クラン艦《マルサガン》により競技惑星クールスへと運ばれたベッチデ人三戦士に再び迫る邪悪な反体制組織「兄弟団」の魔手を描く大長編ＳＦスペース・オペラ宇宙英雄ローダン・シリーズ第５１３巻。本巻の執筆者は貴重な紅一点の女流シドウです。特殊な事情により難しい表情を浮かべるマラガンと彼を険しい顔で見つめるファドンとスカウティの冗談や笑みの欠片もないカバー・イラストには誠に心が痛みますね。背景のクラン人が誰かを見分けるのは至難の業でみんな同じ顔に見えるだろうなとは思いますが、きっと彼は伝統武術の達人サイラムなのでしょうね。それからここに来て漸く読書の遅れを取り戻しつつありますが、ローダンの良さは少々遅れてもストーリーにそれ程の劇的な変化がなく安心して読み進められる所だなと改めて思いましたね。
『競技惑星クールス』マリアンネ・シドウ著：クランドホル公国主催の競技会ルゴシアードの開催を前にして盛り上がる惑星クールスの都市クールス＝ヨトを案内されていたベッチデ人三人は、ターツ種族の‘マルタ＝マルタ’ゲームの達人ドエヴェリンクと共に兄弟団により白昼堂々と誘拐されてしまうのだった。本編では何とも魅力的な大舞台「スーパーゲーム」への出場を賭けた予選ルゴシアードという設定は、日本の人気ＴＶ番組「サスケ」や熱血スポ根ドラマを連想させて健全で素晴らしいなあと胸が躍るのですが、やはりそうは問屋が卸さずにクランの拠点惑星には何処にでもいるのだろう兄弟団の暗躍が始まるのですね。何と常軌を逸した「クアドラプル（あまりにも難しい言葉すぎて日本語には永遠に定着しそうもないですね）・スプーディ」に加えて執拗なヒュプノ攻撃には、さすがに強い我らのマラガンも陥落してしまうのか！まだ狂い死にしないだけでも御の字の恐るべき惨い仕打ちで、それに耐えるだけでも肉体的に偉いのですが、今はとても無理で困難でしょうけれど何とか頑張って（人類の底力を発揮して）悪辣な奴らに反撃して欲しいものですね。『有力候補』マリアンネ・シドウ著：兄弟団の巧妙な策略により敵のアジトからの脱出に成功したベッチデ人三人だったが、ファドンとスカウティはルゴシアードへの参加に向けて人が変わった様に傲慢且つ異常な態度を取るリーダーのマラガンに不審を抱きつつも彼を助け支援するのだった。本編ではうーん、兄弟団のあまりにも無慈悲な残酷さに気分が悪くなりますね。サイラムと弟子のウィスキネンへの襲撃は前回のあのハンター、バルクハーデンの悲劇を思い出さずにおられませんね。ローダン・ファミリーの場合には苦戦しても大勢の中から必ずや優秀なキャラが出て来て最後に悪を滅ぼしてくれるだろうという安心感が何処かにあるのに対して、ベッチデ人三人は孤立無援で味方の方のクラン人達もあまり頼りにならない誠に心細く過酷な状況ですので半端でない緊迫感に息苦しい気持ちが込み上げるのですが、まあ若い彼らの持つ無限の可能性を信じて今は唯じっと見守るしかありませんね。「ああ、マラガンよ、さぞや辛く苦しいだろうが、どうかがんばってくれ！」と心の底から祈りましょう。
連投となる本巻の翻訳者、嶋田洋一氏のあとがきは一九八五年に氏が初参加された日本ＳＦ大会「ＧＡＴＡＣＯＮスペシャル夏祭り」から３０年後に当たる去年の大会での回顧イベントの模様や楽しさ満載の企画の数々を紹介されています。卑劣な兄弟団の意のままに操られるサーフォ・マラガンは精神的にも肉体的にも耐え切れるのか？正義の側の誰かが現われて救いの手をさしのべてくれるのか？大御所二人フォルツとダールトンの豪華なリレーを大船に乗った気持ちで心行くまで楽しみたいと思いますね。
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