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内川聖一(プロ野球・横浜) ボールが大きく見える

2009年8月25日17時38分

写真「楽天の鉄平とは同じ大分出身で同い年。『てっちん』『うっちー』の仲。一緒に首位打者を取れば大分が盛り上がりますね」=福留庸友撮影

 昨季、巧みな打撃技術が花開き、セ・リーグの首位打者を獲得しました。「開眼」した打者が味わう、「ボールが打ってくれ」という瞬間とは。

    ◇

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武内:(握手しながら)よろしくお願いします。手、厚いですね。とても大きい!

内川:よく無駄に大きいと言われます。ハハ。

武内:そんな。マメがいっぱいありますね。

内川:高校生の時からありますが、プロになってからの方ができる頻度が多くなりました。グリップがずれるので、マメの下に水がたまったり、ペロっと皮がむけたりします。今、ようやく固まってきたのもあります。

武内:数え切れないくらいありますね。何人かの選手に手を見せてもらったことがありますが、その中でも一番ありますよ。

内川:バットがズレて、摩擦でマメができるので、本当は出来ない方がいいって言われることもあるんですが。どうしても数を振ると出来てしまうのかなと。

武内:1日、何スイングぐらいしますか。

内川:正確な数は分かりませんが、試合前の全体練習の前に早出練習で30分ぐらい打ち込みしています。自信を持って試合に臨めるようにしています。

武内:首位打者争いのまっただ中ですね。

内川:ドキドキワクワクしています。打率は上がったり下がったりを繰り返すものなので、打率よりもヒットの本数を増やしたいと思って毎日やってます。

武内:8月に調子が良い。

内川:8月4日生まれというのもありますが、汗だらだらという他の人が嫌がるような天気の方が好き。しっかり汗をかいて試合ができるのは、僕にとっては良いコンディション。

武内:特別な練習メニューは。

内川:ティー打撃とかを、全体練習の30分くらい前にやるんですが、それは春から続けることによって、夏を楽に乗り切れる。心や体の準備をしておくことによって、この時期を気を楽にして迎えられるので、日々の積み重ねが大事だと思う。

武内:5月は調子が落ちましたね。

内川:特に気にして、深く考えることはなかった。気持ちを常に変えないように、全打席でヒットを打つようにやっていて、そういう気持ちでやった結果、低い打率になってしまっただけですから。状態がよくないっていうのは分かっていたし、これで体の調子が良くなって、しっかり練習ができて良い状態になれば、もうちょっとやれると思っていた。チーム状態が悪く、自分に集中できないという時期があって、波留(敏夫)コーチに「昨年1年間でお前への評価も変わってきている。チーム状態がこんなだから、思わしくないというのも分かる。でもお前くらいの選手が頑張っていかないと、チームは強くならない。しんどい思いをさせるかもしれないが、そういう面も期待している」と言われた。個人の結果も大事だけど、一塁まで全力疾走するだとか、守備にも走っていくとか、常に真剣な姿、誰もが納得する姿を出していかないといけないと思いました。そういうことを言われるということは、期待されてるいということだと思う。その期待に応えたいという気持ちは一層強くなりました。

●イチローに感銘

武内:WBCではイチロー選手から、たくさん言葉をもらったそうですね。

内川:最初は緊張して話せないかと思ったけど、イチローさんから色んな話をしていただいて、野球人生のターニングポイントになる大会でした。「わざと打球を詰まらせることがある」と言われて、打撃は奥が深いなあ、と。それまでは全部、芯で打つのが良い打者という感覚でしたから。でもイチローさんは「投手がいやらしいと思う打ち方をしたいときがある」という言い方をしていた。それを聞いたときに、芯で打つことがすべてじゃないんだな、と。詰まったり、先っぽだったり、周りから見たら良くない打撃が投手に与える影響が大きいんだな、と感じたときに、バッティングに関する考え方が変わりました。WBCが終わるときに「良い選手だと思うから、今の気持ちを忘れずに頑張れよ」と言ってもらった。これからの野球人生で、この言葉が一番、励みになるだろうという衝撃的な言葉でした。

武内:調子が悪いときに思い出しました?

内川:ありましたね。WBC決勝の後に、イチローさんからバットをもらったんです。そのバットを振るなどして、その言葉を思い出して「前に進む力を止めないように」ということを毎日感じながら試合に臨んでました。

武内:そのバットは今、どこに。

内川:自宅に置いてます。あのー、はじっこに。自分のバットと並べてます。たまに振ってパワーをもらうこともあるので。自分が現役引退したときには、自分のバット一緒に飾らせていただこうと思ってます。

武内:好調なときは、ボールが違って見えるそうですね。

内川:昨年は、打つ瞬間にボールが「打ってください」ってボンっと大きくなったんです。あと、投手が投げるときに、こういうボールが来るから、こうやって打ったらあそこにホームランが入るっていうのが見えるんです。

武内:ラインが見える?

内川:投手に合わせてタイミングを取りますが、そのときにひらめくんです。

武内:ホームランになるところまで見えるんですか。

内川:はい。8月12日のヤクルト戦(神宮)で延長12回2死から鎌田(祐哉)さんのフォークかスライダーを左翼席に本塁打したんですが、あのときはタイミングをとったときにひらめいたというか、イメージが膨らんだという感覚があった。

武内:大きな経験になった?

内川:そうですね。村田(修一)さんが離脱してすぐの頃だった。村田さんがいないから負けたと言われるのは本意じゃないんで、試合を決める場面で大事な一発が打てたのは大きかった。

武内:その日は、カツ丼を食べたそうですね。

内川:杉村(繁)打撃コーチに「この辺、出前取れないですか」って聞いたら、すぐに電話してくれて。カツ丼をおごってもらいました。次の日もカツ丼おごってもらって3安打。杉村さんが「次は天丼だな」って言ったので、「天丼は揚げ物だからフライになってだめでしょう」とか言い合ってました。

武内:暑い日が続きますが、食事で気を付けていることは?

内川:昔は腹いっぱいになればいいという感じだったけど、年を重ねるごとに気を遣うようになりました。これを食べれば疲れが取れるとか、次の日に楽になるとか、先輩方に教えてもらっています。

武内:最近食べて、効いたな、という食べ物は?

内川:この間、チームメートの佐伯(貴弘)さんに食事に連れて行ってもらって「ドジョウスープ」というのを飲んだんですが、次の日はすごく体が軽かった。先輩方が活躍する秘密はこういうところにあるのかな、と思って勉強になりました。

武内:え、ドジョウ?どんな味でした?

内川:普通のスープでしたが、なんか粉っぽい感じはしました。あとは、母親が大分の実家から出てきてくれることが多いので、母の料理は楽しみにしています。いなりずしと大分名物の団子汁ですね。母のありがたさを感じます。家族の存在は支えになっている。周りの人が喜んでくれることが僕の喜び。家族は一番、大切にしています。

武内:自炊は。

内川:ほとんどしないです。面倒くさがりなので。つくるのはいいけど片づけが面倒くさい。

武内:つくるとしたら何を。

内川:えーっと、困ったな。ハハ。あのー。本当に簡単なものです。卵料理だとか、肉と野菜をいためて焼き肉のたれをかけるだとか。

●子どもの目標に

武内:右打者の2年連続首位打者は長嶋茂雄さんや中日の落合博満監督らに続く偉業です。

内川:そういう方々の名前を聞くと、なんか申し訳ない気持ちになる。でも、プロ野球選手になると決めたときから球史に名を刻むというのが目標だった。プロ野球生活終わったときに、その方々と同じところに名前が載っていて、将来、子どもたちから「目標は内川選手」と言ってもらえる選手になりたい。

武内:プレッシャーは。

内川:昨年は初めての首位打者ということで、毎日苦しかった。今年は本当に自分自身の力が試される年になると思っていた。今年、これだけ争った中で取るというのは自信になる。昨年がまぐれじゃないということを証明して一流選手の仲間入りできると思います。なんとか最後に一番でいられるように頑張ります。まだプレッシャーはありませんね。昨年もこの時期は自分のものとは別のもののような感覚で数字を見ていたし。残り10試合ぐらいになるまで緊張とかはなかった。今年は期待されているものが違って、開幕から苦しんだ。その苦しみを払いのけて取るからこそ、価値ある首位打者だと思うので、なんとか最後は一番になっていたいです。

武内:ところで、かなりの出無精だとか。

内川:僕は趣味がないんです。だから、海の近くに住んでいるので、休日は音楽聞きながらTシャツに短パンで散歩したり走ったり。そんで水風呂に入る繰り返しです。周りの反応は気になりますね。カップルとか家族連れが多いなか、むさ苦しい男が1人で走っているから。子どもたちから「内川だ!」って言われますけど、気付かれるのがうれしかったり恥ずかしかったり。

武内:お酒も飲まない。

内川:お酒もたばこもやらないので、ストレス発散の方法がみつけられない。お笑いのDVD見るくらい。出無精なので、よほどの用事がないと家から出ない。電話がかかってきても出ませんし。

武内:電話も無視?

内川:相手は休みの日ぐらいしか連絡とれないと気を遣ってくれているんですが、連絡取れなくて「あいつ生きてるか」ってよく言われます。

武内:大好きなおうちは、引っ越しされたとか。

内川:今年3月に引っ越しました。車が立体駐車場に入らないので、家から7、8分歩いた場所に駐車してます。前は10〜15分かかったので、だいぶ近くなりました。ハハハ。

武内:お気に入りの車なんですか?

内川:特に凝っているわけじゃないんですが、駐車場のために車を買い替えるのもどうかな、と思って。シャワー浴びて家を出るのに、車についたら汗びしょびしょです。

武内:実は、それが好調の秘密、なんて。

内川:そういうことにしといてください。ハハハ。

人柄が表れた大きくて厚い手

〈後記〉 お会いすると、想像以上に体が大きく、握手した手は、これまでの誰よりも大きく厚く、安心感がありました。人柄なのでしょうか。9年前の入団当初は体重が今より約20キロも軽かったそうです。夏場を得意とする今の体があるのは、日々、真っすぐ野球に取り組む姿勢と、時折上京して下さるお母様の料理のお陰なのでしょう。前の家に続き、今年3月に引っ越したマンションも愛車が自宅の駐車場に入らず、約10分歩いた所にとめているそうです。次は車が入る部屋が見つかると良いですね。(テレビ朝日アナウンサー)

 ■インタビューは、25日の「報道ステーション」でも放送予定です。

 うちかわ・せいいち 82年生まれ。大分工高では監督だった父と甲子園を目指すが高3の夏は大分大会決勝で惜しくも敗退。00年のドラフト1位で入団。左かかとの骨が溶ける病気や首の神経障害を克服。184センチ、86キロ。

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