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強い「篤姫」女性つかむ 大河ドラマ高視聴率

2008年7月24日

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 NHK大河ドラマ「篤姫」が人気だ。薩摩藩から徳川将軍家へ嫁ぎ波乱の生涯を送った幕末の女性を宮崎あおいが演じる。20日までの平均視聴率は、23.4%で大河では過去11年間で最高だった「毛利元就」(97年)の年間平均視聴率と並んだ(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。幕末維新ものは当たらないと言われてきた大河で、若い女性ファンを巻き込んでの高視聴率だ。(大室一也)

◆「幕末もの」なのに高視聴率

 29回(20日)は、夫で第13代将軍徳川家定が死に、落飾して天璋院となった篤姫と、側室のお志賀が向かい合う。涙ぐむ篤姫に「なぜお泣きになるのでございますか。御台(みだい)様は公方(くぼう)様(家定)に愛されたではありませんか」とお志賀。まるで現代の恋愛ドラマを思わせるハイライトシーンだ。この回の視聴率は24.3%、家定と養父・島津斉彬が亡くなった28回は番組最高26.2%を記録した。

 篤姫役の宮崎について、当初は「アイドルのようで江戸時代の姫らしくない」との声もあったが、「ずば抜けた美人だと距離が出てしまうが、若い人が見ても親しみがもて、お年寄りからもかわいらしく思われる存在」(時代劇専門チャンネル前編成部統括マネージャーの小野田光美さん)と評価が高い。

 宮崎以外にも、若い視聴者を引きつける旬の俳優を配した。準主役で篤姫に思いを寄せる、のちの藩家老・小松帯刀役にモデル出身の瑛太、家定役に小劇場で人気が出た堺雅人。今後は坂本龍馬役で玉木宏が、皇女和宮役で堀北真希も登場する。

 NHKは家族で見られるホームドラマ化も狙った。篤姫は、病弱な実父・忠剛と、しっかり者の母・お幸の愛に包まれ天真らんまんに育ち、嫁いだ後も、家定と布団を並べて仲むつまじく会話を交わす。大河でおなじみの合戦シーンも、子どもも見やすいように、刀や鉄砲を手に戦う場面は最小限に抑えた。

 「女性が強いことが、今の時代に合っているんじゃないかと思います」。第14代将軍家茂を演じる松田翔太は、東京・増上寺で家茂の墓参りをしたあと、高視聴率の理由を聞かれてこう答えた。

 埼玉学園大学の服藤早苗教授(女性史)が講演先などで「篤姫」を見ているかを聞くと、「はい」と答える人の7〜8割は女性。昨年の「風林火山」と正反対の傾向が出る。

 たとえば「毛利元就」の場合、当時の史料、原作の永井路子の小説『山霧』ともに出てくる女性はみな気丈だが、「ドラマになると、史料や原作ほど女性の力強さは描かれていなかった気がする」と服藤教授。だが「篤姫」は、宮尾登美子の原作以上に女性が自己主張しているように映る。ちなみに脚本(田渕久美子)も女性。

 「このドラマは女性の本質的な強さをテーマに描いている」と佐野元彦チーフ・プロデューサーは言う。篤姫も、いざとなったら豪胆にふるまう女性として描かれる。しゅうとめと対決、家茂の嫁の和宮との確執を乗り越え、江戸城無血開城のために大奥の陣頭指揮を執るに至る。

◆尚五郎軸に展開工夫

 幕末維新ものの大河が当たらないと言われるのは、刻一刻と政情が変化し、敵味方の離合集散が頻繁で理解しにくいから。NHKは、分かりやすく政局を描こうと薩摩藩士の肝付尚五郎、後の家老・小松を重要な役にした。時代考証担当の原口泉・鹿児島大学教授(日本近世史)の推薦によるが、知名度は篤姫以上にいま一つの人物だ。

 小松が篤姫と会った記録は残ってないが、篤姫と年の近い天保6(1835)年の生まれ。肝付家は藩門閥社会の一員で、篤姫と社交の場などで会ったとしてもおかしくはない。また、江戸生まれの斉彬が初めて薩摩入りしたのも天保6年だった。

 そこで、篤姫と尚五郎が斉彬から色違いのお守りをもらったり、2人で碁を楽しんだりといった「恥ずかしいくらい青春ドラマ化した」(佐野さん)話が展開できた。登場人物の知名度が低いと視聴率が低くなる傾向があるが、今回はそれを逆手にとって物語を膨らませた。

 「この小松を瑛太が演じたことが、若い女性や歴史に興味がない層を取り込んだ」と原口教授。「知る人ぞ知る」人物を出したことで、歴史好きも引きつけた。篤姫は今後も大奥を出られないが、政局の舞台が京都に移っても、小松を軸に分かりやすく物語を展開できる。

 自宅に天璋院の位牌(いはい)をまつる御三卿・田安徳川家第11代当主の徳川宗英(むねふさ)さんは「みなさん全く名前をご存じないはず」の篤姫を主人公にした大河の人気ぶりを「本当に不思議」と言う。

 「視聴率が上がるとは私も思ってもいませんでした。ただ篤姫は魅力ある人だったと思います。これから家茂が将軍となり、和宮が京都からみえて、江戸城開城まで行く。ここまで来ると、『先を見なければならない』という人が増えるのではないでしょうか」と期待する。

    ◇

〈NHK大河ドラマ〉 1963年、幕末の大老・井伊直弼が主人公の「花の生涯」が最初で、「篤姫」が47作目。幕末維新を描いた作品は「竜馬がゆく」(68年)、「勝海舟」(74年)など多数。90年代以降の幕末維新作品の平均視聴率は、「翔(と)ぶが如(ごと)く」(90年)が23.2%、「徳川慶喜」(98年)が21.1%、「新選組!」(04年)が17.4%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。

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