日本の伝統文化、俳句。五七五で全てを表すその奥深さから、日本国内のみならず、「Haiku」として、世界中で愛好者がいるらしい。


これに関して先日、外務省と欧州連合(EU)が主催している「日・EU英語俳句コンテスト」の入賞作品を見かけたのだが、その作品は例えばこんな感じであった。

 Blue sky and twelve stars
 Embracing a round red sun
 A fraternal hug

訳としては、「青空と十二の星 丸く赤い太陽を包み込む 友愛の抱擁」とのことであり、なんだか高尚で素敵な感じがするのだが、何がどう俳句なのか、いまいちピンとこない。「Haiku」のグローバルルールは、どんな感じのものなのだろうか?

まず、俳句の中で最重要ポイントである「五七五」のリズムについて調べてみる。英語学習者向けの週刊誌である週刊STでは、定期的に英語俳句のコンペを行っているのだが、そこで統一されているルールでは、「(3行書きとし、)各行を5、7、5音節以内にする」というものがある。

英語における音節とは、母音をふくむ音声の聞こえの一種のまとまりであり、平たくいうと発音したときに強く聞こえる箇所のこと。例えば「dog(犬)」という単語の音節は1つであり、発音すると「ダァ」という1つの音に聞こえる。
五七五の「音節」を持つ俳句は、例えばこんな感じである。

 After father’s wake
 The long walk in the moonlight
 To the darkened house

例えば1行目、「アフター、ファーザーズ、ウェイク」と、日本語風に発音をしていくと、なんだか非常に長ったらしく感じるのだが、英語で発音すると、「アフ・ファザ・ウェイ」のようなリズムになり、五七五っぽい感じの発音になるのだそうだ。

この「音節で五七五を定義する」という形式は、1950年代に英語俳句の普及がはじまったころに、「俳句入門(Haiku in English)」の著者であるHenderson氏などにより決められた、いわゆるオリジナルルールなのだそうだが、Haiku愛好家の中には、「長ったらしくて、俳句らしくない」という意見もあり、現在ではより短い音節でもオッケー、というケースもあるようである。

実際、週刊STオンラインのルールでは「できるだけ2、3、2音節くらいにしたほうがよい」という補足説明がされている。音節に決まりは無いが、短い方がシンプルでいい、というのが、現在の主流のようである。

次に、「季語」について。
この問題も結構複雑である。というのは、例えば日本では8月は夏であり、「8月」という言葉は夏の季語になりえるのだが、南半球にある国では8月は真冬であり、これらの言葉は冬をイメージする季語になってしまうのである。というか、そもそも四季なんてない、という地域もあり、「季語とはいったい何なのか」という、非常に根本的なところから考察を進める必要がある。

この季語問題については、William J. Higginson氏の著書「The Haiku Seasons」「Haiku World」によりまとめられているようだが、上述のとおりややこしいため、季語の挿入は必ずしもルールには含まれていない。週刊STでの英語俳句ルールでは、「季節感を盛り込む」という表現にとどまっており、季語という言葉は取り除かれている。

このように、一つ一つの日本ルールを英語に当てはめる際、様々な問題があるため、いわゆる公式ルールのようなものはなく、団体やコンペごとにルールが様々であるのが実情のようである。
細かい形式にこだわらず、むしろその自由な感じを逆に楽しんでいこうぜ、というのが、Haikuのスタンスであるようだ。

ちなみに、冒頭で紹介した「日・EU英語俳句コンテスト」の場合、そのルールは、「短い英文詩(3行詩が望ましい)であれば形式は自由です」であり、ものすごくフリーダムな感じなのであった。
(エクソシスト太郎)