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非合法ビジネス、日本人取り込む――第7部〈犯罪底流〉

2009年10月18日9時55分

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 日本で「チャイニーズマフィアのドン(首領)」と呼ばれた男は、中国・北京の中心部から車で約50分の高級住宅街に住んでいた。中国残留孤児2世らでつくるドラゴンのメンバーに「大哥(ター・コー)(兄貴)」と慕われ、裏社会では「大偉(ター・ウェイ)」の名で知られた佐藤威夫さん(43)だ。昨年1月、20年余を過ごした日本から移ってきた。

 東北部の黒竜江省で生まれ、劉威(リウ・ウェイ)と名付けられた。人民解放軍に入ったが、86年に残留孤児の母と来日した。中国の小学校では、母が日本人との理由で「小日本鬼子、日本に帰れ」と殴られた。歴史の授業後はとくにひどかった。その後日本国籍を得た。清掃会社などで働き、貿易会社をつくった。東京・錦糸町を拠点に様々な「商売」を手掛け、在日華人社会で名が知られるようになった。

 ドラゴンメンバーらと中古車を解体し、部品やタイヤを中国に輸出する商いを始めた。顧客の求めに応じて盗品バイクを扱ったのがきっかけで、違法行為にのめり込む。高級車や貴金属を盗み、パチンコや高速道路のカードを偽造した。「金になるなら何でもやった。すべて日本の裏社会との共犯だ。中国人だけではできないよ」

 90年代に台頭したチャイニーズマフィアのうち、中国東北部出身者のグループを率いた。福建や北京、上海の他グループからもいさかいの仲裁を頼まれるなど一目置かれた。頭角を現すにつれ、弟の「小偉(シアオ・ウェイ)」とともに警察の監視が強まった。一方で、日本にいる中国人留学生を物心両面で支えた。その数は2千人を超える。

 05年に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され、1年間服役した。帰国は逮捕前から考えていた。「もう日本ではもうからないし、つまらない。刑務所生活は今後の構想を練るための長期休暇」と笑う。

 現在は東北地方を中心に、都市再開発や鉄鉱石の採掘と製鉄、株式投資にいそしむ。軍隊時代の友人や支援した留学生がいまの仕事に役立っている。「軍や地方政府、銀行支店の上層部に入った彼らから、あらゆる情報が入る。3億円はもうけた」と話す。

 日本にいるかつての配下に「金をためて中国に戻れ。一緒に商売しよう」と呼びかける。「日本で違法行為するより、中国で合法ビジネスをする方がはるかにもうかる。日本なんてばかばかしいよ」。警備員に守られ、プールとサウナのある豪邸の主は、日本で一緒に暴れた仲間たちとの第二幕を待ち望んでいる。(竹端直樹)

■犯罪ごと変わる集団

 警察が警戒する中国人の「犯罪集団」は2種類ある。同郷者で固まる福建、上海、東北などのグループと、80年代半ばに結成が相次いだ「ドラゴン」だ。

 同郷者グループはマフィアとも呼ばれる。90年代初め、東京・新宿の歌舞伎町で殺人や強盗などの事件を相次いで起こし、その存在が明るみに出た。カネをめぐるグループ同士の争いが大半だった。02年9月には、住吉会系暴力団の幹部が歌舞伎町の喫茶店で中国人に射殺された。報復とみられる事件が相次いだが、暴力団対中国人の抗争にまでは至らなかった。

 その後、各グループは日本に腰を据え、襲う対象を日本人にも広げた。犯罪ごとにメンバーを入れ替え、全国各地でうごめく彼らの実態を警察はつかみきれないでいる。

 ドラゴンは、中国からの帰国者受け入れ施設があった東京都江戸川区などの少年たちがつくった。暴走族になったのは走り回ってけんか相手を見つけるためという。現在は東京や横浜、大阪に7、8グループあり、多くは「怒羅権」の字を当てる。由来についてあるメンバーは「日本の『権』力への『怒』りに、闘う意味もある修『羅』を組み合わせた」という。

 東京の「王子華魂」は華魂をドラゴンと読む。元総長で今も影響力を持つ建築会社経営の張勇(チャン・ヨン)さん(30)は「中華の魂を背負っている」と話す。日本名も持つが国籍は中国のままだ。

 祖母が残留孤児で、7歳の時に両親らと来日した。小学校で上級生らに殴られ、けられた。理由はわからない。建物解体やビル掃除で疲れ切って帰宅する両親に、いじめのことは言えなかった。「いつか仕返しする」との思いは中学で晴らした。からむ相手を倒すと、いじめは止まった。

 ドラゴンには中学2年で入り、16歳でトップの総長になった。けんかに明け暮れ、負けた記憶がない。現在のメンバー約200人のうち9割を日本人が占める。強さにあこがれて集まるという。ここでも日中融合が進む。

■外国人刑法犯で最多

 「中国人かな、と思ったら110番」と書いた防犯チラシを00年に警視庁が作った。当時は、特殊な工具で解錠して住宅に忍び込むピッキング盗が相次いでいた。中国人の犯行が多かったため、住人への注意喚起が目的だったが、配慮に欠けるとの指摘を受けてすぐに回収した。中国大使館も外務省に抗議した。

 その年、全国で摘発された中国人の犯罪は1万6784件だった。5年前の95年の2倍超で、外国人全体の54%を占めた。昨年は1万2430件で、比率は4割に落ちたものの国・地域別の首位は変わらず、2位ブラジルの2.6倍だった。犯罪別では最近、再び侵入窃盗が目立つ。昨年の6137件は外国人全体の7割を超え、ピッキング全盛期より1千件多い。「低金利で預貯金を金融機関に預けず、自宅に置く人を狙っている」と捜査幹部はみる。

 盗みや殺人などの刑法犯罪で昨年、2764人の中国人が検挙された。全外国人の約4割で、2位ブラジルの3.4倍である。日本人は約33万人だった。外国人登録者数(台湾、香港を除く)、人口を分母とする割合は中国0.45%で、日本の0.26%の約1.7倍だ。ブラジルは0.26%だった。

 日本の少子高齢化と人口減に伴う人手不足の解決策として、外国人労働者の受け入れ拡大が議論されている。だが犯罪への不安は根強い。単純労働者の受け入れに反対する人の理由の1位は「治安悪化のおそれがある」(74%、04年内閣府調査)だ。一部中国人の犯罪も影響していよう。(編集委員・緒方健二)

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 「在日華人」は日本で発行されている中国語の週刊新聞「中文導報」の紙面とホームページ(http://www.chubun.com/)に転載されます。

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