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任期制自衛官「超狭き門」 転職難で残留、新人枠を圧迫

2010年2月9日8時27分

写真射撃の教育を受ける新隊員=陸上自衛隊第1師団ホームページから

 18〜26歳を対象に2〜3年の任期付きで採用される「任期制自衛官」への道が「超狭き門」になっている。厳しい雇用情勢を反映し、任期を満了しても民間へ転職せず部隊に残る自衛官が増え、新規採用枠が圧迫されているためだ。2009年度の採用予定者数は20年前の1割強にまで激減。不況のあおりで第一線の若手の層が薄くなることに、防衛省では懸念の声が出始めている。

 任期制自衛官は、本人が希望すれば任期終了後に任期を更新することができる。好況時には満了後に民間に転じる隊員が増えるが、民間の雇用情勢が悪化すると隊に残る隊員が増える。景気の動向に左右されやすいのが特徴だ。

 09年度に防衛省が計画している任期制自衛官の採用予定者数は約2550人。08年度当初の採用計画と比べて30%程度、20年前の1989年と比べると約12%にとどまる。

 防衛省は08年度、任期制自衛官の採用試験の受験者約2万300人のうち、約8800人を「仮合格者」とした。

 だが、同年秋に米大手証券が経営破綻(はたん)したリーマン・ショックの後、採用内定取り消しや非正規社員の雇い止めなど、民間の雇用情勢が急速に悪化すると、隊内では満了後も再度任期を継続する隊員が続出。当初計画の半分程度の約4600人しか採用できなかった。任期満了を迎える退職見込み者の数から採用計画を立てていたため、合格したのに採用されない「入隊保留者」が約520人も発生する異常事態となった。同省幹部は「厳しい民間の就職事情をみて『こんなときに辞めて就職活動をするよりは』と残留を選ぶ隊員が多いことが背景にあるのでは」とみる。

 このため09年度の採用計画は慎重にならざるをえなくなった。倍率が08年度の4.3倍を上回るのは確実とみられている。

 任期のない一般的な自衛官も倍率が08年度時点で約4倍といい、防衛省によるとやや高めの傾向という。

 自衛隊は有事に備える実力組織であり、災害派遣などの際には厳しい環境の下での任務が求められる。若く体力に優れた隊員が一定割合必要だ。任期制自衛官は、部隊の第一線の人材を確保する制度として重要な役割を果たしてきた。

 自衛隊では、大型特殊運転免許や自動車整備士、ボイラー技士、電気工事士など、部隊での業務に必要な各種資格を取得できる。応募者にとっては、入隊中に取得した資格を任期後に民間企業への転職に生かせるのが利点だった。

 「生涯の就職口ではなく、期間限定なので若い隊員を確保しやすかった。隊員も様々な特技を身につけられ、満了後に民間に転職するときにも付加価値がつく。双方に利点がある制度だ」と、陸上自衛隊のある幹部は説明する。

 バブル期には、全自衛官の約30%にあたる7万5千人が任期制(89年度)。2期目に任期を継続した自衛官は4割(90年度)程度だった。

 ところが、バブル崩壊後には任期後も隊に残る道を選ぶ人が急増。93〜02年度の間に70〜80%に及んだ。こうして「辞めない任期制自衛官」が徐々に増えていったと防衛省は分析している。

 バブルのころには盛んだった、若い隊員が2〜3年周期で大量に入れ替わる「新陳代謝」が鈍れば、自衛官の高齢化は避けられない。01年度から08年度にかけて、「士」の階級の平均年齢は21.9歳から22.5歳、「曹」クラスは同じく36.9歳から37.3歳へと、じわりと上がった。

 最後の望みをかけて2010年度予算の概算要求に盛り込んでいた増員要求も、行政刷新会議で「見送り」の判定が出され、実現しなかった。

 防衛省の担当者は「現在の景気では、任期を満了した隊員が辞めない傾向は当面続くだろう」と述べ、隊員の高齢化への対応策がない現状に、危機感を募らせている。(土居貴輝)

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