとっては一気に伸びる可能性があります。ただ、そのやりかたをどうしていくかは、私たち自身もまだわかっていないので……。

――マイクロソフトは、いちはやく中国市場でXbox Oneを3699元で発売することを発表しましたが、成功すると思いますか?
本多 正直わかりません。マイクロソフトさんとして、どういうふうに市場を作っていこうとしているかですね。ハードの価格設定に関しては、海外市場と比較して、価格を壊すことを懸念されての値付けだと思います。中国市場だけ安いものを出すと、そこからいろいろな市場に対しての影響が出てきますから。価格は世界で平均的に維持したいという思いはあったでしょう。一方で、ソフトの価格戦略はまた別ですね。日本市場とアメリカ市場って、ソフトの価格が違いますよね。中国市場でどうされるかは、マイクロソフトさんの判断になるかと思いますが、大胆に攻められる可能性がある。あとは、さきほど申し上げたオンライン戦略。いきなりダウンロード重視にシフトしてしまうのか、あくまでもパッケージの流通にこだわるのか……。どちらを選ぶかで、マーケティング的にもだいぶ違いますからね。今回私たちが中国に来ていることの理由のひとつは、そのへんの話をうかがいたいからでもあります。

――スクウェア・エニックスとしては、PC版『新生FFXIV』を中国市場で展開するからといって、プレイステーション4でも同じように展開できるというわけでもない……と?
本多 もちろん、そういうことができればいいなとは思っています。ただ、そのための環境がどのように整備されているかというのは、これからの話です。ユーザーが遊べる環境を幅広くするというのが、私たちにとってすごく大事ですので、環境が整うことが明確になっていれば、もちろん展開してもいいとは思うのですが、そのへんはいまのところは、まだぜんぜん見えていないですね。これからそのへんを議論しながら、どうするかというのを検討していくことになりますね。

――そういった点を踏まえたうえでの、御社の今後の中国戦略は?
本多 最初に申し上げた通り、私たちとしては、MMOだけに重点を置くとか、スマホが伸びているのでほかは放っておいて、スマホに注力するとか、コンシューマーが中国に入ってくるので、そこに最重点を置くとか、そういったことは考えていません。いまのユーザーさんは、カジュアルなゲームを遊ぶ人から、コアなゲームを愛する人まで、ものすごく多様化しているわけですよ。どのお客様にも満足していただけるコンテンツがスクウェア・エニックスにはありますので、それぞれのユーザーさんに向けて展開していきたいです。もちろん、最適化したパートナーと。そのへんの方針に変化はないです。市場の多様性を、私たちは見ていきたいと思っています。そこに一定のユーザー層があって、楽しんでいらっしゃる方がいる以上は、そこに向けてちゃんとコンテンツを提供していきたいです。

――中国のゲーム市場も、14~15年連続で右肩上がりのようで、今後も成長が期待できそうという側面もありますしね。
本多 成長基調は変わらないと思いますね。国民の方々が豊かになってきていますし、多所得者もずいぶんと増えているので、これまで以上にエンターテインメントに対する支出の割合というのは、大きくなってくるとは思います。その中で、ゲームビジネスというのは、すごく有効ではないかと。あとは、スピードですよね。スピードがものすごく速い。日本やアメリカは、たしかに市場としては少しずつ大きくなってきていますが、スピード感がないんです。たとえば、中国のスマホ市場に限っても、2010年には500億円だったのが、とある調査では、2014年には3000億円を超える見込みです。4年で6倍ですよ。そんな市場は、世界中を探してもどこにもない。もともとの母数が大きくて、しかもスピードがあるとなったら、ものすごい市場ですよね。

――ところで、ChinaJoyを見ると、マンガやアニメも大人気です。スクウェア・エニックスさんでは、ゲームのほかにもマンガやアニメなどのIPも持っていますが、それらの中国での展開に関してはいかがですか?
本多 正直、紙メディアでのマンガを展開するというのは、規制がありきびしいですね。一方で、コンテンツの許諾はどうかというと、デジタルでマンガやアニメを展開するというのは、じつはすでに違法コピーが出回ってしまっているんです。デジタルのコンテンツは、ローカライズも含めて、簡単に持っていけますし。そのへんは、中国の人は本当に行動が早いですね(笑)。即日ローカライズされてしまいます。現状だと、いまの日本でやっているのと同じようなビジネスモデルで、アニメやマンガで収益を上げるのはすごく難しいです。それをどういう形でビジネスにするのか……というのは、別の形を考えないとダメですね。中国の人にとって、デジタルのアニメコンテンツやマンガコンテンツを見るというのは、お金を払わないというのが前提になっていますから、そのままの形ではたぶん成立しないと思います。だとすると、オリジナルのマンガコンテンツ、アニメコンテンツを使って、違う形のコンテンツでどう収益化するというのが、つぎのテーマです。何をどう組み合わせると、そのコンテンツを最大化できるかのということを考えていかないといけない。その道筋はたぶんいくつかあると思うんです。それをどういうふうに組み合わせるのかということが、私たちの検討しているところです。

――ちなみに、『ファイナルファンタジー』と並ぶ、スクウェア・エニックスの看板タイトル『ドラゴンクエスト』シリーズの中国展開は考えていますか?
本多 検討はしています。ただし、決まった案件はないです。意志としては“やりたい”です。とはいえ、『ファイナルファンタジー』がグローバルな作りかたをしているので、インターフェースひとつとっても中国の人たちに理解しやすいのですが、『ドラゴンクエスト』はどちらかというと、ドメスティックに強くなったIPです。ゲームの作りかたやインターフェースも含めて、すごく特殊です。ただし、コンテンツは日本国内でものすごく強力。日本市場向けに最適化されているんですね。もし中国でやるとなったら、「どこを変えないといけないのか?」、「どこを維持すべきなのか?」をしっかりと議論しないといけない。そういった意味も含めて、やりたい意志はありますけれど、まだお話できることはありません。

(取材・文 編集部/F)